16、道連れがいる山歩き
「ご主人、今日は何するんですか。魚釣りですか。最近魚釣り行ってないっていつも呟いていましたもんね。海目の前だし、やります?竿乗ってますよ。おいらイカが欲しいです。スルメ旨いっす」
「今日はね、釣りじゃ無くて罠を試すよ。でもまず昼過ぎまでに皆で森の沢に水を汲みに行って、石とか蔦とか使えそうな物も見つけたいと思ってるからさ、二人とも手伝ってね」
あわよくば食べ物も。
「ぴひゃ〜?(わな〜?)」
「罠さっき投げ入れませんでしたか。他にも何か罠を作るんすか」
「罠入れに行ったときさ、潮だまりにちっさい魚がいたじゃん。それ見てそういう罠も有ったなあって思いだしてね」
スラちゃんが泳いだ岩の間のしょっぱい水たまりね
「ぴゃぴゃ(とっちゃだめって)」
ちょっと不満そうなスラちゃんに苦笑する。
「メダカサイズじゃ食べても美味しくないよ。美味しいやつがいいでしょ」
「ひゃん」
「森を歩くなら、おいらに乗ります?」
パジェ君が申し出てくれるが流石に無理がある。
うりぼうサイズのパジェ君じゃ、左右どっちのかのお尻載せただけで潰れちゃうよ。パジェミィじゃ行けないしね。
「いやいや、甘く見て貰っちゃ困るっす。こう見えて本性は車ですからね。ご主人乗せるくらい訳ないっすよ。不安だったら大きくなりましょうか。車サイズくらいなら大きくなれますよ。
残念ながらネコのバスみたいに中に入ることは出来ないですけど、しがみ付いてくれたらスピードも出せますよ。車ですから!」
ただ、高速走行はすぐおなか減ると思うっす。
「……高速走行」
車サイズのイノシシに乗る?
それが高速で走る?
恐い恐い恐い。
無理無理無理。
もののけ達の姫様じゃ無いんだから。
身体能力に自信の無いおばちゃんだから。
「おいらに乗ったら早いのになあ」
ちょっとだけ不満そうなパジェ君と山の中を行く。スラちゃんは1メートル程前を飛び跳ねながら歩いている。
最初抱っこで行こうと思ったんだけど、歩きたい!って言うから。あっちへこっちへ逸れながら進むけど、絶対離れないでね。っていう約束を守ってくれている。木の匂いを嗅いで、キノコをつついてみて、としてる姿はクン活に忙しいワンコと散歩してるみたい。
周りの様子を見つつ、スラちゃんからも目を離さないように。
「パジェ君さ、イノシシの姿だと食べれるキノコと食べれない毒キノコの見分けが付いたりしない?」
「無理ッすね。最初に食べれるキノコか毒キノコかを教えてもらえれば、出来るかもっす。ただ、今はどれがどれだか分からないです。
あとご主人、今絶対トリュフ探すブタから発想した質問でしょ。それ。イノシシっすからね。尻尾見てくださいよ。巻いてないでしょ。ぴこっと可愛い尻尾でしょ」
タイヤの真ん中から生えている尻尾をふりふり。
うんうんごめんごめん。
可愛いよ。
黒いイノシシって見たことが無いからさ。茶色なら見たこと有るし、白だと映画のイメージでいけるんだけど。
それに歩くとき時々「ぷきっ」とか「ぶっ」鳴いてるんだもん。無意識みたいだから指摘しないけどさ。可愛いし。
指摘したらきっと意識していわないようにするでしょ。
「もーちゃんと見てくださいよ。この艶のある黒いボディ、おなかが白いのは車体のラインを模しているんですよ。お尻のタイヤも含め車だったときの特徴も残しつつ、野性味を感じさせる牙!牙有りますからイノシシでしょ」
イノシシにこだわるなあ。
依り代がストラップだった頃に、ブタと言われて密かに不満だったのかな。
可愛いからいいじゃん。
それにブタも切ってあるだけでキバ有るらしいけどね。でもそれを言って「もっと立派なキバを〜」ってビバルサみたいに進化されても困るからいわない。
「ぴぴー!」
スラちゃんが黄色いビニールテープを見つけて呼んでくれた。
沢に行った帰りに結んだものだ。
「ありがとうスラちゃん、これで辿っていけば沢に着くよ」
キャンプ地から北西に歩いて行くと、帰りに通った道に出た。これで斜めにショートカット出来る。少しでも体力温存できるからね。今回も目印は残しながら来ている。少しでも楽な道を探すんだ。
「ご主人、ご主人、帰りはご主人が前に通ったっていう道を行きませんか。ちょっと見てみたいっす」
いいよー。今回は水を汲みつつ罠に使う石を探しつつ、森の様子を見るのも予定のうちだから。
どれだけここで過ごすか分からないんだから、森もなるべく見る機会を増やさないとね。
一時間と少しでもうすぐ水場に到着。
川を遡った日はあんなに大変だったのにな。
道中お喋りして気が紛れる仲間があるっていうのも大きい。遠くを見回したり、周りの葉っぱを観察したりする余裕がある。
前はシダ植物生えてるな、しか思わなかったけど、ワラビ、ゼンマイっぽいのが生えてる場所がある。今はほぼ枯れてしなびてるけど、蕗っぽい葉っぱもある。春になったら山菜を収穫できるかも。
前にも通ったあたりだけど、全く周りを見る余裕が無かったことがよく分かるね。
粘土質の土が露出している所もあった。
どんぐりもあった。どんぐりと椎の実の中間くらいの実もたくさん落ちてた。椎の実だったら食べれるらしいけど、どんぐりはエグい味がするよね……。
キョウチクトウを発見した。日本と同じ木なら猛毒だ。間違えて焚き火にしないように気をつけないといけない。
気になる木の実は一応袋に入れつつ、メモ帳に植物分布の簡易地図を書いていく。
かなり雑。やってみないよりはマシ。
空いたペットボトルに水を汲んで、流石に二リットルが何本もあると重いからこれは持って貰う。
あーん、と口の中に入れるパジェ君。不思議な光景。
「じゃあ、入れておいたカゴを出してくれる?」
出発前にランドリーバスケットと黒ゴミ袋をセットにして入れておいた物を出して貰う。そこにバケツで汲んだ綺麗な水を汲み入れていく。
水の重みでカゴが壊れたり、袋が破れないか心配したけど、七割程度まで入れても大丈夫そう。
考えてみたら漁師さんが使ってる魚や氷水を入れる大きいバケツもプラスチックだもんな。プラスチックって意外に強いのかも。とは言え、これは元々用途が違うから不安もある。
袋は二重にしてるけど、カゴは補強のしようがない。
「これを車に戻せる?」
しばらく観察しても水が漏れてくる様子がないので頼んでみた。
汲んでから気付いたけど、重くて持ち上がらないよね。五十キロ位ありそうだし。中身が水だから慎重にしなきゃいけないし。
そもそも口に入る大きさじゃ無い。
「重くて口に入らないかもって心配してます?ふふふ。実はあれ、ただのポーズっす」
触れば移動できるんすよ。
ぱっと無くなる激おも洗濯カゴ。
そう言えばカゴを出すときも、口を開けてなかったな。
ドヤ顔のパジェ君。
小憎たらしくて可愛いなこんにゃろう。
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