第3話 炎帝国の祭りにて候

 翌日、晴天の為か朝日がとても心地よい……。


 そう、まるで私の浮かれたこの気持ちのように軽やかで……。


 そんな中、私は急ぎ足で一心先生の道場へ向かう。


「先生! 一心先生!」


 私は道場の入り口の木戸を元気よく開け、大声で叫ぶ!


「……なんだ? 騒がしいな? 聞こえておる」


 ちなみに今日も道場には門下生はいない。


 理由は知っている。


 午後開始の武術大会の用意等で各自忙しいから。


「先生は今日の大会には出られるのでしょうか?」


 そう、私がここに来た理由。


 もし先生が大会に出るなら、願い事の協力を依頼したいと思いこちらに伺ったのだ。


「儂は審判に選ばれている故、参加は出来ぬ……」

「そ、そうですか……」


 ですよね……。


 先生が参加したら、優勝候補筆頭だしね。


(わたくしの考えが甘かったです、はい……) 


「それに参加できたとしても儂は出ぬ。なにしろ嫁と子供が折る故に」

「……え? 何の話です?」


「お主、今の感じだと参加するのであろう? それなのに優勝の褒美内容を知らんのか?」

「……はい?」


(先生の今の話の内容だと、私の知らない追加内容があるということかな?)


「……丁度外の掲示板に張り紙がしてある。見てこい、たわけ者……」


 どんな内容なんだ? と思いつつ私は急ぎ足で、外にでて掲示板の張り紙見ることに。


「えっとなになに?」


【第2回炎帝国武術大会参加者へ】


 この大会は7国から集いし猛者が集まる武術大会である。


 武器及び術使用の許可を与え、ルールは何でもあり。


 勝敗は相手が降参するか、死ぬかである。


 なお、優勝者には褒美として「常識内での願いを何でも1つ叶える」。


 更には現、椿姫家の姫の婿として迎え、花蝶国を与え領主とする。


 なお、姫本人からは許可を頂いている故、奮って参加されたし。


 以上……。


 その内容の横には私の直筆と家印が押されてあった。


(な、成程ね……。確かに、この書面昨日ちらっと見たわ……ただし、上の部分だけね……)


「……どうだ? 理解出来たか?」


 いつの間にか一心先生が私の横に立っていたが……。


(そ、それよりも、何ですかこれ? 何か私が褒美内容の1つになっているんですけどっ!)


 あ、ああっ! 


 よくよく考えると、此処に来てからお見合いをことごとく私が断っているもんだから、遂に強行作戦に出たわけか。


 最近婆やが大人しくなって、ほっとしていたけど、まさかこんなことになるとは。


(これは、ば、婆やにしてやられた……)


「陽一? ……どうした? 何やら顔色が悪いが怖じ気づいたか?」 

「い、いえ……」


(怖気づいたというより、後悔しているだけです……ええ……)


「まあ、いい。ほれ! これを着て気合入れろ!」

「あ……」


 私は先生から羽織りを羽織って貰う……。


「こ、これって……?」

「そうだ、免許皆伝の証だ! 気合入れて頑張ってこい! いいな?」 


「は、はいっ!」


 私は炎の紋様の入った羽織りをぎゅっと握りしめ、素直に喜ぶ。


 それはそうだろう、だってあの剣鬼である狼火一心に認められたのだから……。


「よし、いい返事だ。では、いけ!」


 先生は応援の意味を込め、私の肩を力強く叩き、背中を優しく押す。


(あ、ありがとう先生! お陰で気合が入りました! これはもう、色んな意味で優勝するしかない!)


 腹を括った私は先生に一礼し、1人闘志を燃やし城内の会場に向かう。


 それからしばらく城内に向い歩いて行くと、遠目に燃えるような巨大な赤い門が見えて来る。


(うわあ……いつ見ても何か威圧感あるよね)


 そう思いつつ、城内に入るため巨大な炎を模した赤門を見上げながら潜り抜ける私。


 この門は一説によると火之迦具土神を模した鳥居だと言われている。


 当然そこには門番もいたが、今は火之迦具土神の羽織りをまとっている為、顔パスで何事もなく通過出来た。


(一心先生の計らいに感謝、感謝!)


 それは置いておいてと……。


(人超多いな……)


 前を見る感じ、何処を見ても人、人、人だ。


 ざっと見た感じでも、いつもの数倍以上はいると思われる。


 屋台も何店舗か出ている関係か、女子供まで沢山いるし、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。


 そんな中、私は太陽の上り具合を眺めふと考える。


(日も真上に昇りきれていないし、開会式の午の刻12時まで一時約2時間程あるな。さて、どうしたものか?)


「お、大会トーナメントが張り出されていらしいぞ! 見てみようぜ!」

「おう!」


 参加者らしき人の会話が近くで聞こえて来る。


 私も暇なんでとりあえず、その人達について行き、近くに置いてあった掲示板を探し、トーナメントを見る。


「おい見て見ろよ! 6国の代表強者はシードだってよ!」

「くそっ! 俺達一般参加者はトーナメント前に振いがかけられるっていうのによお……」


(……ふむふむ成程。一般参加者の私達はトーナメント前に何回か試合をする羽目になるわけか) 


「しかし、7国じゃなくて6国はおかしくないか?」

「馬鹿っ! お前この武術大会は炎帝国主催の花蝶国の領主を決める大会だぞ!」


「……あっ! ああ成程!」

「だが、お主がぼやくのも分かる。花蝶国の剣技や陰陽術が見れないのはいささか無念であるしな……」


(ふふ……安心召されよ。実は此処に花蝶国代表の剣士が居りますが故に……)


 強そうな剣客達の話を聞き、1人ほくそ笑む私でした。


 その時、自身のお腹が、くうっと鳴る音が聞こえる。


(ま、まあ、気合入れすぎて朝早かったからね)


 というわけで、私は近場の屋台に行き食事をすることに。


 気が付くと……何件か周り、私は様々な串焼きを両手いっぱいに握っていた。


(ふ……腹が減っては戦が出来ぬ故……。あ、この焼き鳥美味しい! ん、この豚串も悪くない!)


