15、出来る事が多すぎる。自分以外。

「いや〜ご飯っていいですね。食事をすると力がみなぎってくる気がしますよ。ご主人がしょっちゅう袋一杯買い物してたのが分かる気がします。どれだけでも食べられますよ。いやあんまり覚えてるわけじゃ無いですけどね、最近の記憶は断片的にはあるんすよ。おいらが起きる度買い物袋積んで走ってるから不思議だったんす、なんで色々買うんだろうって。おいらレギュラーガソリンしか食べた事無かったですから、食事の良さを知らなかったんですね。人生損してました。あ。車生か」


パジェ君は食べながらもよく喋る。

口の中に食べ物を入れたまま喋ったら教育的指導案件なんだけど、どういうわけかもぐもぐという動作はしてるけど口の中で咀嚼しているわけではないみたい。

口に入れた途端消えているというか、スラちゃんが口が無くても食べてるのと似た現象。

だからまあ許している。

やっとしゃべれるうれしさが爆発してるんだと思うと、可愛いもんだし。いつかは落ち着くでしょ。


とっても不思議な口の中で消える現象。それを聞いてみると、

「だってね、おいらの普段の食事ってガソリンっすよ。食べながら口からこぼしてたらガソリン漏れか噴きこぼし、下手したら大事故ですよ。だからね、口に入ったらすぐにあるべき場所に納めるというか、味わうというよりは、文字通り補給してるんすよ。

あ、スープおかわりいただけます?」

だからね、食事が凄く嬉しいというか、味わえる食事が嬉しくてしょうがないんですよ。しかもやっとご主人と話せるし。いつもご主人の独り言聞くだけでしたからね。おいらの返事といえば『ETCカードを確認しました』ですよ。ちょっと味気ないと思いません?

あ、ご飯もうちょっとだけお願いします。


差し出された紙コップと紙皿に追加でよそってあげると、嬉しそうにもぐもぐする。

「スラちゃんも食べる?」

聞くと紙コップを持ち上げたので、スープをよそってあげて、自分は飯盒に付いたお焦げをこそげていく。


少ないご飯とお焦げ入り飯盒にスープを流し込み即席おじやにして自分の食事を確保する。


本日の朝兼昼食は残ったカット野菜にベーコンを足したコンソメ味のスープ、ごはん、目玉焼き。切ってきた野菜はこれで無くなった。

まだ一応カレー用の野菜とスーパーのラップのままのレタスと四分の一のキャベツはあるけど……


食材の確保も考えないとすぐ無くなりそう。

米も3人だと一食一合じゃ足りないな。おぅ……どうしよう主食なしか。辛い。


あれもこれも青空の下で食べたいと多めに持ってきたのに、すぐに無くなりそうな予感がする。

絶対余って家の冷蔵庫へ戻すだろうと思ってたのになあ。

魚だけじゃ無く、山にも食べられるもの無いか探してみるべきだな。



「あー満足しました。ちょっと、いや大分お腹がすいていたんですよ。嬉しくて食べ過ぎちゃったっていうのも本当ですけどね。ご主人がお料理できて良かったです。これでメシマズだったら悲しくなっちゃうとこだったっす」


褒めてくれるのは嬉しいけど、ただ煮込んだけだからね。まあよく食べてたので、不味くは無かったのだろう事は分かる。料理上手でも無いけど、メシマズでも無いからね。暮らしていける程度のご飯は作れます。材料があるなら。


そういえばパジェ君は語尾が「です」と「っす」が混じってるんだよな。

ブタ……じゃなくてイノシシの姿だと、敬語に慣れてないやんちゃな男の子みたいで可愛いけど、車の二十歳過ぎって結構おじいちゃんだと思うんだけどな。若作りおじいちゃん。


「なんか今、いやな事考えました?」

「いや?なにも」

「まあいいっす。」

スラちゃんもご主人の料理美味しいって思いますよね。お陰でガソリン満タンっすよ。

ぴきゃ〜(おいしいよ〜)と腕に飛び込んでくれるスラちゃん。うんうん、いっぱい食べたね。


それよりも今気になる事をパジェ君が言ったぞ。


「パジェ君が満腹になると、ガソリン復活するの?」


だとすると、キャンプ地をかえつつ、季節や天候に合わせて島の中のよりいい所を探すことが出来る。森に分け入るのは限界があっても、入れる場所が全くない訳じゃ無いだろうし、機動力は段違いだ。




「あ、すみません。比喩表現です」




比喩だってさ。

だよね。そんな都合のいいことは無いよね。

ちょっとパジェミィに乗って島を巡りつつ、助手席にはスラちゃんとパジェ君がいる楽しい旅を想像しちゃったよ。




もみもみもみもみ

スラちゃんを撫で回しながら黙った私の行動をどう捉えたのか、パジェ君が焦りながらいう。

「ガソリンは無理ですけど、こんなこと出来ますよ、ほら、ほらっ」

口から何かを取り出す動作をしたかと思うと、ダンッダンッと座席下に戻したはずの一升瓶が二本出てきて簡易机に置かれた。

金押しの大吟醸の文字が昼間の光に輝いている。


「車の中にある物なら、どこからでも取り出せるっす。あと、ほらっ」


何も起こらないな、と思っていると助手席の方に手招きをするパジェ君。

中からはモーター音がする。

「エンジンをつけなくても、繋がっている機械が動かせます!ちゃんとUSB充電も出来ますよ!バッテリーの心配は無用っす。あ、でもクーラーボックスはエコモードじゃないと、すぐお腹減っちゃいます」


十分凄いよ、凄すぎるよ。


「すごいじゃん、じゃあさ、例えばパジェ君と森を歩いてて、その場でご飯にしたくなったら道具が出せるって事?」

「出来ますね。載せておけばですけど。逆においらがその場で何か車に載せることも出来ます。車に乗る量だけっすけど」

撤収も問題ないんだ。


凄い凄い、パジェ君凄いよ。

重い物を運ばずに済む。テントを載せておけば、その場で泊まることも出来るって事だもんね。


凄い凄いとパジェ君を撫で回すと意外に毛並みがふわふわだった。見た目は完全に黒豚なんだけど、ブタも冬毛になるもんね。あ、ちっちゃい牙発見。


「イノシシですからね」

年の功かな。時々思考読んでくるよね。


「ぴひゃ〜!(ぼくもできるよ〜!)」

ぴゅーと手から水を出すスラちゃん。対抗してるのかな。

「うん、うん、スラちゃんも十分凄いよ」

「ぴゃ〜(こっちはしょっぱいやつ〜)」

その水を舐めてみると確かに塩の味がする。海水だ。

「スラちゃん、海水も出せるの?」

「ぴゃぴぴゃーぴゅ(おさかなつかまえるときにしょっぱいの飲んだよ)」

昨日海に飛び込んだときか。

「すごいよスラちゃん、お腹の中で混じっちゃわないの?」

「ぴーぴゃぴゃぴゃんひゃ(んー、おなかの中じゃないところにあるから大丈夫だよ〜わけれるよ)」


え、スラちゃんも予想以上に凄くない?


「おなかの中でわけるの?」

じゃあさ、もっと分けることも出来るのかな?

「ぴ?」

「しょっぱいお水と、しょっぱくないお水と、しょっぱくなくて綺麗な水に分けられる?」

「ぴゃぴ〜(やったことないからわかんない)」


わかんないか〜

でも十分凄いよスラちゃん!


両腕に二人を抱えて思わす頬ずりをする。


うちの子達凄すぎる。

可愛くて有能なんて、最高すぎ。





…………あれ

これってよくある、私以外皆有能、ってじょうたいじゃない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る