17、雨が降ってきた
低いモーター音?いいえ、スラちゃんが水を飲んでいる音です。
いっぱいお水を飲みたいんだってさ。
別にそれは問題ないしいいんだけど、『いっぱい』ってどのくらいかな。いっぱいって人によって違うから。
だから周りを散策しながら待っている。のんびりした時間は、のんびり散策の時間。
一応スラちゃんとは、滝側には絶対近づかない、湖の中では大きい姿でいる、と言う約束をしている。今はちゃんと守り、水玉カボチャのアートみたいな大きさ。アレもいろんな大きさがあるんだったか。
まあつまりでっかい。湖の中の小島みたいだから流されることはないだろう。
カボチャアートって言ってるけど、模様は無い。
飲んだ水の種類で色が変わったりはしないよう。時々魚を周りの水ごと飲んだのか、身体の中を魚が泳いでいる。
どういう仕組みかは分からない。
それを「とったよ〜」と投げてくれるので、パジェ君のクーラーボックスにそのまま数匹入れて貰っている。生きたままで動かせないそうなので、簡単にシメてある。持ち歩くと心配な鮮度も、クーラーボックス直送なら安心。便利すぎて怖い。
……不思議現象にあっという間に順応した自分にビックリだ。
まあ突然知らない所に飛ばされて、粘土がスライムになって、車がしゃべり出したら受け入れるか発狂するしか無いよね。
三十代も後半になると頭が硬くなるもんだけど、まだまだ変化を受け入れる柔らかさはあったみたい。変化か、これ?
柔らかいんじゃ無くて図太くなったのかな。爺ちゃん婆ちゃんとか、お化けが出ても人魂が出ても動じないもんな。
まあヤワヤワ現代人を戦争経験世代と比べても仕方ないけどさ。
「林檎みたいな果物発見。パジェ君取りに来て〜」
「はーい。ご主人、あっちに見たことある葉っぱ有りましたよ」
林檎みたいな謎果物を発見して、バケツを出して積んで貰う。
見たこと無い森の食べ物は怖さもあるんだけど、よく熟したやつは鳥がつついた跡があるし食べれるのかも。と考えることにした。
鳥は平気で人間は駄目なこともあるから、キャンプに帰ってから試食してみよう。
森の中で食中毒、毒あたりは嫌だよね……
キャンプでも嫌だけどさ。
パジェ君の見つけたのはハート型の葉っぱ。山芋かな?ムカゴが付いている。ムカゴをせっせと収穫。山芋はちょっと保留。苦手なんだよね。アレルギーっていうほどじゃないんだけど。いよいよ困ったら食べるけど、と地図に書き込んでおく。
色々便利な丈夫ツタも大量に回収。
薪も用意しなきゃいけないので、切っては入れていく。
パジェ君の能力で車に入れておいた道具を取り出せるの便利すぎる。収穫したものも入れられるし、ありがたや。
「そろそろ帰るよ」
夕方前には帰りたいので、そろそろ帰らないと。
放っておくと湖の水を飲み尽くしそうなスラちゃんを回収する。ちょっと湖の水量も滝の勢いさえ落ちている気がする。
はーいと戻ってきたスラちゃんだが、前回の事をちゃんと覚えていてくれたらしい。肩に乗るときはちゃんと小さくなってくる。賢い賢い。
一瞬警戒してごめんね。
「帰りもおいらに乗らないんですか?」
ちょっと不満そうなパジェ君。
「山の様子を見ていくのも必要だからさ」
それは追々ね。
私の覚悟もまだ出来てないしね。
来た道とは違う、帰り道を通るとまた違う発見がある。
まだ森に入ったのは二回目なのに出口への道が分かるのは心強いね。
お、カラスウリ風の実発見。一応採取。黄色は甘い、赤いは苦いだっけ。これはどっちだ。青いから分からないけど、毒のアリ・ナシでいうと、両方食べることは出来たはず。
前見たサバイバル番組で「苦い〜」って苦しんでたから調べたんだよね。
あー木々の間から漏れる陽が綺麗です。が、今日はなんか雲の流れが速い気がする。上空の風が強いのかな。
天気が崩れるんだろうか。
雲が早く流れると雨が降るっていうよね。
雨は困るな。
雨用のレイアウト考えないと。テントはどうしよう。今は車のスペース確保のために使ってるけどしまうか。タープは無いと不便だよな。でもベタベタに濡れるのもな、どうしよう。
とにかく早く帰ろう。
散策は切り上げ、足早に山道を戻る。
「ほらー、急ぐんなら送りますよ。イノシシ列車快適ですよ〜」
「ぴひゃっ」
パジェ君の上でスラちゃんがご機嫌で揺れている。
「うん、また今度ねええあああああああっっっ」
乗った大きめの石がグラついて、段差に落ちた。
十五センチくらいだけど、すぐ木に掴まったけど、驚いた。肝がひゅんっとなりました。
