31、山の恵み

魅惑のベニテングダケをすぐに食べてみたい欲を抑えつつ、一旦キャンプに戻り、ベニテングダケをはじめとした採取したキノコを適当な厚さに切って岩の机に並べて干しておく。

キノコ類は干すと栄養が増して美味しくなったはず。

それにまだ日がある内にやりたいことができた。

森で採取した木の実のバケツをパジェミィの中に入れていたので、さっと洗った後、水切りがてら干しながらオニ君に声をかけて害虫対策をお願いする。

あ、鳥とか来たらどうしよう。啄まれる?

え、大丈夫?なんて心強い。

数時間前は夢中で遊んでいたスラちゃんは、疲れてお昼寝をしているようだ。


時間は午後二時。まだ日は高い。

涼しくなってきたと思っていたが、今日は季節が戻ったのか少し暑い。急に暑くなったり、寒くなったり。季節が安定しないのは最近の日本と同じだな、と思う。

森に戻ると日差しが遮られて少し涼しい。

でものんびり涼んではいられない。

早足で目的の場所に着くと、先ほど見つけたときと変わらず地面に多数の瘤が出ている。

瘤というか、正しくは塚。蟻塚。

乾燥地帯に多いイメージがあったんだけれど、森の中の拓けた場所に、大小の塚が並んでいる。数十センチ程度の物から、小山ほどもあるものまで。中には表面に草の生えているものもあるが、多分コレも蟻塚だろう。

蟻塚はアリが巣を地中に作る時に出た余った土が主な材料で、他にも植物などが使われている。使われているというか、余って邪魔な廃棄物を自慢の顎で細かくして捨てて出来たはず。その時に出る唾液的な成分のお陰で粘土として使える。

アフリカ某所のNPOで活動していた友人から、蟻塚でかまどを作った、と土産話を聞いたことがある。

かまどに使えるという事は、ある程度熱に強いんだろう。どの程度の粘土かは未知数だけれど、粘土があるなら作りたい物がたくさんある。


早速大きなゴミ袋を広げて蟻塚の土を採取していく。

ただ、塚の内部にまで巣が広がっていると、アリとご対面してしまう危険があったので蔦と木の枝で作った即席のトンボで崩していく。

毒があったり咬む蟻もいるので恐い。

よいしょ、と力を込めると思ったよりも硬い。もっともろい物を想像していた。何度か力をかけると上の方がボロリ、と落ちてきた。

たぐり寄せて表面を観察し、さらに割ってみるがアリがいる様子は無い。ひとかけらずつ、観察しつつ採取してゴミ袋の半分ほどになったので、パジェ君に一旦パジェミィに収納して貰う。

万が一中からアリが出てきたときに備えて口はしっかり縛り、出られないようにした。

しっかり見たつもりだけれど、帰ったら車内が蟻まみれなんて嫌だ。

戻ったら一旦しっかり砕いて、もう一度虫や蟻がいないかしっかりチェックしよう。

蟻に襲われたくない。


ああ良い仕事をした。

ふうと額の汗を拭きつつ時計を見ると4時近い。今日は海へ行くのは諦めたとしても、早く戻らないと暗くなってくる。


戻れ戻れ、スタコラサッサ。


急いでキャンプに戻り、干していたキノコと木の実を回収。一応回収しつつ最終チェックで石を当ててみるが、問題は無いよう。


もっとしっかり干して保存食も作りたいが、今日はまずは味見という事で。

二時間程度干しただけでは水で戻す必要も無さそうなので、さっとキノコは炒めておく。


キノコは油と相性が良いはず。オリーブオイルと塩胡椒を振って炒めるだけで良い匂いがしてきた。

干さなかった分のキノコは網で焼いていく。僅かに垂らした醤油の焼ける匂いがまた美味しそう。

他のキノコはともかく、ベニテングダケは毒キノコのイメージがあるので最初に食べるのには勇気が要る。

いやでも、石が青く光ったし……。


まずは炭火でよく焼いた物を味見。

プリッとした食感と、後から溢れるうまみ。醤油との相性も抜群。オリーブ炒めの方は少しまろやかで、うまみがキノコを覆っている感じ。少しだけ干した分、味が詰まっているというか、濃い。

……なにこれ、思った以上においしい。他のキノコも美味しいんだけど、ベニテングダケ、美味しい。

日本じゃ猛毒危険キノコなのに。

パジェ君スラちゃんも食べてみた所、パジェ君は炭焼き、スラちゃんは炒めた方が気に入ったようだ。

わかるわかるよ。

オイル炒めはまろやかで美味しいし、炭火焼きは酒が欲しい味だよね。マヨ七味でも合いそう。


これは酒だ酒。酒をだせー。


クーラーボックスに手を伸ばそうとして、はたと手を止める。

今日の行動を思い返してみる。

明日の朝、また仲間が増えてたらどうしよう。

今日はそんなフラグの立つような行動してないよね。人形を作ってないし、魔石をいじってないし。

蟻塚のアリさん達とお友達になる予兆なんて無かったし。蟻からしたら、ゴミ収集車程度の物だもんね。


……うん、よし。大丈夫。



別に酒飲みというわけが無いんだよ。空き缶は有用だからさ。

中身を捨てるのは勿体ないからさ。……と一応自分に言い訳をしておく。

酒を片手にキノコを味わいつつ、野草とハーブのサラダをぱくり。

おいしい。けれどミントはサラダには強すぎたかな。別口の方が良いな。

木の実をつまむとどれも甘酸っぱい。

店で買った物ほど甘くも無いし実も小さいけれど、コレはコレで美味しい。

秋なのに実っていたグミの実に小さな虫が入っている。最初から入ってたんだろうな。食べる前に気付いて良かった。

昆虫食は最後の手段にしたい。というかできるだけ遠慮したい。

オニ君を呼んで虫を見せたら、器用に捕まえてパクりと食べた。

「これからは実の中まで注意して虫を追い払います」

頭を下げられてしまった。

野生の植物に虫はつきものだし、保存食を中心に守ってくれたら良いんだけど。

無理の無い範囲でお願いします。

ワラさんも呼んでみると、いただきます、といくつかの木の実を食べるというか吸った?ワラさんに精気を吸われた木の実はしなびて少し色も茶色くなっている。

「森の木の実も美味しい物ですな、精気に満ちています。しかしあまりに実が小さい。大きな実がなるよう、育ててみます」

種のいくつかから品種改良に挑戦してくれるらしい。

楽しみにしていよう。

今はまだ採取しているだけだけど、キャンプの近くに食べられる植物を移植しても良いな。

有り難いことに近くに森には溢れているけれど、近ければ雨の日とか暑い日寒い日に便利だし。

ハーブ園目指してみようか。


そういえば、と山の中を確認して考えたことを聞いてみることにする。

「ワラさん、欲しい木があるんだけど、この種で木も育つと思う?」

「とても力に満ちた種です。どのような木をお望みですか」

山神様の種を見せると、ワラさんは頷いてくれた。

「サトウカエデとオリーブ2本、あとムクロジが欲しい」

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