34、夢、破れて

只今、なんとも、微妙な気分。


それはついさっき。

遅めの昼食は新鮮な魚の塩焼きと、蟹のお吸い物というとても豪華な物になった。


取れたばかりの魚に軽く塩を振って網で焼いていく。強火で皮をパリッと。少し端に寄せて中までじっくりと火を通す。

じゅわっと溢れた水分が火に掛かって昇る煙までおいしさのアクセントになる。

その間に蟹を準備。

といっても丸ごと湯がく。

生意気にもバケツの中で下ごしらえをした魚をつまもうとしていた小さな蟹は、さっと湯通しをすると真っ赤に色を変えた。

一旦火から下ろし、水も新しい物に替える。ちょっと石チェックもしてみたけど問題は無いようだ。

腹側のふんどしを外し、甲羅をパカッとあげる。残念ながら雄で、卵は無かったし、蟹味噌もほとんど無い。まあ痛風に悪いから良い。負け惜しみじゃ無い。入ってたら喜んで食べるけど。

兎に角、開いた後エラを取って洗い切れてなかった砂を洗い流す。

後は手で四つに折って飯盒にポンっ。醤油を少々入れて一煮立ちしたら森で採った三つ葉をちぎって入れる。その上から溶き卵を流し込んで蟹と三つ葉の吸い物完成。

スラちゃんとパジェ君を呼んで大変美味しい食事をいただきました。


「蟹の殻は固いだろうから出してね」

「あ、食べちゃいました」

「ぴゃぴゃっ(ポリポリだったよ)」

咀嚼して食べる、という食べ方じゃ無いからなのか蟹の殻は気にならなかったようです。

あれ、食べれるの?と齧りついてみたものの私には無理だったので、予定通り実だけを吸い出して足をしゃぶる。

なんかちょっと悔しいのは気のせいです。


さて、十分豪華な食事だったけど、デザートがあるのですよ。


椰子の実!


ココナッツ!


椰子の木は背が高く、登る技術も無い私には手が届かないと採取を完全に諦めていたが、斜面の段差を利用して一個だけ採ることが出来た。

もうちょっと工夫すれば、他にも取れるかもしれない。ハシゴを作れれば話は早いんだけど。


さてさて、とココナッツの外皮の部分を鉈で削っていく。

気分は現地の屋台の店員さん。といっても実際には見たこと無いからドラマの中のシーンのイメージだけど。

ココナッツジュースは青い方が美味しいって、カリブを舞台にしたミステリードラマで言ってた。

警部補、貴方の飲んでいたココナッツジュース、私もいただきますよ。


何気に憧れていたのでちょっとテンションが上がっている。

椰子の実から飲むココナッツジュース。

凄い南国感。溢れ出るバカンス感。


ふふっふふんふん〜

ドラマの主題歌のレゲエをハミングしながら椰子の実を削っていく。


実はスーパーで椰子の実を見かけたことはあるんだけれど、ここで買うのは違うだろう。と、手を出したことは無かったんだよね。

意外に高かったし。


こんな機会があるなら我慢しておいて良かった。


出来た隙間にストローを差し込んで準備は出来た。

コンビニコーヒーのストロー、残しておいて良かった。



ふっふふふんふん〜


ん?うんん……


「ぴゃぴゃ?(おいしいの?)」


うん。美味しくはある。


「ご主人、おいらも飲んでみたいです」


二人が飲んでみたいというので、紙コップに出して渡してあげる。

「ぴゃぱー(ちょっと甘い〜)」

「思ったよりもさっぱりしているんですね。ご主人がさっきしていた話だともっと甘いんだと思っていました。これはこれで悪くないですが、ちょっと味のある水みたいですね」


そうなんだよ。

思っていたよりもずいぶんさっぱりしているというか……水っぽいと言うか……爽やかすぎるというか……

日本でパック詰めで売られているのは、加糖してあったのかな……

なんかこう、もっとまったりしてて、甘かった……


それを想像していたのでコレジャナイ感が。

本場のココナッツってこんなもの?


じゃあチョコとかに入っていて甘いのも、ただチョコが甘いだけ?

ココナッツミルクコーヒーは何だったんだ。


不味いわけじゃ無いんだ。

ほのかな甘みはあるし、飲みやすくてなんていうか……スポーツドリンクみたいな。フレーバーウォーターみたいな……


うん、なんて言うか……


憧れは憧れのままの方が良かった……かな……



こんな事がありました。

故に今、微妙な気分……。










=======

*作者注*

ココナッツを貶めたいわけではありません。

主人公はココナッツウォーターとココナッツミルクを混同しているので、こんな感想になったようです。

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