第6話 意気投合?

 程なくして一回戦が全試合終了したため、私はひとまず試合場近くに戻る事にする。


 そこから半刻約1時間程の休憩を挟み、引き続き2回戦が開催される。


「では、2回戦を始めるのでシード以外の参加者は全員試合場に上がって下さい」

「はいっ!」


 気合と返事が混ざった声と共に試合場に入る私達。


 丁度60人と、極端に参加者は少なくなった。


 だが、全員があの死闘の生き残りであるため、猛者揃いではある。


(この感じ、もしかしてこの60人でまた同じ事をするのでは?)


 そんな事を考えながら、私は審判である一心先生を見る。


「では、ルールは先程と同じ……」


(ほら、きた……)


 その声を聞くや否や、全員が全員各々の武器を構え戦闘態勢に移る。


 ……一瞬、一瞬だが、辺りがひりつく物凄い緊張感が周囲に生まれる……。


「だが、よく聞け! 今度は自分と同じレベルの強さの相手を選べ! そしてそのまま儂の開始合図を待て!」

「な……何ッ!」


 途端に辺りがざわつきだす。


 理由はどうやら仕様が先程のバトルロイヤルと違う事が分った故に……。


 この感じだとおそらく……この会場にいる60人を半分の30人に減らすという事か。


(……だが、どうしようか?) 


 というのも、馬鹿正直に自分と同じレベルの相手を選ぶと苦戦は必須。


 だからこそ、周りもざわついているのだが……。


「おい! お前……」

「……えっ!」


「お前だよ。お前」


 気が付くと私の目の前に例の赤狼の面を被った大男がこん棒もとい木刀を片手に持って立っていた。


(よりによって一番強そうなコイツと……。噓でしょ……? というかコイツ喋れたのね)


「……あ、あの……何か?」

「お前が


「……は?」


 言いたい事は分ったが、その物言いにカチンときた私。


「……?」

「……あ?」


 私達は睨みあい、お互いそれぞれに武器を構え、先生の合図を待つ。


(そうそう……。翌々考えたらどちらにせよ優勝を狙わないといけないから、この蛮族は早めに倒していた方がいいかもね?)


 戦闘モードに入った私は一心先生に向かって叫ぶ!


「審判っ! 早く合図をッ!」


 私達の剣幕に周囲は急いで、相手を選んでいく。


「……で、では今の相手と組み、他の組を全員倒せ! 試合開始っ!」


 先生は楽しそうに苦笑しながら、開始の合図を大声で叫ぶっ……て? コイツと組むの? 


(そ、そっち? なんだあ、タッグバトルロイヤルかあ……。てことは30組出来るから、私達以外の29組倒せばいいのか)


「……くそ」


 残念そうに呟き、鼻息を荒げる赤狼の面を被った大男。


「お前名は?」

「私は陽一。貴方は?」


「俺はほむらだ。よろしくなっ……と!」


 名を告げるなり焔は私の胴目掛けて、木刀を横殴りに振り回す!


 私はそれを焔の懐に入りかわす!


 すると焔が横殴りに振り回した木刀は私達の横にいた2人組を思いっきり場外まで吹き飛ばす!


 うん、私は1回戦よろしく、焔も場外に叩き落とす予定だったからね。


 だから、私の現在の立ち位置も四隅の角近くです、はい……。


 という事で、29組のうち1組脱落で残り28組。


 更に私は、懐に入り込んだ勢いをそのまま利用し、焔を後ろから斬りつけようとしていた2人組に体当たりし、場外に吹き飛ばす!


 はい、これで残り27組。


「やるな陽一……」

「焔、貴方こそ!」


 幸か不幸か、最強の敵が最強の味方になった訳でして……。


 こうして、こんな感じで私達は即席だけど上手く共闘し、周囲の猛者達をばったばったと倒していく……。


「あ、陽一危ないっ!」


 と言いつつ、横殴りに振り回した木刀は私ごと他の組を吹き飛ばそうとするが、当然私は華麗にかわす。


 結果、他の組が思いっきり吹き飛ぶことになる。


 というのも流石に他の組も、味方事吹き飛ばそうとする剣筋は頭に入らないわけでして……。


「おっと焔、危ないっ!」


 すかさずお返しとばかり、2人組を体当たりし、焔ごと場外に吹き飛ばそうとする私……。


「ちっ!」


 が、焔は舌打ちと同時に、その2人組を返す刀でそのまま、横殴りに場外にまで上手く吹き飛ばす!  


