26、食料事情と垂れスライム

沈む夕日を背中に受けながらキャンプに戻る。

夕方が長く楽しめるのは良いけれど、一週間前と比べると少し日の入りが早くなっている気がする。

「水温も、違ってきてた、気がするし、四季は、あるのかもね」

「四季ですか、いいっすね。どの季節もその季節なりのドライブの楽しみ方がありますから。あーでも今いるキャンプ場だと走るのには狭いですね。スラちゃんが作ったこの坂を下りることも出来そうですが、調子に乗って走り回れるほどはもうガソリンの余裕が無いのはおいらが一番分かってますんで。とはいえ、もう十キロくらいなら余裕で走れますよ。舗装された道ばっかり走っていたので、この間海岸を走ったのがほとんど初めてくらいじゃないっすか?舗装が完全に無い道って。だから荒れ道での自分のポテンシャルはおいら自身いまいち計り知れないんですが」


独り言に近かった呟きにパジェ君が返してくる。

スラちゃんはその背中で眠そうにしている。遊び疲れたらしい。


それにしてもパジェ君の凄い所は、結構急な坂道を歩いていても息が全く乱れない所だ。

私は結構息が上がってきているのに。


上り坂は十分程度で登り切れた。

たいした距離じゃ無いけど、疲れた……。

今後のためにもう少し上りやすい道を作ろう。今は時々足元に倒れてめり込んだ木が邪魔をする。





さて、ご飯何にしようかな。

本当に材料がもうなくなってきた。

持ってきた四分の一キャベツから根が出始めている。ニンジンの頭からも少し葉っぱが伸び始めた。

野菜の限界も近い。


思いついてキャベツの芯とニンジンの頭は切り落として別にしておく。

これ植えたら花が咲いて種が取れるんじゃないかな。

よくネギや豆苗で水プランターもどきをしていたけど、それでも一食分くらい、付け合わせの彩り分くらいは収穫できた。

もう根っこや芽が出ているんだからこれでもいけるでしょ。花が咲くのは春になるかもしれないけど。

よく育つ良い土も貰っているわけだし。やってみよう。


野菜をとりあえず植えてみて、試していこう。万能種で何を作るかは森の中の植物を確認してからの方が良いな。近いもの有るかもしれないし。

山芋はあったし、多分里芋は有るんじゃ無いかなと期待している。

果物も欲しいけど、近いものがあるかも。出来たらシブくないのが良いな。



そんな事を考えながらキャベツの外側の葉とニンジンの半分を刻んでいく。

残っていたベーコンも薄切りにして今日はお好み焼きだ。

卵の他にかさ増しでちょっと水を入れたから、だら焼き風だけど。

お手軽で冷蔵庫の残り物を全て入れてよく作るんだよね。

何を入れても割と美味しいから好きだ。

さて、スキレットとダッチオープンの蓋で一気に二枚ずつ焼いていく。


「できたよー」

ひっくり返した所で呼ぶとパジェ君はすぐにやってきた。


けれどスラちゃんが来ない。

「スラちゃん?」


「ぴゃー……」

もう一度呼ぶと、平ぺったくなってのろのろとやってきた。


え?


え?なんで溶けてるの!?




「ひゃー……(ごめんなさい……)」

バブルスライムの様になったスラちゃんに突然謝られて驚いてしまう。

「昼間走っちゃったこと?もうしないって約束してくれたから、いいんだよ?」


「ひゃぷ〜(ちがうの、あのね)」

取れちゃったの。



身体の下から出されたのは風鈴に付いていたオニヤンマ君。どうやらじゃれつきすぎて紐が千切れてしまったらしい。


玩具が壊れちゃったのか。

ビックリした。

何かの病気かと思った。



「大丈夫、紐が取れただけだから、すぐ直せるよ」

背中に糸を通そうとして気付いた。

「あれ、目玉ない……」

両方取れているため気付くのが遅くなったが、ポコッと出っ張っているはずの目玉がなくなっている。


「ぴゃぴゃぴゃ……」


一瞬形を取り戻したのに、ショックを受けたスラちゃんが更に垂れてしまった!



「大丈夫、大丈夫、目玉つけてあげるからね!元気出して」


とは言ったものの、落ち葉も草もある木の下、小さなプラスチック玉は見つからない。

風で転がってしまったのかもしれない。


探している間にもスラちゃんは垂れていく。


「大丈夫、大丈夫だよ、ほらっ新しい目玉!」

魔石の目玉だよ!スラちゃんとお揃いだね!


ネモさんに貰った小さい魔石から、なるべく丸いものを選んでボンドでつけた。

別に、光れ〜訓練(仮)はオニヤンマ君につけても問題なく出来るし。しっかりつけておけば出し入れで無くさなくて良いかもしれない。うん、いいかも。


「ぴゃぴゃぴぴん(なおった?おそろい?)」


治ったよ、けどしっかり治るために、ボンドが乾くまで寝かせてあげようね。


一晩乾かすために、ダッシュボードの元々スラちゃんが入っていたケースの上に載せておくことにした。


それを見てやっと固形に戻ったスラちゃんと、火の横に戻る。



焼いていたお好み焼きは、パジェ君が皿に出してくれてたので焦げること無く無事でした。


調理中に席を立つのはいけないですね、反省します。

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