24、効果音はズモモモバキバキ
昼です。
もう昼ですよ。
朝からトイレ穴掘ってたら、もうすぐ昼ですよ。
今回は一応傾斜と家相を考えて、南東の方へ少し進んだ所に掘りました。まあ屋外で家相は関係ないんだけど、お墓の方には気分的に申し訳なくて作れません。
一応頭上の枝に百円ショップのレジャーシートをかけて屋根を作り、集めてきた葉のたくさん付いた枝で壁っぽい物も作りました。
トイレです、一応屋根付きです。
中から外の風景が透けて見えるけれど、一応壁があるので、ちょっと安心感があります。
最初は骨組みごと壁が移動できて、穴を横にずらしつつ使える屋台みたいな物を計画していたんだけど、木を切って、組み立ててが大変だったのですぐに使えることを優先した形になった。
そのかわりトイレになる穴を、石と木で作った即席スコップでせっせと深めに掘ったので、しばらくは使えるはず。
自然派生活というか本格派な人は、トイレもコンポストだか堆肥だかにして使うらしいけど、どうやるんだろう。自然の微生物に期待で良いんだろうか。米ぬかとかありませんけれど。
誰か教えて。
検索して調べたいことだらけで、なんかの拍子に電波が繋がらないかな、とついついスマホをチェックしてしまう。
残念ながら電波が通じることは無く、ライトとカメラ機能くらいにしか使い道が無い。それでもソーラーバッテリーで充電してしまうのは、あってもしょうがないけど、無いと不安で仕方ないからだろう。
これもスマホ中毒になるんだろうか。
時々音楽も流すけれど、最近は動画サイトのミュージック版を主に使っていたし、有料会員だから広告なしで定額使い放題だしで、音源のダウンロードを昔のようにはしていないのだ。
だから音楽も後数週間すれば聴けなくなる。確かしばらくログインしないとオフライン機能使えなくなるはず。試す必要も無かったので、しっかり確認しておかなかったことが悔やまれる。
さて、お昼にしましょうか。
といっても材料が段々減ってきているので、今日も簡単な食事。
と思ったら冷蔵ピザがまだあった。石窯で焼こうと思っていたんだった。
賞味期限は切れてしまっているけれど気にしない。消費期限さえ切れてなければ良いんだ。
キャンプに来たぞーという気分で言うならばダッチオーブンで焼きたいんだけれど、どうせなら時間と火の無駄遣いをせずダッチオーブンではお湯を沸かしたい。
昨日の干し柿の続きも作りたいと考えている。飯盒やミルクパンではサイズがいまいち合わないのだ。林檎柿大きい。
湯通ししなくても大丈夫かもしれないけど、煮沸した方が雑菌が付かないって、昔近所のおばちゃんが言っていたような気がする。干し柿作りの名人で、今でも毎年いただくんだよね。そろそろ作っている頃じゃ無いかな。
食べたいな、おばちゃんの干し柿……。
いかんいかん、今は出来ることをしていかなければ。
さてピザはどうしようかと迷った結果、まずダッチオーブンで普通にお湯を沸かし、干し柿作業用のお湯が出来たら、蓋でピザを焼くことにした。
ペットボトルの水(先日汲んできたもの。石チェックで安全を確認)を鍋に入れ沸かしておく。
その間にスラちゃんに水の補充をお願いした。
スラちゃんから直接水を鍋に出して貰うのは抵抗がある。というか、水の分量の責任は料理する人が取らないとね。というのが、昨日の教訓。いっぱい出し過ぎちゃったからって怒るのはお門違いだし。
まあ後、気分程度の違いしか無いけど、仲間を使っているというか、水袋代わりにするのは申し訳ない。結局水では頼ることになりそうなので、どこに入れようが本当に気分の問題なんだけれど。
そんなわけで、一度ペットボトルに入れてもらうことにした。
一応今後のことも考えたのだ。
水は自力で、と無理をしつつこの生活が長くなってきたら。もっと余裕がなくなってきたら。
最終的に修羅のごとき目つきでスラちゃんに吸い付いて水を飲む自分が、簡単に想像できてしまった。
それは人としてどうなのか。
吸い付かれた方も可哀想。
考えた結果、スラちゃんが無理と思ったら絶対に言って貰うようにお願いしつつも、入れ物に水を補充して貰う。これでしばらくいってみようと思う。
努力はしつつも助けも借りていこう。
頓挫した水カゴ作戦も、その日その日で生活に使う水はなるべく貯めておきたいので、もう一度実行することにした。まあ今のところ、そこに水を入れてくれるのもスラちゃんなんだけど、度々出して貰うのも悪いのでなるべく貯めつつにしたいと考えたわけだ。
水を自在に出せる水の妖精のスラちゃんと、収納魔法と言って良いことが出来る付喪神のパジェ君。
不思議空間に収納するか、本体の中に収納するかの違いで「これほぼ収納魔法だよな」と気付いたのは衝撃だった。
二人にはもっと良いものを食べていただけなければ、駄目なんじゃ無かろうか。
お駄賃あげたい。
私役に立ちませんね。飲んだり食べたり燃費は二人より悪いのに……。
私の取り分、多過ぎ……?