 見ての通り、共闘というより、隙があればお互いに寝首をかこうとして、結果それが上手く連携出来てるだけなんですけどね……。


「ほう、中々いい返しをするなあ陽一?」

「貴方こそ、中々上手く避けますね焔?」


「……ふふふふ」

「くくくふはははは……!」


 私と焔は雌雄を決するが如く、じりじりと間合いを詰めていく……。


「こ、コイツら仲間割れしてないか?」

「も、もうこんな頭の逝かれた奴らと戦いたくない!」


「お、俺は降参する」

「俺もだっ!」


 私達の乾いた笑いと、その傍から見たら逝かれているとしか思えないコンビプレイに周囲の組はドン引きし、結果誰もいなくなってしまった……。


 という事で、このまま3回戦やってもらおう……。


「審判っ!」


 私と焔は、ほぼ同時に大声で叫ぶ!


 この感じ、きっと奴も考えが一緒であろう。


「応っ! では2回戦目はこれで終了だ! ほら、お互い離れて……」


 先生は私達の間に入り、勝手に始めようとしていた3回戦を止める。


「お前……顔は覚えたからな……?」

「……それはこっちのセリフですよ?」


 ……私達はお互いに意気投合し、武器を各々再び構える。


(コイツだけは今潰しておかないと気が済まない)


 きっとお互いにそう思っているに違いない。


 剣で分かり合えるとはきっとこの事を差すのだろう……と。


「こら! お前達いい加減にしないか? 2人とも仲良く失格にするぞ? いいのか、強い相手と戦えなくなるぞ? ん?」


 まるで子供の喧嘩をたしなめるように仲裁に入る先生。


 お互い仲良く? 舌打ちし、お互いに礼をせずに無言で場外に出ていく私達。 


 こうして私達はとても仲良く? 3回戦に進んだのでした。


 めでたし、めでたし……。


「では、これより3回戦からは本戦に移らせていただく! 内容は2ブロックに別れ、シード選手6名に先程勝ち残った2名を加える形になります故」


 観客席から賑やかしい歓声が上がる。


「では先程勝ち抜きを行った2名以外の選手から試合を始めます。1ブロック、風月国対水宮国の選手それぞれ前に……と?」


 試合場には先程試合前に会話した風月国の太郎さんが、扇を広げて静かに佇んでいるが……?


(おや? 審判の先生の前に、他の予備審判の方が出てきて何やら話している?)


「……あっと、どうやら水宮国の選手が急用でこれなくなったらしいので、風月国の勝ち上がりとします! では、次の試合は土陰の里対雷陽の里のそれぞれ前に!」


(あらら、私は陰陽師としての太郎さんの試合が見たかったんだけどな……残念)


 そんな事を考えていると、10尺約3mはあろうかと思われる濃紺色の忍者装束を着た超巨漢の男がのそりと試合場に姿を表す。


 ただし、頭巾は被っておらず、首に土色の布切れを巻いているところを見ると土陰の里の忍者? だと思う……。


「では安土玲あんどれい選手対……」


「あ、あんどれいだと? ……当て字か?」

「それに……な、何だ? あの巨漢にボサボサの金髪は? 南蛮国のものか?」


 先生の説明とその異様なまでの巨漢を見て観客席が途端にざわつき始める。


 そりゃそうだよね、明らかに南蛮の出身と思われる金髪と青い目に巨漢と超目立つ。


「忍びなのに、し、しのんでねえ……」


 ぼそりと観客席から小声でもっともな意見が飛び出す。


(ま、まあね御前試合だからいいんじゃないかなと……)


 そんな細かい事より、この巨漢の男がどうやって戦うかに私は興味があった。


雷火らいか選手!」


 対してもう一人は名の通りスマートですばしっこそうだ。


 首に黄土色の布を巻いてあるし、濃紺色の忍者装束を着た雷陽の里の忍者で間違いないだろう。


(体格も身長も倍くらい違いがありそうな2人。一体どんな戦いになるのだろうか?)


「それでは、試合始め!」


 先生の合図と共に、開幕動き始めるは安土玲!


 見た目以上の俊敏な動きで、雷火を掴みにかかる!


 が、雷火は素早いバックステップでそれを難なくかわし、同時にいつの間にか複数手に持っていた苦無くないを安土玲に向かって放つ!


 この感じ、雷火は試合開始前から決め打ちで暗器として、両手に忍ばせていたのだと私は思う。


「ウガァッ!」


 安土玲は、それらを気合と共に片手の甲で受け軽く弾く!


 その為、鈍い金属音が周囲に鳴り響く。


「う、うおおおおっ! こいつは凄いぞ!」

「いけえっ! 安土玲っ! 相手を捕まえて地面に叩きつけちまえ!」

「雷火っ! その身のこなしで、そのでくの坊をなます切りにしちまえっ!」


 途端に観客席から熱狂的な声援が両選手に送られる。


(そう、戦いに国境はないんだよね。内容が良ければ周りは惜しみない声援を送る、それは万国共通であるが故に……)


 それから、四半時30分後……。


 雷火は遠距離からの苦無、隙があれば安土玲に切りつけるのヒットアンドウェイ攻撃を繰り返す!


