第6話 召喚されし勇者たち
「出せ、だせってば!」
僕は古ぼけた木製の扉を叩き続ける。
夜中の間も断続的に声を出し続けていたこともあって、
そのせいで、睡眠不足状態に
「くそっ、はやく《リグームヴィデ王国》に戻らないと!」
「《リグームヴィデ王国》が攻め滅ばされる……?」
なぜ、あの平和でのどかな王国が攻められないといけないのか。
いや、もしかしたら、僕の勘違いかもしれない。
だって、そうだろう──パルナたち、国のみんなが戦争に巻き込まれる理由なんて、どこにもないのだから。
「……どうにかして、ここから脱出しないと」
いったん頭を冷やすために、窓際へと歩み寄って外へと視線を向ける。
この部屋は高い塔にあるようで、
「リオンヌさん、無事だといいんだけど……」
そう
「
「鍵を掛けてるのは外側からでしょ、入りたいなら勝手に入れば」
「……うん、じゃあ入るね」
僕は一瞬身構えた。
扉の外から聞こえた声は、いつも食事を運んでくる兵士とは違う。
おそらくクラスメイトの女子の誰かだ。
襲いかかるとはいかなくても、隙を見て外へ逃げ出すことができるかもしれない。
だが、僕の考えはお見通し──というか、普通に警戒していたということだろうか。食事を持った女子を守るかのように、男子生徒が三人付き添ってきていた。
「
三人の男子生徒は《あちらの世界》の学校で比較的良好──というか、中立的な関係にあった面々だ。
その彼らに
同じように、学校の制服ではなく、《こちらの世界》の
「ねえ、ひとつだけ教えて」
無意識のうちに僕の声が低くなる。
「
「それは……」
やや小柄な永武が、他の二人にせっつかれるような形で口を開いた。
「……そもそも、僕たちは、この世界──《ノクトパティーエ》に勇者として召喚された、ということは理解できてるよね」
その前置きに僕が黙って
永武たちの説明によると、僕たち《
「それが、僕ってワケ? みんなとまったく違う国──《リグームヴィデ王国》に放り出されたってこと?」
「そう、そして、それが大問題になったんだ」
髪の毛を短めに整えた体育会系の楠葉が首を振った。
「《連合六カ国》が発動させた《合同召喚術式》は極秘のうちに行われていた。なのに、そこに介入して《
「ちょ、ちょっと待ってよ。僕だけ放り出されたのが、まさか《リグームヴィデ王国》の
だが、三人は戸惑いの表情で僕を見つめてくる。
線の細い
「ぶっちゃけ、本当のところはボクたちにはわからない。でも、《連合六カ国》のエラい人たちは、そう考えて動いているんだ」
「鷹峯は利用されているだけなんだよ」
楠葉が僕の肩を掴んだ。
「その《リグームヴィデ王国》とかいう国は
「……なんだよ、それ」
僕は楠葉の手を払いのけた。
「僕が召喚されたのは《リグームヴィデ王国》だ。平和でのどかな、それでいて優しい人たちが楽しく暮らす国だよ」
それに魔族を一方的に敵視することも気に食わない。
《リグームヴィデ王国》で生活する魔族の人たちは、種族の違いを理由として、他人を害することなんて絶対しない。
「そっちこそ《連合六カ国》に丸め込まれているんじゃないのか!? 勇者とかおだてられていいように使われようとしているんじゃないのか!」
僕の
その隙を突いて、僕は部屋から飛び出そうとする。
だが、その眼前に光を帯びた
「え……佐々野さん……?」
「ごめんなさい、でも、今、鷹峯君を《リグームヴィデ王国》に帰すわけにはいかないの」
すると、残りの三人も光を帯びた武器を、それぞれ構える。
「その武器──力って、もしかして、勇者の……?」
「そうだよ」
弓を手にした雪村が、泣きそうな表情をみせた。
「今なら、まだ大丈夫だから。《連合六カ国》内の調整に時間はかかるけど、鷹峯くんもボクたちと一緒に、この世界のために戦おうよ」
「そうだ、俺たちは、この世界を救うために召喚された勇者なんだ。凶悪な魔族たちに苦しめられている人々を助けるためにやってやるしかないだろ!」
そして、両手に
「魔族たちの国──《
それが僕を除いたクラスメイトたち全員一致で決められた方針だと、三人は
だけど、僕は納得できない、できるはずがない。
「だからって、魔族イコール悪って、一方的に決めつける理由はあるのかよ!」
もちろん、《連合六カ国》のお偉いさんたちは、魔族の
「でも、それをオマエたちは自分の目で確認したのかよ!?」
僕の叫びに、みんなの表情に動揺が走る。
少なくとも、僕が《リグームヴィデ王国》で過ごしていた間、魔族が人間の国を襲ったという話は一回も聞いていない。
というか、人間と魔族が深刻な対立関係にあるのであれば、《リグームヴィデ王国》みたいに両種族がノンキに生活することなんてできないと思う。
そして──
「オマエたちは言われるままに、何も考えずに、穏やかな国を攻め滅ぼすっていうのかよ!」
僕の叫びに怯む全員──その時。
部屋の床に
「な、なんだ……煙が!?」
「スバル──こっちだ!」
視界が完全に煙に覆われる中、僕の制服の袖が強く引っ張られた。
「リオンヌさん……ふぐっ」
有無を言わさず、口と鼻に後ろから布を巻かれる。
「この煙には軽い
僕は無言で頷き、リオンヌさんに手を引かれるまま部屋の中から飛び出した。
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