よく見る転職のネット広告の逆バージョンである。
悲しい。
「遅くなってごめんね、できたよー」
呼ぶとすぐにやってきて席に着く二人。
今は薪を並べただけの椅子だけど、もう少し座り心地の良さそうな椅子も作ってあげたいな。
蓋代わりにしていたアルミ箔から炭をどかすと、チーズの焼ける匂いが広がる。においは食事の一部だな。美味しそう。
いつもなら使い捨てのアルミ箔も伸ばして箱に戻しつつ、まな板に出したピザを二人の前に出してあげる。
ピザカッターがあるともうちょっとワイワイ楽しいんだけど、ないので包丁でざくっと切った。
出刃と柳刃と三徳包丁の3本セット、便利です。箱入りなのがより良い。
結婚式の引き出物カタログで貰いました。
あれ、ついついキッチン用品もらちゃうの何でだろう。
手動チョッパーとか、貰ったものの使っていない物も多い。
ピザ一枚じゃ三人に足りないので、採取したムカゴの油炒めと、レタスとベーコンの炒め物も作る。
レタスの炒め物は好きだけど、しなしなになると嵩が減って損した気分になる。まあおいしいから良いけど。
干し柿をもう三束作業して、木につるす。一房に四〜五個だから、二十個近く収穫していたことになる。運ぶ手間が無いからそんなに多く獲ったのに気付かなかった。
「さて、一回海に行ってみようか」
トイレ制作だけで一日を終わらせるには早い。様子を見つつ、罠を仕掛けに行かないと。
「ぴゃぴゃひゃ〜?(しょっぱいおみずのところ?)」
「そうだよ、しょっぱいお水の大きな水たまりが海だよ」
「ぴゃー(うみー)」
「今日はおいらにのりますか。斜面も楽々、快適なイノシシ列車はいかがですか。安全運転で行きますよ。ご主人がよたよた下りるよりも、よほど安全ですよ」
安全、を強調しながらパジェ君が誘ってくる。
そのお誘いは魅力的だけれど、まだ覚悟が無い。
しかも海への斜面は、前のキャンプ場と比べて角度がある。
急斜面、と言うほどでは無いのだが、足を滑らせそうな程度には角度がある。
木に掴まりつつ、安全な足元を確認していく。
「ぴゃははぴーぴゃ〜(うみいくー!いっちばん〜!)」
スラちゃんが楽しげに宣言をしたかと思うと、乗っていたパジェ君から飛び降りる。
「スラちゃん、危ないから一緒にいこ、う……」
走り出しそうなスラちゃんに声をかけるが、その声は届いていないらしい。
みるみるうちに大きくなったスラちゃんは「いっくよー」と鳴き声を上げながら転がっていく。
行く先の木を全てなぎ倒しながら。
これあれだ、古風なダンジョンの罠でよくある、巨大な石が転がってくるやつだ。無慈悲に目の前のものを全部潰しながら転がる、あの石だ。
地鳴りのような音が遠ざかってゆく。
「子どもって恐いもの知らずですね。流石のおいらも木を全部なぎ倒すのは考えてなかったっす。スラちゃんあれで、かなり硬いんですかね」
驚きっす。
スラちゃんの通った後には道が出来ている。
邪魔な木はなぎ倒され、有っただろう段差やでこぼこは踏み潰され(転がり潰され?)て、そこにいくつかの木がめり込んでいる。
スラ、ちゃん……
「追いかけなくて良いんすか。ご主人。」
パジェ君の声にハッとする。
もう『ぴゃ〜』の声も聞こえない。
「乗ってください、本当に。ご主人の早さじゃスラちゃん海の彼方に行っちゃいますよ。いいんですか。良くないでしょう。一回乗れば慣れますって。さあどうぞ」
確かに段差がなくなって歩きやすいものの、掴まる所がないので頼りない足取りになってしまう。
ゆっくり行けば安全な道が作れそうだ。けれど今は。
恐いとか言っている場合じゃ無い。
「あーもう、恐いけどお願いしますっ。安全運転で!早く、安全運転で!」
大きなイノシシになったパジェ君の背中にしがみ付く。
「いきますよー」
「ゆっくり、ゆっくり!」
「そんな事言っていたら、スラちゃんが海を泳いでいっちゃうすよ。しっかり掴まっててくださいねーぷきー!」
「安全運転〜!」
「喋ると舌を噛むっすよ〜」
イノシシ列車の感想は……
何もありません。
目を開けることが出来なかったので、もう何も分かりません。
気付いてたら海に出ていて、スラちゃんは波打ち際でご機嫌にしていました。
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