 一方、安土玲は素早さで負けているものの、土剣気で体の周りを覆い手堅い防御で隙を狙う……。


 が、それに気が付いた雷火も武器に雷剣気を流し火力を上げ、またもやヒットアンドウェイ攻撃を繰り返していく!


 このまま、時間の許す限り根競べとなるか?


 そう思った瞬間、事態は急変する。


「うガアアアッ!」


 なんと驚いた事に、安土玲は気合と共に、両手を合わせたその拳で地面を思いっきり叩いたのだ!


 その有り余る巨漢からの土剣気を上乗せされた渾身の一撃!


 途端、安土玲周辺に土埃が舞い、何となくの輪郭でしかその周辺は把握出来なくなる。


 更には地面は揺れ、試合場の盛り上がった土くれが雷火目掛けて襲い掛かる!


「凄えぞ! これが噂に聞く土遁の術か!」


 この嬉しいアクシデントに、観客席からわっと歓声が上がる!


「……チッ!」


 が、対する雷火は舌打ちし、今まで以上に素早い動きでそれらの土くれを難なくかわしていく。


「……ほお、これが雷剣気を練った雷陽の里の秘術か……」


 私の近くの観客席まで避難していた一心先生は、ぼそりと私に向かって呟く。


「先生あの雷火の尋常じゃないスピードもしかして?」

「そうだ、雷剣気を纏い神経伝達の底上げをした結果があれだ、更に……」


 雷火の持つ忍者刀2本は、凄まじいまでの雷剣気を纏い青白く輝く!


 その青白く輝く2本の牙は、姿を表した土まみれの安土玲の体を鋭く切り裂いていく!


 その凄まじいスピードと威力に、バラバラになり土埃の中に落ちていくそれ……。


 それを見届け、程なくして雷剣気を収める雷火。


「見事な2本の雷光滅牙だった。……では、判定に儂は戻る」


 先生の言葉に私は静かに頷く。


(す、凄い戦だった……この戦いの内容だと、間違いなく2人とも上忍だろう)


 そう私が考えていた瞬間、事態はまたもや急変した!


「あ、ああっ! あれを見ろ!」


 何と驚いた事に、安土玲は何故か生きており、宙を勢いよく回転しながら舞っていたのだ!


 更によく見ると、安土玲のその両腕にはがっちりと雷火が捕まえられている。


「……う、うわああああああああああああああああっ!」


 空高く舞った空中から、次第に近づいて来る雷火の悲鳴……。


 が、それも虚しく、回転しながら落ちていく安土玲にガッチリホールドされたまま、頭から地面にめり込んでいく雷火……。


 凄まじい地響きと共に、若干だが揺れる観客席……。


 ……しばらく静まり返り、土埃が晴れた試合場の上には安土玲が一人立つ姿が見えるのだった。


 そんな中、滅茶苦茶になった地面に埋まった雷火を見に行く、審判の先生。


「……うん、全身複雑骨折だな。というわけで勝者っ! 安土玲!」

「うがああああああああああああああっ!」


 両手を空高く上げ、安土玲の獣のような咆哮が響き渡る!


 興奮した観客も、それにつられ習う人が多数出る始末!


 私も思わず興奮し、片手を上げている状態だったりする。


「うおおおおっ、すげえぞっ! 安土玲っ!」

「あれが噂に聞く、土遁身代わりの術か!」


(す、凄い! 何が凄いかって、安土玲は雷火を上回る頭脳戦を行った事!)


 まず試合場を叩くと同時に、その土を利用し、盛り上がった土くれで雷火を攻撃する。


 次にその反動で土埃が舞う。


 安土玲の姿が土埃で視認出来なくなるので、その間に試合場に土遁身代わりを設置し、本人は土埃が晴れにくい地面に伏せて待機。


 罠にかかった雷火は、雷剣気で全力で土遁身代わりを攻撃し、剣気がつきてしまう。


 そして、それを確認した安土玲は土剣気で筋力を底上げし、油断していた雷火を捕まえて、以下略ってわけか……。


 そう、安土玲は実に忍びらしく忍んで勝利したのだ。


「申し訳ないが、試合場が滅茶苦茶になった為、しばらく休憩と致す! 2ブロックの選手達はしばらくそのまま待機で!」

「おい! 陰陽師達! こっちだ!」


(それは置いておいて、次はいよいよ私達か……)


 先程の熱い試合を見て、負けられないなと気合を入れる私でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る