 こんな感じで、私は参加者や関係者がごった返す中ぶらりと食べ歩きしていく。


 そんな中、子供がひと際賑わう屋台を見つけてしまう。


 それもその筈、そこは魅力的な景品が並ぶ射的場であったからだ。


 射的……。


 それは7国が収める大陸外から渡来とらいした南蛮なんばんの不思議飛び道具の玩具。


 いわゆる長筒の鉄砲の弾の代わりに、木玉を込め、それを自身の魔名で飛ばす遊びなのだ。


 別名【魔名遊び、魔名飛ばし】とも言われ、割と最近流行っている遊びである。


(うーん、私は剣気を使うのは得意だけど、陰陽術は苦手なんだよね)


 そんな事を考えつつ、私はふと景品に目を移す。


 えっと……林檎飴等お菓子、算盤、それに様々なお面等々か……。


 特に欲しい物はないかな。


 そう思い、そこを離れようとした。


 ……ん? 


 私はふと緑色の龍の面に目が止まる。


「お? 兄ちゃん、お目が高いね! そいつは風月国の伝統的なお面でね? 滅多に入らない代物で、ここの目玉商品の1つでさ! というわけでどうだい?」

「やります!」


(価値もだが、あの時私を助けてくれた人が被っていたあの龍の面がどうしても欲しい!)


 時間もあるし、丁度いい暇つぶしになるしね。


 と、いう事で私は屋台の兄ちゃんにお金を払い、射的で龍の面を狙う。


 やり方としては、まず木玉を筒の先端に込める。


 次に狙いを定め片方の手で筒を持ち固定する。


 体内で風の魔名を込め、その蓄積した風の力を送り筒に込め、もう片方の手で引き金を引き木玉を飛ばす。


 という順序だ。


 ……それから、四半時30分後


「……く、くぬっ、くぬっ!」


 あまりにも当たらなくて、思いっきり焦っている私。


 そのせいか、額からは変な脂汗がにじみ出ている。


 いちお、目的外の外れ扱いっぽい林檎飴とかは大量に取れてるんだけどね……。


 何せ私は陰陽術が苦手だし、しかも光と炎の魔名の操作以外はほんと苦手でね。


 お陰で私の周りには、お菓子目的の子供が群がっている大変微笑ましい状態になってしまっている。


 更には私と射的場の周囲に広がる、沢山の木玉の馴れの果て……。


(こ、このままでは婆やから貰った今月のお小遣いが消えてしまう……)


 気が付いた時は後の祭り。


「あ……あの、お困りでしたら私があのお面を落としましょうか?」

「……え? あ、うん……」


 気が付くと私の隣に、いつの間にか1人の男が立っていた。


 翠色すいしょくの狩衣を着た、長身の物腰優しそうな人。


(というかこの人いつの間に私の側に……?)


 自慢じゃないが、私は剣を学んでいる関係で気配を感知するのは得意なのだ。


(達人である一心先生や亡き父上なら分るが、その私に悟られず近づけるなんて……この人一体何者だろうか?)


 感心してしまった私は、素直な返事と共に翠色狩衣を着た彼に鉄砲を渡す。


「……では一発であの面を落として見せましょう」


 その自信ありげな物言いに、少しムッとする私。 


「貴方……一発で落とせなかったらどうするおつもりですか?」


 自分でも分るが、言葉に少し怒気がこもっているのが分る。


「その時は責任を取って自分が落とせるまでお金を払いますよ?」


 柔らかい童のような笑みで、私を見る彼。


 澄んでいる茶色の瞳を見て感じるのは、その心の純粋さ……。


 更には、陽光を浴びているからだろうか? 透き通った薄茶色のショートヘアが風になびいている姿が何とも様になっている。


「お、お願いします……」


 その彼の真っすぐな心意気に対して、私はそう言うほかなかった。


「では、行きます……」


 手慣れた手つきで筒を構える彼。


 先程の柔らかい表情とは違い、魔名を練るのとその操作に集中している為か目つきが真剣になる彼。


 そのギャップの大きさに思わず、胸を撃たれる私。


 その刹那、彼の鉄砲に込めた木玉は狙いを外さずに龍の面を撃ち抜く!


「や、やったあ!」


 喜びの余り思わずその場を飛び上がってしまう私。


 が、それも束の間、驚いた事に龍の面は粉々になってしまったのだ!


「あ……」


 その惨劇を見て、思わず声なき声が出てしまう私達。


「お、おい兄ちゃん! それ1つしかない貴重品だぞ! ど、どうしてくれるんだおい!」


 貴重な目玉景品を壊され、顔を真っ赤にしガチギレしてしまう射的場のお兄さん。


(えっと、ど、どうしよう……?)

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