35、初めての釣り
ココナッツ……ココナッツシュガーはこの汁を煮詰めるのかな。
ココナッツシュガーという言葉には聞き覚えがあるんだけれど……作り方なんか調べたこと無かったなあ。
メープルと同じなら樹液?椰子の木から樹液なんか出るのか。
わからぬ。
ググればすぐなのに。ネット環境が無いと知識が一気に減る。知ったつもりのことも、細かい所は思い出せないことが多い。つまり自分の身になっている知恵じゃ無いんだな。
現代人、古代人より賢いなんて思い上がりだったんじゃ。わしら先人の知恵が無ければ何も出来ないんじゃ……
自分は多少雑学好きで余計なことばかりよく知っている、と思っていたけれど、知らないことが多すぎる。本当に思い上がりでした。
ちゃんと帰ったら色々勉強しよ。で、身にしよう。反省。
今日は身になる勉強という意味で、椰子の実も食べれたし。
別にその椰子の実が予想と違った味だったからと言うわけじゃ無いけれど、夕方前に石干見漁の罠に石を追加する準備をした後、釣りをすることにした。
なんだなかんだ明るいうちは動き回っていたから、のんびりしていなかったし。
してたかな?
自分的にはのんびりが足りない。
仕事中よりも歩き回っている気がする。
こういうときは釣りです。
牧歌的に?仙人みたいに釣りをするのです。
家の近所の釣り桟橋をよく利用するんだけど、ここならどこでも自由に釣りが出来る。サーフだサーフ。引っかかりそうな石も少ない。
罠にちょいちょい魚が掛かることから考えて、ここの魚は警戒心が薄い。無人島だからこその環境だよね、と楽しい時間を想像しつつ餌を探してみる。
地元だと海のゴキブリことフナムシがどこにでもいるし、フジツボに混じった大きめの貝を使うことも出来る。
まあオキアミやキビナゴ、アオイソメを買うことが多いけど。
イソメはおらぬか〜蚯蚓が好きか〜
即席の歌を歌いつつ森の浅い所で石をひっくり返したら、ムカデさんがこんにちは。
君ははいりません。
太さが親指くらいある蚯蚓は餌には向かない。長さは全長が見えないので不明。
うーん、エギングするか。
ヤドカリや
「ご主人ご主人、さっきの蚯蚓こっちを見ていますよ。大きくないですか。大きいですよね。蚯蚓って雨の次の日に何故か道に干からびているあいつでしょ。あれ、大きすぎないですか」
元に戻したはずの石の下から這い出した蚯蚓が確かにこちらを向いている。
こっち見てる……?目、ないよね?
なんで。
とりあえず手を振ってみる。
肉食の蚯蚓、ってことはないよね?
蚯蚓じゃ無くてモンゴリアンデスワームさんでしたか?エイリアンさんですか。
敵意はありません。起こしてごめんなさい。
「蚯蚓を餌にしようとかもう考えないので、森に帰ってください」
蚯蚓さんは土を豊かにするお仕事お願いします。
伝わったのか、偶然這い出していただけなのか、目を離している内にどこかへ行ってくれた。驚いた。
あ、敵対行動したら襲ってくるとか?ギシャアアって?
森の獣が向こうから先に襲ってくることは無い、とを言われたような。
動物だけじゃなく蚯蚓もその法則の内なの?
