29、カレーの誘惑または魔力 

「ご主人、ご主人大変です!カレーが!大変です!」

テントの中で一緒に寝ていたはずのパジェ君に揺さぶり起こされた。

「カレー?どうしたの、こぼれた?」

寝袋から這い出してテントの外に出る。

身体を解していると「そんなんじゃないです、大変なんですって」と引っ張られる。

その蹄でどうやって引っ張っているんだろう。

そんな事を思いながらパジェミィの扉を開けた。


閉めた。


え?


「なにこれ、どういうこと?」

「わからないっす。おいらも寝ていたんすよ。違和感があって車内を探ってみたら、もうこうなっていたっす」

何が何だかわからないっす。


目の錯覚じゃ無いのか。

もう一度扉を開ける。


パジェミィの中ではインド風藁人形とオニヤンマ君がカレーを食べている。


ガチャン、バンッと開けて閉めた音に驚いて、動きを止める藁人形とオニヤンマ。

そのまま流れるように土下座をした。


ダッシュボードにいたはずなのになんで動いているの。




まあ、まあ、まあ、ここは不思議な世界だし、不思議な世界だし。

うん。

兎に角、頭を上げましょう。

それ土下座だよね、拝礼してるわけが無いよね。


食べた、と言ってもごく少量だったので温め直して朝からカレーを皆で食べることにした。

焦げないようにちょっと水を足して温めた軟らかめのご飯に、湯気の立つカレーをかける。

欲しそうなので、藁人形とオニヤンマ君にも分けてあげる。オニヤンマ君はルーを舐める程度で良いみたい。


「ありがとうございます、ご主人様。あまりに良い匂いで我慢が出来ず、大変失礼なことをしてしまいました。申し訳ありません」

「申し訳ありません」

藁人形とオニヤンマが謝ってくる。


まあ、喋るだろうなと思ったけど、ご飯を一緒に食べたら言葉が通じた。

分け合うことが重要で、許可を得ないつまみ食いでは駄目らしい。

気にしなかったけど、コレもずいぶん不思議な法則。

「まあそれは良いんだけど。まあ今後は気をつけてね。で、なんで動けるようになったの?」


「わかりません」

「わかりません」


わからないか。

そりゃそうですね。私もさっぱり分からないし。

「パジェ君、パジェミィの中に入れておくと早く付喪神になったりする?」

「ならないっすよ。それで成るなら他の道具も動き出してますよ。今のところ他の違和感はありませんし、おいらじゃなくてご主人がなにかやったんじゃないですか」

ごもっともです。他の道具が動き出す様子は無い。

何だろう、他の要素。私がやったこと?魔石を付けた?


「やっぱり魔石、かなあ」

ネモさんの話では透明や白程度の魔石は精霊が生まれたりしなくて、燃料や道具に主に使われる。って話だったのだけれど。

それを聞いて石油石炭か充電池みたいな物かと思っていたんだけれど。

認識が違ったのか。

でも精霊の卵の話と矛盾しちゃうよね、他のからも精霊が生まれたら。

「二人は精霊?妖精?付喪神?」


藁人形とオニヤンマが顔を見合わせて首をかしげる。

やめて、オニヤンマ君。そんなに傾けたらトンボの首がもげそう。

「申し訳ありませんが、わかりません」

「俺も分かりません。ただ、害虫駆除が得意な気がします」

「それをいうなら、わたくしは畑の番人か管理人をしたいです」


オニヤンマ君が害虫駆除、藁人形君が案山子か。

まあ予定通りのお仕事なのでやって貰いましょう。



理由なんか考えても分かるはずが無い。

ただ魔石は慎重に使うようにしよう。

車内の道具で百鬼夜行は、面白そうだけど笑えない。

鍋とかしゃべり出したら、可哀想で火にかけられなくて困る。


もしかして生き物の形していないと駄目、とか決まりがあるのかな。


それかやっぱり、酒飲むと 仲間が来るよ 不思議だな。の法則があるのか。




「じゃあ、とりあえず得意なお仕事を頼みたいけど、できる?」

まだ畑が花壇サイズくらいしか無いんだけど。

「できます。畑の世話はお任せください」

「オニヤンマ君には引き続き害虫駆除をお願い。干し柿もだけど、干物とか保存食も作る予定だから」

「お任せください。害なすやつは追い払いますよ」




「あ、食事いる?」

カレー食べたし、彼らの分もいるかな。

「俺は必要ありません。虫を食べます」

「わたしくしも。育つ植物の精気をいただきたいです。お許しいただけますか」

「いいよ、発育に影響ないようによろしくね」

なんだろ、藁人形は高齢男性の雰囲気がある。顔を描くときに髭を書き込んだからかな。ワラさんと呼ぼう。

オニヤンマ君はなんていうか……ヤンキー?口調は丁寧なんだけど、なんとなく。オニ君で良いか


「ワラさん、オニ君、よろしくね」

「「よろしくおねがいします」」



まあネモさんが起きたら色々質問してみよう。

まあ、心強い仲間が出来たという事でいいか。





「あ、オニ君時々スラちゃんの遊び相手になってくれる?」

「もちろんです。よろしくな、スラ坊!」

「ぴゃっぴゃっぴゃ〜(うれしいな)」


喜んでスラちゃんがオニ君に頬ずりをする。

やめてやめて、トンボの首がもげそうで恐いから。

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