39、竹取りすぎの嫗と瞬間移動
道や広場などに生えてきた余分な竹を整備したいなら、タケノコが育ちきる前の梅雨前の時期にやておくと柔らかいので簡単に済む。
伐採後の竹を使いたい場合は、採取するのは水分の抜ける冬場。
そう相場は決まっているけれど、今は日本で言うと十月の初め。
時期的にはちょっと早いかもしれない。
本当はもっと寒くなってきてからの方が、水分も抜けて重量が減るから運ぶにしてもやりやすいんだけど、一ヶ月も待っていられない。
今はまだ、目先の目標が大事。
長期的視点は、余裕が出来てからで良い。
本当は雨の次の日というのもあまり良くないかもしれないけれど。
そんな事を考えながら、かぐや姫が出てきたらどうしようかなーなんておどけたことも考えつつ竹を切っていったら、ちょっと切りすぎたかもしれない。
途中から斜めに切るコツも掴んで、切る速度が上がっていった。
三分もあれば十分。
ノコギリが折りたたみじゃ無くて、竹切り専用だったら一分きれるんじゃなかろうか。
竹のいい所は、中が空洞な分同じ大きさの木材よりも軽い所。
そして取り過ぎたかと思うほど伐採しても、次の年にはしっかり筍が生えすくすくと成長してあっという間に育つ所。
間伐して日当たりを良くしておいた方が、育ちも良い。
これからたくさん使うだろうし、よく育つのは嬉しい。
伐採するときに使いやすい大きさを選ぶと共に、運びやすいように道も作っておいた。
竹の中には、時々直径が二十センチを超える大型のものもあるけれど、それは今はやめておく。
そして切り残した下の部分がそのままだと尖っていて危ないので、斧で切り潰しておくことも忘れない。
今日もお供してくれているパジェ君やスラちゃんは、木を体当たりしてなぎ倒す事は出来ても竹を切り倒すことは出来ないので、切った竹を並べていって貰っている。
竹本体は無理でも、力をかけて枝部分を引きちぎることは出来たので(力持ちで驚きだ)枝払いもやってくれている。
二人とも今はちょっと大きい姿で——パジェ君は成体のイノシシくらい、スラちゃんはバランスボールくらい——働いてくれているので機動力がある。重たい物でもスイスイ。
お陰で伐採に集中できた。
とても一回二回では運べないだろう量を切ってしまって、さすがにノコギリをしまう。
外した枝も山のようになっているが、竹も壁のように積み重なっている。
これは切るよりも、持ち帰る方が絶対骨が折れるな。
今からの帰り道の約二キロを考えると面倒でもあるが、使うと決めて切ったのだから持って帰りたい。
「ご主人、おいら密かにやってみたくて練習していた技があるんです。それをご披露いたしますっす!」
ご主人は急いで帰って、車の後部座席を準備してください。
「一応ブルーシートは敷いてきたよ?」
「ドアも開けて欲しいっす」
後ろのスペースもしっかり空けておいて欲しいです。で、この取った枝を送るので、どんどん受け取って欲しいっす。後はお楽しみです。
パジェ君は悪戯っぽく笑うが、別行動で残していくのはやっぱり不安が。
小枝だけでも先に送れるのは嬉しい。けれど。
「大丈夫ですって。あ、でもご主人を一人歩きさせるのは不安ですね。うっかり転んで意識不明になったりしそうですし。スラちゃん、ついて行ってくれますか?ご主人のおもり、お願いするっす。任せました」
「ぴきー!(まかせて!)」
いや、そっちじゃ無くて、置いていくのが不安なんだけど……。
大丈夫だから、と説得されて急いできた道を戻る。
竹を運ぶときに邪魔になりそうな小枝は急いで払いつつ、最短距離で行く。
山肌と海岸への傾斜が大体の目印になるので分かりやすい。
三十分かからずに小走りで走り抜けて、息も絶え絶えにパジェミィにたどり着く。
あーつかれた。
スラちゃんの足が速くなっている。本気になられると、とてもじゃないけれど追いつけない。
遅いよー早く早くと呼ばれると、走らざるを得ない。
結果、トレイルランのように走り抜けてしまった。小走りだけど私には十分本気なランニングです。
本当に疲れた。
途中で水を飲む余裕も無かったので、水をしっかり飲んでから車の向きを調整して広場側に後部ドアを向ける。そして打ち合わせの通りに合図のノコギリをパジェミィに乗せた。
すぐに了解の合図で、残してきた斧が車内に現れる。
斧とノコギリを車外に出してゆっくり五十数えたら、竹の横にまとめて積んであった枝や切り落とした先の部分が車内に現れる。
それはみるみる増えて、車内にみっちり詰まっていく。
引っ張り出した方が良いのかと手をかけようとしたら、「うぇ」っとパジェミィがえづいた。
車がえづくというのは変な表現だが、そうとしか言い表しようが無い。驚いて離れると、
「うぇうぇげへぇ」
えずきながら、竹の小枝がどんどん車外に吐き出される。
もう出なくなったな、というころ、パジェミィがしゃべり出した。
「出来ましたよご主人、成功です。自分で中の物を吐き出せました。次は大きいのいきますよ。準備が出来たら、タイヤを二回叩いてください」
慌てて枝をどかし、車体後ろのスペースを空ける。
ポンポンと後部タイヤを叩くと、何もない空間に竹の断面が4本現れる。そのまま車外ににじり出てきて、地面につっかえて、止まった。
「ひっかかっちゃいました。ご主人引っ張ってくださいー」
パジェミィがしゃべり出したので慌てて竹を引っ張り出す。
竹自体の長さは長めに切りそろえて十メートルほどあるので、ずるずると引っ張って抜いてやる。
「ふぅ。どんどんいきますよー」
苦しい様ならやめてもいい、と言う前に次の竹が現れた。
出てきては引っ張り出してを繰り返し、竹が広場に積み上がっていく。
切った分が全部出切ったのでは無いかという頃、「じゃあ最後の大技です」
声がしたので離れて見ていると、何も起こらない。
近づいてみるとコロンとストラップの黒猪があらわれた。
すぐに淡く光って、ポーズを決めたパジェ君に変化する。
「いえーぃ!出来たっす出来たっす!大技見てくれましたか?瞬間移動ですよ!」
意識を切り替える瞬間に、依り代をこっちに運んだんす!タイミングが難しいんですよ。失敗すると依り代持って来れないっす。匠の技ですよ!!
それに気付きました?物を移動させながら喋ってたの。
もともとクーラーボックスは離れていても動かせたじゃ無いですか。それの応用で、意識を半々にして道を繋いだまま話してたんですよ!密かな特訓の成果ですよ!
丸太や薪の運搬がすごく楽になりますよ!
褒めてくれても良いんですよ、と飛び跳ねた後胸を張るパジェ君。
スラちゃんがその周りを凄い凄いと飛び回る。
私も驚いてしまって言葉が出ない。そんな特訓を密かにしていたなんて気付かなかった。
確かに凄く楽になる。
それに、そんな努力をしていたことが嬉しいやら驚くやら。
「すごい、すごすぎるよ」
ワシャワシャと撫で回しながら心に誓う。
パジェ君、帰ったらオイルも良いやつに変えてガソリンもハイオクにしようね。洗車も丁寧に手洗いにするよ。
それだけじゃ足りないな。
何か出来ること無いかな。
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