第9話 見捨てることなんてできない
僕たちは
リオンヌさんが示してくれたこの先のプランは、このまま直接《
《魔帝領》の国境守備を
「──うーん、これはちょっと予想外だったかな、悪い方向に」
《精霊樹》から《アレクスルーム王国軍》を避けて
住人たちは逃げてしまったあとなのか、もぬけの
そこへ、付近の
髪の毛を
僕もリオンヌさんの対面に座り、続いて、子供たちも周りに集まってきた。
「悪い方向?」
「ああ、悪い方向」
「敵──《アレクスルーム王国軍》に動きがあったとか?」
「そんなところだ。あいつら《魔帝領》との国境地帯に軍隊を集結させている」
リオンヌさんは地図を指し示しながら、わかりやすく僕たちに説明してくれる。
「そもそも、今の段階で《アレクスルーム王国軍》が国境地帯に侵入してくるとは思っていなかった。まさか、このタイミングで《魔帝領》へ
なので、このまま最短距離で《魔帝領》の《ドラクラヴィス砦》へ向かうと、《アレクスルーム王国軍》本隊に
そう
「
「今は一日でも早く《魔帝領》へ駆け込むべきだと考えていたが……そうだな、確かにスバルだけならともかく、この子たちを乗せた馬車で国境地帯を突破するのは無謀すぎるか」
リオンヌさんは地図の上で指を走らせた。
「……それじゃ、ここの
「そんなルートがあったんだ、オッケー、了解。といっても、僕には道がわからないから、結局リオンヌさんに頼るしかないんだけどね」
「ああ、大丈夫だ。任せておけ」
僕だけじゃなく子供たちも安心させるように笑いかけて、リオンヌさんは地図を丸めて
「そうと決まれば、動くのは
◇◆◇
「おい、
《魔帝領》との国境付近に陣を構える《アレクスルーム王国軍》。
その中央部にある大きな
イライラとした様子で動き回る大澄を、他の十数人のクラスメイト──《勇者》たちが遠巻きに見ている。
大澄を含む全員が、《
「っていうかさ、鷹峯が裏切ったって話、そもそも本当なん?」
男子生徒の一人が疑問の声を上げると、集まった生徒たちの間に笑いが漏れる。
「鷹峯君がそんなことできるなんて、正直考えられないんだけど」
「そうそう、いつもクラスの隅で目立たないようにしていたアイツが、俺たち全員を敵に回すなんてできっこないって」
「
「だよなー」
「それよりも、今は《魔族》の
そう男子生徒が声を上げて、武器──《神器》を掲げてみせると、賛同の声で盛り上がる。
そのことが大澄の
「どいつもこいつも、目の前の戦場に浮かれやがって」
だが、そう
「まぁいい、とりあえず鷹峯のことは俺ひとりでやるさ……」
そもそも、鷹峯を殺すなんてこと、実際にその状況になったら、クラスの面々はドン引きして、逆に全員で大澄のジャマをしかねない。
だったら、引き返せないところまでお
内心で大澄は舌なめずりをした。
「あれ? 大澄君どこにいくの?」
天幕を出ようとする大澄に女子生徒の一人が声をかける。
大澄はニヤリと笑い返した。
「
◇◆◇
リオンヌさんが操る馬車に乗って、僕と生き残りの子供たちは《魔帝領》を目指して進んでいた。
といっても、《アレクスルーム王国軍》の偵察兵や進軍する部隊を避けつつの移動なので、思うように距離を稼ぐことができない。
焦ることはないと言うリオンヌさんに、僕も笑みを浮かべて頷いたものだが、数日経った頃、その笑顔が凍りつくような事態に直面する。
「クラヴィルが──!?」
それは、《リグームヴィデ王国》で仲良くなった同い年の金髪の少年の名だった。
休憩中に子供たちが見つけた
そして、その矢にくくりつけられた手紙には、日本語の文章とクラヴィルの名が記されていたのだ。
『──鷹峰へ。俺たちの前に出てこないと、《リグームヴィデ王国》のクラヴィルってヤツを見せしめに殺してやる。オマエのダチなんだろ、まさか見捨てるなんてことはしないよな』
「クラヴィル、って、あのクラヴィル──!?」
僕は激しく動揺した。
《リグームヴィデ王国》に召喚されてから、最初に友人と呼べる存在になった陽気な金髪の少年。
得体がしれない僕に対して気さくに接してくれて、慣れない農作業もいろいろ手伝ってくれた。《むこうの世界》では
「助けに行かないと──」
いても立ってもいられず、動揺の色を隠せない僕だったが、その腕がしっかりと掴まれた。
振り向くと、リオンヌさんが真剣な表情で、僕の目を直視してくる。
「ダメだ」
「でも、クラヴィルを見捨てるなんて──」
「……オレたちは、もう何人も見捨ててきた。この国の人たちを」
「……っ!?」
辛そうな顔で言い切るリオンヌさんに、僕は思わず
確かに僕たちは《精霊樹》へ向かうとき、そして、《精霊樹》から逃げるとき、自分たちの安全をだけを最優先して、積極的に生き残りの人たちの探索や救助はしてこなかった。
「もちろん、それはスバルを無事に逃がすため、ひいては《アレクスルーム王国軍》に対する
「わかるか? スバル」と、リオンヌさんが両肩を掴んでくる。
「今のおまえは、《アレクスルーム王国軍》、それに、異世界から召喚された勇者たちの
今は自分の身を第一に考えろ。
そう強く言われた僕は、反論することができなかった。
○
「勇者の兄ちゃん、ちょっと聞いてもいい?」
その日の夕方、とある
リオンヌさんは偵察と食糧の調達を兼ねて、この場から離れていた。
そんな中、
「勇者の
「あ、うん……」
まだ
「ねえ、クラヴィル兄貴を助けてあげてよ」
「ボクたちは大丈夫だから」
「クラヴィル兄貴を助けられるのは、勇者の兄ちゃんだけなんだろ?」
「クラヴィル兄貴はボクたちのボスなんだ、殺されるなんてイヤだ!」
口々にクラヴィルを助けるようにと
中には半泣きになってしまっている子供もいて、僕は胸を突かれる思いだった。
「……わかった」
僕は決意した。
子供たちの頭に手を乗せ、静かに
「──僕はクラヴィルを助けに行く。今からすぐに出るから、リオンヌさんへの伝言を頼んでいいかな」
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