第17話 感情の向く先
「
「それがまさか、高校になって、また顔を合わせただけでもウザかったのに、俺に恥をかかせやがって──
◇◆◇
織原先生──《
「織原 壮史です! 短い期間にはなりますが、全力で頑張りますのでよろしくお願いいたします!」
俳優やモデルといっても良い容姿と、活力があるハキハキとした態度もあいまって、女子生徒たちの間から
実は、この織原という教育実習生は、ただのイケメンではない。
──最年少ボクシング世界王者記録保持者。
まさに、テレビやネット動画などで取り上げられるレベルの有名人なのだ。
青楓学院高校OBで、自分たちの先輩でもあるという気安さもあり、休み時間になると生徒たちが一斉に織原先生の元へと詰めかける。
「先生、次の試合はいつなんですか?」
「担当は理科系ですよね、ボクシングチャンピオンなのに、なんで学校の先生になろうと思ったんですか?」
「先生……その、彼女いるんですか?」
織原先生を中心に盛り上がるクラスメイトたち。
教室の外の廊下には他のクラスの生徒たちも集まってきている。
そんな
織原先生に興味がないと言ったら嘘になる。
僕も、先生には訊きたいことが山ほどある。
でも、それは、みんなとは違う──
──六年前の《都立青楓学院高校生徒集団失踪事件》。
織原先生は、その当事者の一人だ。
僕はどうしても、詳しい話を聞きたかった。
でも、さすがにこの生徒たちの群れを掻き分けて近づく気にはなれない。
今も、ボクシング部に所属している大澄が、クラスメイトたちを押しのけるように身を乗り出し、興奮した様子で織原先生に話しかけようとしている。
「すまない、ちょっと待ってもらえるか」
ふと、織原先生が大澄を制して、クラスメイトたちの輪から離れた。
そして、まっすぐ僕の方へと歩いてくる。
「よ、ジムにはまだ通っているのか?」
「え──?」
まさか、自分のことを覚えていてくれてるなんて……僕は胸の奥が熱くなるのを感じた。
僕は中学生の頃、学校に行けなくなったことがある。
その間、勉強は自宅でネットを利用した通信教育で学んだが、身体を動かす体育の授業の代わりとして、近所のボクシングジムのフィットネスコースに通わされていた。
そのボクシングジムで、僕は世界王者になった織原選手と、何度か短く言葉を交わす機会があったのだ。
「──あ、いえ、ボクシングジムは高校に進学するときに辞めちゃってて」
「そうか残念だな。結構、筋は良さそうに見えたんだが……特にここが」
そう言って、先生は僕の胸を軽く拳を当ててから、
だが、僕はその時気づいてしまった。
大澄がすごく険しい表情で、僕のことを
「あ……」
僕は
そして、
◇◆◇
「──結局、
僕は低い声で
「最低だね」
「そうかもな……だが、そんなことはもうどうでもいいんだ」
一歩ずつ、距離を詰めてくる大澄。
僕も《
剣の使い方は、《勇者の記憶》とともに身についていた。
僕は、自分自身が冷静であることを再認識する。
大澄が勢いよく踏み込んできた。
「この世界、この状況なら
──ゴウッ、ギャシャンッ!!
唸りを上げて叩き込まれてくる
「やっぱり、本気で僕を殺すつもりなんだ。ボクシングのリングでボコるだけじゃ満足できないってこと?」
「そんなことはないけどな! リングの上で弱いヤツや抵抗できない相手を叩きのめすのも悪くないぜぇ!」
「……ボクシングに対する
力任せに次々と叩き込まれてくる大澄の大剣を、僕は剣で力を逸らすように弾いていく。
織原先生との一件のあと、僕は大澄と取り巻きの生徒たちによって、人がいないボクシング部室へと連れ込まれた。
そして、ボクシングの練習試合とかなんとか適当に
対面の赤コーナーに上がったのは、上半身裸でトランクスを身につけたボクサー姿の大澄。
試合開始のゴングが鳴らされるや否や、突進してきた大澄は、まともに防御もできない僕を激しく打ちのめしていく──
「大澄、なにか勘違いしていない?」
僕が最低限の動作で剣を振り上げた瞬間、音を立てて大澄の大剣が宙に舞う。
「なぁっ──!?」
突然の僕の反撃に、驚きの叫びを上げる大澄。
僕は
「あのリングの上の時みたいに、僕が一方的にやられるだけだって、勝手に思い込んでない?」
「くっ……!」
「鷹峯の
「今、この世界では、鷹峯──てめぇが悪役なんだよ」
その言葉を受けて、坂之上が一歩進み出た。
「鷹峯、今ならまだ間に合う、罪を認めて戻ってくるんだ。あたしたちも弁護するから!」
「そうよ、鷹峯くんは悪の《魔族》に取り憑かれてるだけなのよ、はやく正気に戻って!」
さらに、玉澤が声を上げるが、僕は、その内容から彼女たちとの間に深い深い亀裂が走っていることに気づかされた。
「ねえ、さっきも言ったけど、本当に《魔族》は悪なの? 騙されているのは、そっちじゃないって、どうして言い切れるの?」
だが、予想通りというか、坂之上と玉澤は、なにかかわいそうなものを見る目つきで、僕に武器を向ける。
國立が、不敵な笑みを浮かべる大澄に声をかけた。
「こりゃダメっすね、話が通じない。俺たち《魔族》と戦うために召喚された《勇者》なのに、話にならないッスよ」
再び、大剣を構え、大澄は他の三人とともに僕を包囲しようとする。
「俺たちは正義の勇者様だ、
その叫びとともに、四人は一斉に飛びかかってくる──!
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