22、魔石と魔法

衝撃の事実。

スラちゃんの目玉はシーグラスじゃ無くて魔石でした。

私が受肉させたことになるらしい。


この世界の魔石は古い地層から発掘される物が多いんだそうだ。

だいたい透明から乳白色で、大昔に死んだ動物や植物の力の残滓が、長い年月を経て凝り固まったもの。

色のある物は、精霊の卵、と呼ばれて高価。


自分の想像するいわゆる魔石、倒した魔物から取れる物質というイメージは間違ってはいないけど少ないとのこと。魔物、と呼ばれていても持っていないものもいるし、人間でもある場合はあるらしい。

古い文明の集団墓地跡地から大量に見つかったこともあるそうな。


結局なんでしょうね、魔石って。

ファンタジー世界の石油石炭みたいな物かな。採掘されて利用されてたみたいだし。


「精霊の卵は魔法を増幅させてくれるから魔道具にも使われるけど、古くから精霊が生まれると言われているんだ。大切にすればするほど、生まれた精霊が守ってくれると信じられてて、親から子どもへと受け継ぐお守りや家宝なんかにもよく使われるね」


砂漠の国で水瓶に使われていた精霊の卵から精霊が生まれて、毎日水瓶に通っていた末の皇子と恋に落ちる話は有名かな。その国は砂漠の中にありながら、水に困ることは無かったというよ。

おとぎ話だけどね。



「君の友達は、水の精霊が受肉した状態だと言えるんじゃないかな」

とても友好的だし、君は水に困ることは無いだろうね。


「そちらのブタ君は、ちょっと知らない気配だけど、何の精霊だろう?」


「おいらイノシシっす!ブタじゃ無いっす!」

それに車の付喪神っす!


プリプリプキーとご立腹のパジェ君。

精霊でも付喪神でも、二人は心強い仲間です。

撫で心地が良くて、頼りになる。最高です。





話していて思いついたんだけどね、この辺りに住んでみないかい?

魔力を扱えない子どもの治療は魔力の濃い場所で過ごさせることから始めるんだ。それでも駄目なら大人が身体に魔力を巡らせてコツを教えることもするけど、それは最低限の魔力慣れをしていないと辛いらしいからね。

ここらは僕の墓もあるし、三輪山もいる。島の中でも魔力が濃いんだ。山の頂上と同じくらいね。

ここで暮らせば、早く魔力に慣れて、もしかしたら魔法が使えるかもしれないよ。そうしたら本も読めるようになるし。何より生活が便利だ。

君の世界のことも聞いてみたいしね。



ネモさんの本もそうだけど、多くの本が日常とは違う『魔法文字』で書かれているそうだ。子どもでも魔力を少し流せば読むことが出来るので、多くに共有したい研究書や、国をまたいで流通する大衆向け文学もこの文字を使っているそう。

意味不明な記号に見えて、魔力を少し流せば一番得意な言語の文字に見えるそう。便利。


ただ読むのは簡単だけど、書くのは大変で、専門の職人や魔法関係の研究者など以外は書くことはほとんど出来ないそうだ。

書くときに魔力をたくさん使うらしい。



この文字で書かれた最古の文章が、さっき聞いたおとぎ話も載っている『朝と夜の詩』という説話集。作者不明。

精霊と、地に生きる者の恋や友情の物語集なんだとか。残っているなら読んでみたい。

持っているよ?というネモさんに読めるようになったら借りる約束をした。

写本は魔法が得意な学生の、良い小遣い稼ぎになっているんだとか。


『何冊も書きすぎてまだ暗唱できるよ。今度聞かせようか?』

という提案は丁重にお断りした。

最初はちゃんと自分で読みたいです。


文字をゆっくり教えてあげられれば良いんだけど、魔法文字は原文のままだと難しいし、私はまだ眠くてね。

しっかり教えられる気がしないんだ。

魔石いくつかあげるから、もし光るようになったら教えてね。

光れ〜って念じて力を流すイメージで。


ばらばらとその場に出された魔石、透明な物や白い物があるが、大きさは小さい物は米粒程度。大きくてもスイカの種くらい。無くさないようにしないと。


っていうか教え方大雑把すぎません?



魔石の入れ物を探しているうちに、ネモさんが自分の書いた本に何か書き入れる。


「絶対触っちゃいけない植物やキノコに印をつけておいたから。触るだけで危ないから、気をつけて」

見るとカエンタケやかぶれ系の木のような知っているものもあれば、見たこと無い奇妙な木、大きなサヤ?のついた植物などにチェックが入っている。

挿絵を参考にさせて貰って、気をつけます。


「じゃあ私は少し眠るね。

ちょっと二度寝したら起きるから、君の世界について教えてね。甘いお茶、ごちそうさま」

そう言うとネモさんはスゥと消えていった。


「おれ、魔力、すぐ慣れた。きっと、すぐ、慣れる。甘い飲み物、ひさしぶり。うまかった」

飲み物のお礼を言って三輪山さんはネモさんの墓だという大木向かっていく。

樹齢千年と言われても余裕で信じられそうな、その大きな木が若木の頃にネモさんの身体は亡くなったらしいけど、何年前なんだろう……。


あっと気付いて、木に巻き付こうとしている三輪山さんを慌てて止め、自作の地図を出す。

今どこにいるのかだけ教えてください!


「地図、ちょっと、ちがう……。本、だして。最初の方、今、ココ」

地図にダメ出しされてしまった。

そこまで間違っては……はい歪すぎますね。


ネモさんの本の最初の方に地図が描き込んであり、それによると今は西海岸。山脈の南端辺りの低くて広い丘。


「ここ、畑、できる。家はもう、無いけど、住みやすい」

ありがとうございます、と言う私に一つ頷いて、三輪山さんは今度こそ大木に巻き付き、同化して見えなくなった。


半日で三輪山さんに慣れた自分にビックリしている。

本能的に恐くないわけじゃ無いけど、話している間ずっと横に控えてたし、なんか見慣れた。

良い蛇さんだしね。




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