25、石干見(いしひび)漁
「この石、ちょっと大きいけど収納できる?」
「はいっす。出来ますよ〜」
じゃあいったん収納して、さっきの石の横によろしくね。
この世界の満潮干潮の時間は大体固定されているらしい。
だいたい明け方夕方6時前後に干潮になって、零時と正午に満潮になる。この一週間はそんなサイクルで動いている模様。
寝坊した日もあるけど、一日おきに大きく変わるとは考えにくいから、大体合っていると思う。
引き具合、満ち具合は多少変わっているけど、時間が決まっているなら分かりやすい。
その潮の動きを利用して罠を仕掛けることにした。
最初は角立て網のような道具がいるものを考えていたんだけど、先日潮だまりを見て思いついた。
人工の潮だまりを作れば良いんじゃ無いか?と。
朧気な知識と勘で干潟でやっているような漁の形式をまねてみる。
一抱えくらいある石や流木を流されにくいように考えつつ、大きく半円状に並べていけば、人工の潮だまりが出来るはず。その中に魚が取り残されてくれれば、網などで捕れば良い。
海で追いかけ回すよりも簡単そうだし、釣りよりも時間が掛からない。
釣りは落ち着いて出来るようなったらするけどね。
持ってきた竿達が出番を待っている。
今はまだ潮の引ききっていない時間なのでちょうど良さそうな石を浜辺に移動しつつ、辺りの様子を見ている。
大体東側と比べ、潮が満ちると砂浜が狭くなるようで、降りてきた丘の他にも丘が多い。
背後にすぐ山が迫っている感じがする。
小島も多く見え、木が一本だけ生えている島も見える。いくつかの島の他に岩が頭を覗かせている場所もあり、夫婦岩のように並んでいるもの、島と言って差し支えなさそうな大きさだが、どう見ても一個の岩と言う物もある。
砂浜も岩がむき出した所があるし、かと思えば石ころ自体は多いわけでは無い。
綺麗な白い砂浜であることは変わりなく、椰子の木も時々生えている。
松の木も生えており、人工の防風林で無くても海辺に松はあるものなのだと感心した。
海辺の松は日本ぽくて良い。
そういえばどこかに赤松は無いだろうか。
毒が分かるようになったので、キノコにもチャレンジしてみたい。
え?スラちゃん?
そこで海水飲んでいます。
一応勝手に走り出さない、とお約束はしてもらったけど、きっと気性としては小さい子どものようなものだからしょうが難しいかもしれない。
しっかりお話ししたつもりだけど、またいつ走り出すか分からない危うさ。
世の中の親御さん達の苦労がちょっと分かった。
独身ですし、ここ数年彼氏もいないし、結婚願望無いからもう彼氏を求める気持ちも無いし。なので親になることは無いだろうけど、親になった友人達が一回りしっかりしたのは、この大変さを乗り越えているからなんだな、と。
余計尊敬の念を抱いてしまう。
元々有り難いことに人に恵まれたから、尊敬できる友人ばかりなんだけどね。
そんなわけで子育ての経験もなから、どうやって怒ったら良いのかがいまいち分からない。怒る、いや叱るなんだけど、叱っても何でいけないのかが分からないと理解できないし不満しか溜まらない。
そもそも、スラちゃんはしゃべり方や鳴き声が可愛いから子どもだと思っているけれど、妖精に近いらしいし、生き延びる力は私なんかよりずっと高そう。
攻撃するつもりが無くても『踏み潰す』『のしかかる』を繰り出せば、危ない獣がいたとしても大丈夫な気がする。
分かっているけど、分かっているんだけど、心配するなというのは難しいので、泣き落としした。
結果、遠くへ行かないよ、泣かないでとスラちゃんに慰められた。
まあ涙目の理由の半分くらいはイノシシジェットコースターだったかもしれないけど。
急に遠くへ行っちゃうと心臓に悪いのは確か。
夕方近くなり、手前から石を並べていく。
東側の感じだともっと水が引きそうな気がするんだけど、もしかして満ち引きの差が少ない小潮に当たってるのだろうか。
まあ様子を見てみるしか無い。
五時近くなって薄暗くなってきたので今日の仕上げをする。
「じゃあ大体囲うように石を落としてね」
「はいっす」
まだ引き切っていない海にパジェ君を抱っこして靴を脱いで入り、半円を塞いでいく。
腕をのばして足に石が落ちないように気をつけつつ、いったん積んだ石を落としていくパジェ君。
荷物を出す場所は、前とか横の指定は出来るけど遠くには出せないと言うから海に入ってみたわけだけど、最初の日に触った水よりも水温が低い気がする。
結構冷たい。
まだ隙間も多いし、高さも足りないけれど一応罠の形が見えてきた。
明日以降も作業しつつ様子を見ていこうと思う。
近くでバシャバシャやっていたせいか、投げ込んでいた元の網罠には何も掛かっていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます