第30話 宣戦布告
僕が右手を高々と挙げると、事前の打ち合わせ通り、城壁上から降り注ぐ矢の雨が止んだ。
「たかみねぇぇぇぇっっ!!」
だが、僕もあえて大澄の攻撃に正面から向き合った。
《防御障壁》を解除して、大澄が放った《衝撃刃》を待ち受ける。
「はぁっ!」
手にした《
「《防御障壁》を展開するまでもないね。そんなヘロヘロな攻撃なんか、簡単に
バカにしたような口調で、僕は大澄を
悔しさの余り、顔を
そんな彼の後ろで
「大澄さん、ダメっす! ここは敵のど真ん中ッスよ!」
そう叫ぶと同時に、國立は大澄と自分自身を守るように《防御障壁》を展開する。
今まで守っていた《
だが、勝手に《防御障壁》で
「余計なことをするなっ!」
「──ぶふっ!?」
大澄の拳が國立の頬にめり込む。
「これは、俺と
國立の《防御障壁》が消滅し、大澄は再び大剣を構える。
あわせて、僕も《幅広の剣》を両手で握った。
「今、僕が合図を出せば、大澄君たちに向けて矢の雨を降らすこともできるんだけどね」
それを防ごうと《防御障壁》を展開しても、僕はそれを破壊することができる──
「──それで、この戦いも終わっちゃうんだけど」
僕は、わざと
「でも、それじゃ、あっさり終わっちゃって面白くないよね。だから、あえて、大澄君の自己満足に乗ってあげるよ。それに──」
──それに、《リグームヴィデ王国》や《
その
「さあ、はじめようよ。それとも、もしかして
○
この時点で《
城外ではフローラたちの《
その双方が押し合いへし合いするところへ、さらに矢と炎が襲いかかり、死体の上に死体が積み重なっていく。
後に判明したことだが、この戦いにおいて《アレクスルーム王国》王城奪還に派遣された王国軍が失った兵力は八割以上にも上ったという。
「フローラクス殿下、ラクスフルック殿下、ご無事でようございました!」
城壁上で指揮を
「おう、将軍ではないか。持ち場を離れて大丈夫なのか?」
「城壁上の指揮は部下に任せております。この
城外には、まだ少数ながら、
フルックが、ふうっと息を吐き出した。
「将軍の言う通りかもしれませんね。こちらの軍の
さすがに《魔法の息吹》を吐きまくって疲れた、と、肩を叩くフルック。
将軍が
「両殿下のご活躍、とても感服いたしました。《
「まぁ、そういうのはおいといて、じゃ」
つっけんどんに突き放すフローラだったが、その頬は
「この戦いの一番の功労者は、今、どうしておるのじゃ?」
イオランテス将軍がコホンと
「そちらも、そろそろ決着がつく頃と思われます」
「それじゃ、その瞬間を観に行っちゃいましょうか、姉上」
フルックがフローラの手を取った。
「我らが《
○
──ガキィィッ!!
耳障りな音を立てて、大澄の大剣が吹き飛んだ。
悔しさに満ちた表情で睨みつけてくる大澄に、僕は、あえて冷たい声で応じる。
「あれ、剣を拾いに行かないの? えっと、これで七回目……いや、八回目だっけ? まだまだ、つきあってあげるよ。それとも、負けを認めて命乞いでもする?」
かつて、ボクシング部室でいじめを受けたとき、これと逆のシチュエーションがあったな、と思い返して、僕は思わず苦笑してしまう。
すると、その態度にカチンと来たのか、大澄は地面に落ちた剣へと飛びつき、満面の怒りを浮かべて、僕に向かって飛びかかってくる。
──ガキィン!!
もう何度目か、一刀のもとに、僕は大澄の大剣を弾き飛ばす。
さすがに、体力を消耗してきたのか、おぼつかない足取りで大澄は大剣を拾いに行く。
「……調子に乗るのもそろそろ終わりにしようや」
剣を拾い上げた大澄は、突然
「そうか、わかったぜ、鷹峯、てめぇ、人を殺せねぇんだろ。っつーか、俺たちクラスメイトを殺す覚悟ができてねぇな」
「……」
「そうだよな、この異世界の人間や魔族ならともかく、現実世界の仲間の俺たちクラスメイトを殺すなんて、まさに殺人だもんな!」
大剣を振りかぶって高笑いする大澄に、僕は問い返した。
「そう言う大澄君はどうなのさ」
「ああん? 何言ってんだよ、ここは《異世界ノクトパティーエ》だぞ。ここでてめぇを殺したって、なんの問題もねーよ。法律も警察も裁判所もないからな──っ!?」
──トスッ。
「──あ!? ぐぶぁっ!」
次の瞬間、音を立てずに踏み込んだ僕は、手にした《幅広の剣》を大澄の胸へと突き刺していた。
血に濡れた
一拍遅れて、口から血を吐き出す大澄。
「うわあああああああっ!?」
大きな悲鳴を上げたのは、少し離れた場所にいた國立だった。
「て、てめ……ぇ……」
苦痛に顔を歪めて睨みつけてくる大澄に対し、僕はキッと視線を返す。
「覚悟とか、オマエが言うな」
僕はすでに、《ノーヴァラス》への
もちろん、そのことに対して、
でも、それ以上に、失われた《リグームヴィデ王国》や《
僕は、その想いのために戦うと決めた──決めていた。
そして──
「クラスメイトだって? アイツらこそ、この動乱の諸悪の根源じゃないか!!」
確かに、同じ現実世界の住人だったアイツらを手にかけることに抵抗がないと言ったら嘘になる。
だが、この醜い戦争を終わらせるために必要なら、そして、無念の内に殺されていった人たちの恨みを晴らすためなら──僕は自らの手を汚すことを
──そう、決めている。
「お、おまえ、自分が何をしたか、わかってんのかよ!」
声を上げたのは國立だった。
「はやく大澄さんから剣を抜けよ! 大澄さん、しっかりしてください、今、治療しますからっ!」
もたつきながらも、治療用の《杖の
だが、僕は大澄の身体から剣を引き抜き、そのまま、國立の手から《神器》を弾き飛ばした。
「ひぃっ!?」
國立が腰を抜かして、地面にへたり込む。
その鼻先に大隅の血に濡れた《幅広の剣》を突きつけた。
「オマエは見逃してやる。だから、みんなに伝えろ。僕は《
本当は勇者間で共有されている《遠距離思念通話》で、堂々と宣戦布告するつもりだったのだ。
だが、僕への情報流出を警戒したのか、早い段階で、こちらからアクセスしようとしても、なんの反応も無い状態が続いている。
「もしかして、鷹峯……おまえ……オレたちを全員殺すつもりなのか……」
「自分たちがやったこと、そして、今やっていることを棚に上げて、良く言うね」
「お、オレたちは《勇者》なんだぞ!」
逆上したのか、國立は勢いよく立ち上がった。
「この世界を救うために戦う《勇者》なんだ、オレたちが正義なんだっ!」
正義の名の下になにをやっても許されるんだ、と、國立は言い張る。
それに対し、僕は、小さくため息をついてから、冷静に言い放った。
「──オマエたちが勇者というなら、僕は魔王にでもなってやる」
僕の背後で、大きな炎が舞い上がる──
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