第13話 フローラとフルック
「いてててて……」
「むぎゅう……」
樹の上から落ちてきたのは二人、ご丁寧にそれぞれ僕とクラヴィルを下敷きにして目を回している。
「──って、誰だ!?」
唐突な展開に油断してしまったが、僕はすぐに我に返って横に置いていた剣へと手を伸ばす。
だが、その一連の動きの中で、僕の胸に柔らかい何かが押しつけられた。
──ふにっ
「ふにっ?」
「え?」
それは、今まで見たことがないレベルの美少女だった。
年の頃は、僕やクラヴィルと同じくらいだろうか。
だが、ひとつ
「てか、スバルばっかずーるーいー!」
その声に視線を向けると、これまた同じツノを生やした
「なんでスバルの方は女の子で、こっちはヤローなんだよー! 不公平だ! やり直しを要求する!」
「いや、そーいう問題じゃないだろ……」
完全に
「あの……えっと、大丈夫?」
「う、うーん……」
ようやく意識を取り戻したのか、ぼーっとした状態で身体を起こそうとする少女。
だが、ふと身体のバランスを崩し、再び僕へと倒れ込んでくる。
とっさに剣を握った手と反対の手で支えようとしたのだが、その手が押さえたのは彼女の胸だった。
──ふにっ
「ふにっ?」
瞬間的に覚醒したのか、顔を上げた美少女が
「──じゃなくてって、いや、こ、これは不可抗力というヤツで、ラッキースケベとか、いや、違って!?」
「きゃあーーーーーっ!」
──バシィーンッ!!
目の前の美少女が頬を真っ赤にして、僕の頬を思い切り叩いてきた。
「ぶふっ!」
僕は避けることもできずに、きゃーきゃー言いながらさらに殴りつけてくる彼女を、必死になだめようと声をかける。
「ちょ、ちょっと待った! 落ちついて! とりあえず話をしよう、いや、話しましょう!」
○
「いやー、なんかいろいろ……すみません、はい」
竜のツノを生やした美少年くんが、僕とクラヴィルにむかってペコペコと頭を下げる。
その横では、同じくツノを生やした美少女さんが、赤く染めた頬を
「あ、まあ……こっちにも過失がなかったというわけでもないから……」
赤く
「そう言ってもらえると助かります。あ、僕はフルックといいます。そして、こっちが姉の──」
「フローラじゃ! おぬし、わらわのむ、胸を触るなど、本来であれば
美少年くんことフルックが、美少女さんことフローラの口を後ろから塞ぐ。
「姉上がしゃべると事態がややこしくなるので、しばらく黙っていてください」
「黙れとは、姉に向かって言うセリフか!? おまえはいつもそうだ、弟の
激しく言い争いを始める
その様子に気づいたフルックがコホンと小さく
「お見苦しいところを見せてしまってすみません。で、重ねて大変
「はあ……」
「その、お食事を分けていただくことはできないでしょうか。その……ここ数日間、水しか口にしていないもので──」
そう言うフルックの語尾に、フローラのものと思われるお腹の音が被さった。
再び気まずくなる空気。
僕は気づかなかった振りをして、
「あ、そうですね。こちらこそ気づかずにすみません。僕たちと同じモノで良かったらどうぞどうぞ、どうせなら一緒にお話しながら食事にしませんか?」
「お気遣い感謝いたします、それではお言葉に甘えて──って、姉上! いい加減に機嫌を直してくださいっ!」
○
「お見受けしたところ、みなさんは《人間》の方々ですよね。しかも、大人もいないご様子。子供たちだけで《
熱々に溶けたチーズをパンと一緒に頬張りながら、フルックが素直な疑問を投げかけてきた。
僕は言葉に詰まる。
どこまで話していいものだろうか。
僕の視線に気がついたクラヴィルは「スバルに任せた」と放り投げてくる始末。
少しだけ考え込んだあと、僕は一定の範囲内で素直に話すことにした。
このふたりの天然っぷりは演技には見えなかったし、少なくとも僕たちを
「僕たちは《アレクスルーム王国軍》に攻められた《リグームヴィデ王国》から避難してきたんです」
「ほう、人間に襲われた人間が
子供の一人が差し出してきた水を受け取って勢いよく飲み干してから、フローラは少し皮肉めいた視線を僕に向けてきた。
さすがに僕もカチンと来たのだが、反論しようと腰を浮かせる前に、フルックが穏やかな口調で割り込んでくる。
「姉上、《リグームヴィデ王国》は《ノーヴァラス》と同じように人間と魔族が共存している国──いわば、我々《魔帝領》の
「うむ……」
フローラは気まずそうな表情で、そっぽを向いてしまう。
そんな姉に苦笑したフルックが、僕に頭を下げた。
「お気を悪くされたら申し訳ありません。ただ、姉も
「なんじゃ、それは!?」
「え? 違うんですか?」
再び
「ええと、それでフローラさんとフルックさんたちは、どうしてこんなところにいらっしゃったんですか?」
「フルック、でいいですよ。あと、そんなに
そのフルックの言葉に、クラヴィルは素直に
「んじゃさー、フルックとフローラちゃんは、なんでこんなとこにいたの? ここって、地元の人しか使わない
「フローラ……ちゃん!?」
遠慮のないクラヴィルの物言いに、またまた顔を真っ赤にするフローラだったが、その頭に
「僕たちは《イオランテス
僕とクラヴィルは思わず顔を見合わせてしまった。
「《イオランテス将軍》!」
「《ドラクラヴィス砦》!」
フルックが驚いたように目を見開く。
「お二人は《イオランテス将軍》をご存じなのですか?」
「ご存じ──というか、僕たちも《イオランテス将軍》に会うために、《ドラクラヴィス砦》へと向かっているところなんです」
自分たち一行がリオンヌさんという《
すると、今度はフローラが身を乗り出してきた。
「リオンヌじゃと!? 最近、姿を見せなんだと思うたら、《リグームヴィデ》なんぞにおったのか! それで、リオンヌはそのあとどうしたのじゃ?」
「それが……《リグームヴィデ王国》の生き残りの人たちの安全を確保してから合流する、とだけ」
「うむぅ……リオンヌの助けもあれば心強いのじゃが。人間どもの
フローラが腕を組んで低く唸る。
さすがに、発言の終わり部分をスルーできずに、ツッコもうとした僕だったが、フルックの爽やかな笑みに
「気を悪くしましたよね、すみません。姉は
「なんじゃ、それは」
「ただ、
そこで提案なのですが──と、フルックが続けた。
「これから《ドラクラヴィス砦》に向かうにあたって、僕たちも同行させていただけないでしょうか?」
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