13、酒とスルメと洗車と、だれ。

「お水出して苦しくない?喉渇いちゃわない」

「ぴゃぴゃ〜ぴぴゃ〜(ないよー。へいきー)」

たのしーよーと伝わってくる。


嫌じゃ無いならお願いしやすい。

流石に人間で言う嘔吐しているような感覚じゃ、頼めないからね。


「お手伝いしてくれる?」「ぴゃぴー(お手伝いするよー)」

「うんうん、いいこだねぇ。ありがとう、じゃあこのぞうきん濡らしてね」


水が足りなくなると出してくれるスラちゃんのお陰で、擦りすぎて余分な傷を増やす事無く作業は進んでいく。


届かない屋根は、スラちゃんが登って拭いてくれた。自分じゃなかなか出来ないんだよね。

楽しくなっちゃって水をシャワーにしてかけ過ぎちゃったのはご愛敬だ。


二十歳過ぎのパジェミィは小さな傷が結構多い。

田舎だと路肩とか草が茂っている事も多いし、小さな傷はどうしても増える。セイタカアワダチソウは敵。

とは言え、必要以上に傷が増えて欲しいわけじゃないんだよね。

傷から錆びる事もあるしさ。

古いとボロいは違うのだ。

ドラマに出てくるようなオンボロな車は憧れるけど、乗りたいかというと話は別。エンジンをかける度に黒い煙を吐かれては、怖くて乗っていられない。

古くても状態の良い車が理想だよね、やっぱ。

まあ愛車に心底こだわっているかというと、自分は普段からあんまり細かい事は気にせず、洗車機で一気に洗ってしまう事も多い。横着者なのですよ。

でもこうして手で拭いていくと一層愛着が増す気がする。

まあもう十分愛着あるんだけど、更に湧いてくる感じ。


数ヶ月分のホコリと、浜辺を走って付いた砂を拭ききると、黒く光るボディが眩しい。



「スラちゃんさ、お水は毎日どのくらい飲むの?」

「ぴゃぴーぴゃぴゃぴ〜(わかんない。けど飲みたくなったら飲むの)」

そっかーわかんないか。

「じゃあいっぱい欲しくなったら、綺麗なお水の出るところに一緒に行こうね」


ぴゃっと答えながら今スラちゃんが飲んでいるのは、美味しいアルプスの天然水。持ってきた水の中では最後のやつ。

まだお茶系はあるけど、明日あさってくらいには、水くみに行かなくては。

まだ「飲むなら水源から」という理想は捨てていない。

せっかく怪我しつつ見つけたし。



今、自分はと言うと、スルメをお供に缶ハイボールを飲みつつ罠作り。

と言っても取ってきた蔦を三つ編みにしているだけだけど。細くて丈夫な蔦を取ってきたので編めばもっと丈夫になるのでは?という単純な考えです。はい。


予定だと、ロープ代わりの丈夫な蔦と、筒状のカゴ罠が出来るはず。予定。行き当たりばったり!

蔦の長さの半分が罠の長さになるから、長めに1メートルは欲しい。

四本作ったそれを星形に配置して、一辺を使って縛って固定する。足が七本出た状態のそれを、あとは別の蔦で交互に編んでいく。

言うのは簡単だけど、作ってみるとこれがなかなか難しい。


私の地元では地域の子どもに昔の暮らしや農業に挑戦させる体験授業があって、農業では芋や大豆を作って、料理して食べるところまでを一年掛かって全学年が体験するし、昔の暮らし体験では縄をなってみたり、手まりを作ったり、わらじを編んでみたりする。

その中の一つに竹細工があった。

竹とんぼを作ったりウナギ漁の罠を作ったりしてた。まあ竹細工はナイフが危ないって言うんで自分たちの何代か後には中止になってたけど。

その授業自体、小学校が廃校になって無くなったけど。


まあそんな授業を受けて育ったわけで、三十年経ってもその頃の事は不思議と覚えてるもんなんだよ。

友達の爺ちゃんが高速でカゴを編んでたのとか、誰の竹とんぼが一番よく飛んだかとか。焼きいも美味しいとか。

その記憶を頼りに作っているもんだから、細かいところが思い出せない。

どうやってたっけなあ。

蔦だから駄目なのか、慣れてないからなのか不器用なのか……上手くいかない。酒飲みつつだから?


四苦八苦しながら罠を編んでいく。


すっかり暗くなった頃、天然素材のみと言う理想を捨て、時々ビニールテープで固定するズルを解禁した。

編んでは解け固定してを繰り返しつつ、不格好ながらもなんとなく形になってきた。


その間スラちゃんはパジェミィの背面タイヤで遊んだり、周りを跳ねたりしてたけど、今はおネムかな。


さて。できた。

ちょっと余っちゃった骨組み部分織り込んだら返し代わりになるかな?

テープを切るハサミに手を伸ばすと、何故か横に小さい豚がいた。








え??




黒い……え?




ぶ、た?


くろぶた……?がなんでここに





「ぴぎー!」



夢、かな。

もう寝ようかな。


「スラちゃん、寝よう」

「ぴぎゃぴゃーぴー?」

「うんうんそうだね、おやすみ」


起きたスラちゃんが何か言ってるけど、さっと抱き込んでランタンを消し、パジェミィに潜り込んだ。







朝。

起きてみてもブタがいた。


「あ、ご主人、おはようございます。お先いただいてます」


何故か、昨日飲み残したハイボールとスルメで一杯やっていた。




「頭痛い……」


「ご主人二日酔いですか?迎え酒します?」

飲み残しの缶を差し出してくる、ぶた。ぶた、ブタさん、君は誰。


そう言えば昨日の朝は飲んで寝たらスラちゃんがいたな。ずいぶん前の事みたいだけど昨日の話だ。

飲んで寝たら、誰か来る法則でもこの世界にはあるの?








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