本当に蚯蚓を餌にするのはやめよう。
疑似餌にしておこう……。
せやっ せいっ ほっ
百円ショップのキラキラカラフルなエギを投げる。
周りに人がいると無言で釣りをするけれど、無人って快適。
掛け声だし放題。
声を出しているせいか、竿が良いのか、いつもよりも良く飛ぶ気がする。
普段は筋力が足りないせいか、タイミングが下手くそなのか、あんまり遠投できないので釣果が上がらないことも多いんだけど、勢いよく飛び出した偽物のエビは、気持ちいいほど遠くに着水した。
これだけ飛ぶと、何回でも楽しく飛ばせるな。
まあ今のところ、飛距離と釣果は関係ないようですが。
動かし方のリズムを変えて工夫してみる。
せいっ
リズムをつけてリールを巻いていく。
エギングのターゲットはイカ。私は美味しいエビですよ、イカさん気になりませんか。良い動きしていますよ。くいっくいっ沈めてー、クイクイ。
海の中でエギがどう泳ぐか想像しながら、一定速度で巻いていく。
速い動きが駄目なら、瀕死ですよ、食べ時ですよと装って。
それでも駄目なら緩急大げさにを付けて、時にはリズムよく。
いつも餌釣りメインだから、実はエギングほとんどやったこと無いんだよね。私のメイン釣り場が投げ釣り禁止なので。
あと、よく行く辺りは根掛かりがしやすいのでボトムゲームは素人に敷居が高い。根掛かりは、上手な人なら気にしないんだろうけどね。
下手の横好き、見よう見まねの独学だから、トライアンドエラーで、よくロストしてしまう。 投げサビキで、カゴをロストしたからね……複数。海を汚して申し訳ない。
せめてもの罪滅ぼしで、他の人の分のゴミ拾いもするようにしているから……地域の海岸清掃にも参加しているから、許して。
つまり釣りは好きだけど、下手くそ。あえて言うならブラクリで穴釣りとかの方が慣れている。手軽で美味しいメバルちゃんが好き。大きければ更に好き。
まあ、憧れてはいるので、ジグやエギも最近は安くなっていることもあり、使わないかもと思いつつ買い集めちゃうんだけどさ。
そしてその道具達が今役立っている。
サーフに合うのはどれだろう?イカいる気がするんだけど。
イカ狙いやめて、メタルジグに変える?
ほいやっ
もう一度エギを投げて海底を擦るイメージ沈めてから動かしていく。
なんどやってもイカは来てくれない。
何か触ったかな?という瞬間はあったりもするけれど、釣果に繋がらない。
釣りは体力勝負だって、釣り系配信者さん言ってたし。ボウズな時は編集でカットするから少ないように見えるけど、ザラだって言ってたし。
おかしいな、のんびりするはずが、浜辺を歩き回っていろんな筋肉使って何度も竿をぶん回して。
全然のんびりしていなく無いか。
まあ、楽しいから良いか。
「ご主人ご主人ご主人!!!!なんかきましたっすよー!!!!引いてるー!!!」
やってみたいというので扱いやすい一番短い竿を渡しておいたバジェ君が絶叫する。
強く引かれているようで、少し大きくなって竿を抑えている。
ジジジジジィー
ドラグの回る音が聞こえる。根掛かりじゃ無い。
全力ダッシュ——他の人には小走り程度の早さ——で駆け寄り、竿を受けとり掴む。
「すごいね、おおきいよっ」
竿をたてて、フッキング……多分出来てる。良い引きが手に伝わる。凄い引く。逃げようと又は見つけた餌に逃げられないよう、藻掻いているのが分かる。
大分引き寄せてからはたと気付く。
これパジェ君の初めての釣果じゃん。竿受け取っちゃったけど、最後はパジェ君に決めて貰わないと。
前足と蹄だとは思えないほど器用にリールを巻き取るパジェ君。
最後の抵抗とばかりに引きが強くなることもあるようだが、逃がすこと無く浅瀬まで引き寄せた。
靴を脱いで浅瀬に入り、用意していた網ですくい上げる。
そのままパジェ君に渡すと、パジェ君のつぶらな瞳がキラキラしている。
「うおー!イカっす!イカですよ!スルメですー!」
足まで入れると軽く三十センチは超えていそうなイカを掴みあげて、小躍りするパジェ君。嗚呼そんなに刺激したら……
びゅっしゃん
あーあ、パジェ君真っ黒。まあ黒豚くんだから良いか。失礼。黒猪。
「こいつ生意気っすね!」
大量のイカ墨を浴びせられても、なお嬉しそう。
嬉しいよね、初めての釣り。
初めての獲物。
うんうん、スルメにしてみようか。
イカはイカでもスルメイカじゃ無さそうだけど、きっと最高の肴になるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます