33、塩を目指して

畑に種を植えるときは、何が欲しいかを念じながら種を植える。

こめ〜かぼちゃ〜トマトをたくさん。だいこんーはくさい〜寒さに負けない強いやつ〜

ぱんっぱんっ

必要な世話は仲間と頑張りますのでたくさん実りますように。

最後の一礼もしっかりして、種を植え終わった。

最後の一押しで土をかけると、スラちゃんが最初の水をしっかりかけてくれる。

手の先を如雨露のようにして優しく水をまく。スラちゃん器用。



パジェ君に蟻塚の土を預けて浜へ降りる。

潮は今満ちているので、他の罠の様子を確認。

先日入れたままにしておいたハゼがいない。逃げたのか、何かに食べられたのか。蔦で作った罠の中には蟹が入っていた。ハサミまで入れても手のひらほどで小さいけれど、いっちょまえに威嚇をしてくる。

嫌いじゃ無いよ、その気概。

けれど君は食料決定。


バケツに獲物を移すと、一緒にいくつかにしも出てくる。小さくてタニシの海の中バージョンといった感じなので、軽く潰して今回の餌にする。

もうちょっと大きいと食べるんだけれど。



さて、作業してみようか。

パジェ君になるべく平らな場所に土を出して貰う。


因みに今日もスラちゃんはお留守番。

「ぴゃはー(お世話するの)」とのことです。畑の植物に興味津々のようなので「いっぱい育つようにお世話お願いね」と言ってきた。

ちょっと寂しい……。

夜にいっぱい揉ませて貰おう。

……なんだろう、発言が変態臭い気がする。まあいいや。

気を取り直して土に水を加え混ぜていく。


多少砂が混じっても多分大丈夫だけど、混じりすぎないように。実家が陶芸の里から近いので陶芸体験は何回かしたことあるはずだけれど、粘土を最初から練ったことなんか無い。いつも講師の先生が下準備をしてくれていた。

確か川か海の砂を混ぜるはず。練るときは空気を入れないように、とは言うけど、折り返しては駄目なんだろうか。

とりあえずこねこねゴネゴネを繰り返して、なんとか一纏めにする。

ちゃんと粘土のような手ざわりをしている。

途中何度か高い所から落としたので、空気も抜けていると思う。あと思い出しながらキクネリもしてみた。正式な工程名かは知らないけれど、菊のような形に練るからキクネリ。先生がそう言っていた記憶がある。


拾ってきた細い丸太を綿棒のように使い伸ばしていく。


いいな、この木。

直径五センチ弱というところだろうか。持ち歩くには私の手に余るけれど、真っ直ぐで丈夫で素晴らしい。

もうちょっと細かったら、布団たたきの代わりに森での採取のお供にしたいくらい。

未だに森での採取や散策には布団たたきを持っていっている。

丸腰は気持ちが落ち着かないし、振り回すとビュンビュンいい音がして強くなった気がするし。



粘土を並べ、足りない所には足しつつ一畳ほどに伸ばして作業は一応キリを付けた。

あまり薄くすると割れるかもしれない。厚みはあった方が良いだろう。後日表面だけは軽く焼きたいと思っているのだ。

粘土を継ぎ足すときに残ってしまった隙間を埋めて伸ばしていく。水を付けた手で撫で、なるべく表面は滑らかに。

細かいヒビくらいは良いが、バキンとなるとやり直しだ。

縁を少し高くして、料亭で焼き魚が載ってくるような皿の大きい物が出来た。

いや、いいすぎた。

平らな大きな粘土板。うーん、会議室のホワイトボードを倒したような物。


うん、これだな。

料亭の皿は良い例えすぎた。


兎に角これを乾かしたいので、今はこのまま放置しておく。

水は来ない所を選んだし、乾燥には数日かかるだろうが大丈夫だと思う。

雨が来ないことを願おう。


しっかり乾かしたら、表面で焚き火でもして焼き締めたい。

派手に割れたり全く駄目なようならブルーシートを使ってみるが、出来たら現地調達出来る方法を探しながら暮らしたい。


持ち込んだ材料や道具も、いつかは限界が来るから色々試しておかないと。



因みに今作ったのは塩田をアレンジしたもの。

海水をたくさん含んだ砂を薄く敷いて乾かし、敷いて乾かし、としていけば

塩田のように塩分の高い砂が出来ないかと思ったのだ。

それをたくさん集めて海水を注げば、塩分濃度の高い鹹水かんすいになって、煮詰めれば塩が出来るのではないかな……と。


揚げ浜式も入浜式も言葉だけの知識で詳しいやり方を知らないけど、要するに塩の濃い砂があれば良いんでしょ。と単純に考えました。


駄目なようなら海水を頑張って煮詰めます。

百リットルで3キロくらいの塩になるはず。

……気が遠くなるな。



ま、兎に角やってみましょう。



昼を過ぎているのでそろそろ食事を食べたい所。

魚をもう一度確認すると小さめの黒鯛が掛かっていた。色がちょっと青い気もするけれど、きっと黒鯛だ。

堤防釣りでも釣れるもんね。

いい物が手に入った。



キャンプに戻る前に下ごしらえをしておこうと、包丁まな板を出して貰う。

思いついたらそのまま浜辺で料理できるの良いな。包丁はいつも積んでおこう。


内臓を取ってぬめりを取ったら鱗を剥がしていく。

流石に鱗取りはないので包丁の裏で丁寧にこそげていく。鱗は残っていると食べるとき結構気になるものだ。

もう一度海水で洗い準備は出来た。

内臓は罠に入れておいた。来い、スズキ。セイゴでも良い。季節なんか気にせず来い。と念じておく。


まだ数回しかこの斜面を登っていないけど、頑張って木を動かしたからか体力が付いてきたのか歩きやすい。綿棒にしていた木を杖にしているからかもしれないけれど。

多少息は切れるけど、パジェ君のお喋りに応じる余裕がある。


おしゃべりするパジェ君は本当に楽しそうなので、こちらも嬉しくなる。けれど全く息が切れないパジェ君の体力が不思議である。

あ、付喪神って呼吸しないのか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る