このバカ石。このバカッ
石からしたら「知らんがな」なのはよく分かるけど、八つ当たりしたい気分はしょうが無い。
地中深く埋まっている大きな石かと思ったら、厚さ五センチから三センチしか無い平たい石だった。全然埋まってなかった。乗ってただけだった。
それがべこっと傾いている。
これ、物置に使えそうだな。完全に平らじゃ無いけど、置き方を工夫すればローテーブル風に出来るぞ。
よしよしこれが怪我の功名じゃ。怪我はしてないけど。拾っていこう。
パジェ君お願いします。
悲鳴を上げた私に驚いたのか、パジェ君の毛がちょっと立っている。スラちゃんもトゲ?みたいなのが出ている。
驚かせてごめんね、二人とも。
セーフ。一応セーフ。
雨が降る前にテントは撤収できた。畳むって何だっけ?丸めるでしょ。状態だけど、中に置いていたハンモックや寝袋などは畳んであったのですぐに収納できた。
水カゴがあるから無理矢理な配置だけど、パジェミィを動かす予定は無いから崩れる心配は少ない。調理器具が助手席のクーラーボックスやダッシュボードに載っていても、落ちてこなければ大丈夫。
乱雑でも大丈夫。
運転席がほぼ直角でも大丈夫。
とは言え、寝にくいのは確実。タープは出したままだから、雨が小降りならハンモックで寝てた方が快適な気がする。
自分の中で外で寝る事への抵抗が下がっている。まあ酔い潰れて寝た日があったし。
そして気付いた。
まだ今回一度も寝袋使っていない。
まあ暑い時期は敷き布団にしか使わないこと、よくあるし。タオルケット使うし。
過ごし方に決まりなんて無いんだし。
「せっかく洗って貰ったのに、雨ですね。雨は嫌いじゃ無いんですけど、ちょっと憂鬱というか、鬱陶しい事はありますよね。でも走っていないときの雨はそれほど嫌いではありませんよ。音も落ちつくし。あ、そろそろ後ろのワイパーのゴム替え時ですよ。それほど使わないけど今度の点検の時にでも是非替えてください」
あ〜大分替えてなかったね。
点検できるのはいつだろう。来月一年点検の予約していたのにな。時期からは遅れてしまうかもしれないけど、戻ったらすぐ行こうか。
「ぴきゃっぷ〜(ちょっとおなかすいた〜)」
「たしかにちょっと空腹ですね。我慢できない程じゃ有りませんが、焚き火台下ろしますか」
「雨が強くなってきたし、弱くなるまでは待とうか」
タープは出してあるものの、ちょっと躊躇するほど降っている。
キャンプ動画でも、雨の日は大体撤収してたんだよね。無理は良くないってこと。
……今の状態ってキャンプか?
…………キャンプだな。車中泊兼キャンプ。
サバイバルと言うには甘すぎるし。
ファイヤー・ウォーター・シェルター・フードが一応あるし。
服着てるし。
トイレが野外だから、野営かもしれないけど。
トイレ以外で違いは何。
思い返すと最近見ていたサバイバル番組に影響されていたかもしれない。
無理はせずに行こう。
もう岩登りしてみようとか考えない。
レンジャーでも特殊部隊でも無い一般人には、一般人の過ごし方がある!
冒険だー!とかはしゃぐ年でも無いぞ。
なんてな。そんな事言いつつ、どうせやりたいことやるんだよ。若手ぶるときもあればベテランぶるときもあるんだよ。中年は自由自在よ。
自分の性格はよく分かっている。
やりたいようにやるのよ。
というわけでご飯です。
ご飯が大事です。
正確には軽食というかおやつみたいなご飯だけど。
火をおこせないので残っていた食パンにレタスを挟んでハムを挟んで終了。
どうせそろそろパンも限界かな、と思っていたのでちょどいい。
ちょっと足りなさそうだったので、スラちゃんにはパンの耳でジャムサンド、パジェ君にはさきイカを出しておいた。
「雨やまないですね」
「ぴぴゃ〜(そらからみず〜)」
なんでー?そらにみずたまりあるの?
水が蒸発して、それでそれが集まって雲になって雨になって落ちてくるの。って分からないよね。詳しい仕組みは説明できないし。理科でやった覚えはあるんだけどね。
夏休みの子ども理科相談室みたいには上手く言えない。あの先生達説明上手い人は本当にわかりやすいもんな。
まあ空に水たまりが出来るって発想は、イメージとしては近いよな。水蒸気が溜まって集まってやがて落ちるんだから。そういうことでいいか。
違っていても別に困らないし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます