11、水飲みスライムと蔦集め
鱗を取って腹を抜いた魚をバケツの海水につける。
海が綺麗だと、海水を遠慮無く料理に使えて良いな。潮汁とか作れそう。
「お魚、お昼に食べようね」
話しかけると、了解。とぴょんぴょん跳び回すスラちゃん。
さて、どうしよう。
昼にはまだ早い。
常温で出しておくにはまだ気温が高いかな。
エンジンをつけて冷蔵庫を起動する。エンジンをかけなくてもある程度は保冷したままだけど、蓄電はしてくれないから時々エンジンをかける。
本当は冷やしっぱなしが良いんだろうけど、ガソリンには限界がある。
中の生肉や牛乳が無くなったら、冷凍モードにして氷も作ろう。もう一つの飲み物用クーラーボックスの保冷剤代わりにもなるし。
作ってきた氷は流石にもう全部溶けている。
魚をビニール袋に入れて冷蔵庫に入れる。
すぐに5度以下になるし、安心。冷蔵庫って魔法並に凄いよね。
使えなくなったらどうしようかも考えないとな。
ガソリンが使える状態で地面から湧き出るなんてあり得ないし、補充は無理だ。
ワンチャン石油が出たとして、ガソリンの精製の仕方なんて知るわけないよ。
冷蔵庫が十分冷えた事を確認してエンジンを止める。
アイドリングばっかりで、走らせてあげられなくてごめんねパジェミィ。
さて、と。
「川にタオル洗いに行きながら枝とか集めようか」
「ぴゃー」
いくーと返事をしてくれたスラちゃんと一緒に川へ行く。
今回は飲み水の確保じゃないから、最初の川で良い。
ただし塩の混じってないあたり。
今度は岩場を通るとき、こけないように気をつける。
尻を打ったのは忘れていないぞ。痛かったんだから。
バケツに水を汲んで汗拭きタオルと、砂まみれのタオル、そして魚の血が付いたタオルをもみ洗いする。
ついでに頭のてっぺんで団子にしていた髪の毛も水ですすぐ。
水で流すだけじゃ髪がギシギシとか言ってられない。くさい。
自分で自分の頭皮の匂いが限界。
旅行用の石けんや洗剤は一応持っているんだけど、使うのはためらわれる。
最初の界面活性剤汚染者とかさ、嫌だよね……。
汗とか血とか
更に言うとトイレ系のあれこれはさ、時間が経てば自然のサイクルで土に返りそうだけど、食器用洗剤とか洗濯洗剤は垂れ流しに出来ないよね。
いくら広大な海に一人程度の洗剤とか関係ない!とは言ってもねえ。気になるじゃん。
植物油と灰からも石けん作れるらしいけど、どうだったかな。
記憶が……検索したらすぐ出るのになぁ。
そういえばムクロジの実ないかな。
「ぴゃん〜?」
「そうそう、こうやって揉むと綺麗になるんだよ。お水はいっぱい使うから、帰りにバケツで持っていこうね」
汚れた水を森の方に捨てて、タオルも頭も二度洗いをしながら、肩に乗ったスラちゃんに答える。
ぎゅっと絞ったタオルはビニールに入れて背負った簡易リュックに入れておく。
これは元・非常持ち出し袋だけど、あまりに食い込んで痛かったので肩の部分に手ぬぐいを巻き付けてある。
多少マシになった。
縫い物も苦手だから雑だけどね。
その辺の乾いた小枝を薪用に拾いつつ、丈夫そうな蔦もあれば切っていく。長さがあればなお良い。
魚の罠を強化したい。
丈夫の判定基準は、ヨイショと自分が体重をかけてもすぐに千切れない事。
よいせ、と蔦を引っ張っているとスラちゃんが自分もやる。と鳴き声を上げながら真似をし出した。
「うん、上手〜それも持っていこうか」
スラちゃんの引く蔦を根元で切りつつ、あれ?と気付いた。
「スラちゃん」
「ぴゃ〜?」
なあに?と言っている。
「言葉分かる?」
「ぴゃー」
わかるよ、と言っている。
「言葉しゃべれる?」
「ぴゃぴゃぴー」
しゃべれないけど分かるよー。と言っている。
「いつの間にか、スラちゃんの言葉、分かるみたい」
「ぴゃぴーぴゃ」
うん嬉しいな。と言っている。
鳴き声なのに何が言いたいのか分かる。
長年一緒にいるワンコとの以心伝心とはちょっと違う。副音声が頭の中に流れる感じ。
まあ……スラちゃんが動いてる事自体不思議なんだし、良いか言葉くらい。
分かるようになるのは良い事だし。
「おーい、このくらいで今回はやめておこうか」
ぴゃぴゃぴゃーんといいながらスラちゃんが戻ってくる。蔦を引きながら。
「根っこから抜いたの?力持ちだね」
えっへん。とスラちゃんが胸を張る。
エッヘンポーズとマッスルポーズを普段は丸いっこいのに、触手を出してよくする。
ただの粘土の頃によくその形にしていたからだろうか。
両腕のように伸ばした触手が感情を表している。
口すらないハズなんだけど表情はあるんだよね。不思議。
それを言うなら声はどこからって言う話なんだけど。
とにかく言葉の他にも動きでも表現表情が豊か。
見ていて飽きない。
スラちゃんが張り切ってくれたので、蔦もたくさん集まった。これを材料に色々作ってみようと思う。キャンプ動画や野営動画で見たやつとか、思いついた簡単罠とか。
構想は浮かんでるんだけど、実際出来るかどうかは自分の不器用さとの戦いだよね。
手先が器用だったら良かったのに。
「最後に水を汲んでいこうね〜」
ぴゃんっと返事をしたスラちゃんが汲んだばかりの水が入ったバケツに飛び込む。
海にも躊躇いもなく飛び込んだし、水が好きなのかな。
じゃなくて。
「持ち帰る水なんだから出てね」
手で掬おうとしてもひょいっとすり抜けてしまう。スライムって歩くのは遅いけど、跳ねて歩くのはイメージより速いんだな。と思っていたけど、水中だともっと早い。
ペンギンみたいだ。土を普通に歩け、と言うと遅いけど、雪上を滑るのは早くて、泳ぎはもっと早い。それの這う跳ぶ泳ぐバージョン。
やっと捕まえたときにはスラちゃんはグレープフルーツくらいになっていた。
ふやけた!?
かなり焦ったんだけどスラちゃんは楽しそう。
これはもしかして?
「お水飲みたかった?」
バケツの中の水は半分以下になっている。
「ぴゃ〜」
喉渇いてたのかっっっなんてことだ。
自分は時々水分補給していたのに、スラちゃんには朝出会ってから、一度も水をあげていない。
それどころか朝には海に飛び込んでいた。
塩水は口が辛くなったりもするし、もしかして浸透圧云々で脱水状態だったのかも。
「ごめんね、気付かなかった。もう良い?まだ飲む?」
撫で揉みしながら聞くと、まだ飲む。と伝わってくる。
慌ててリュックから出したペットボトルとバケツ両方差し出してみる。
「どっちがいい?」
でもスラちゃんは、んーと考えた後「ぴゃ〜(もっと〜)」と川の方に進んでいく。
「川から飲むなら、バケツに汲もうか?ん、いやなの。流されないようにね」
海でもバケツでも素早く泳いでいたのだから水は得意なのだろうけど、つい心配してしまう。
だってスラちゃんは、ふとした切掛で流されそうなほど小さい。グレープフルーツ大になっても、まだまだ小さい。
心配になるのは仕方ない。
…………。
小さいからと心配したのは何だったのか。
今やスラちゃんは全く小さくない。
水を飲みながらどんどん深い方へ進んでいくスラちゃんを最初は止めようとした。でも段々大きくなっていくのを見ているうちに止められなくなった。
危なくないかなと思っているうちにメロンくらいになり。
えっと驚いているうちに大玉スイカくらいになり。
唖然としているとハロウィンのお化けカボチャのようになり……
そこから十数分経過した今は某水玉模様のカボチャアートくらいはある。
あ、また一回り大きくなった。もう思いつくうちで例えられる丸い物がない。
今現在、川幅をほとんど塞いで、海に流れるはずの水は全てスラちゃんが吸い込んでいる。
すごい。
どういう仕組みなんだろう。
真ん中にあったはずの、シーグラスの目玉部分が分からないほど大きくなったので、巨大な水の塊に見える。
ちょっと触ってみる。
手乗りサイズの時と比べて、柔らかいというかぼよよんっとしている。
巨大な水風船みたいな感じ。
これ大丈夫?
割れたりしない?
そこから更に五分ほど。
大きさはさっきとそれほど変わっていないけど、やっぱり心配になってきた。
だって明らかに今の大きさよりも更に多く水飲んでるし。水風船みたいにパンッてなったら嫌だよ。
「スラちゃん?大丈夫?」
「びゃぁぁぁ」
大丈夫、と言っているけど、鳴き声がいつもの高い「ぴゃあ」から低くなっている。と言うか反響してる。またはくぐもっているというか。
本当に大丈夫?
「びゃああびゃーーーー」
機嫌良さげにこちらに跳ねてきたスラちゃん。そのまま飛びつき、押しつぶされた。
げひゃっと自分の口から聞いた事の無い音が出た。
ゲームの中で、スライムキングに殺された勇者達はこんな感触を最後に感じていたのか。
ぽよんぽよんで悪くない。でも、息が。
「スラちゃん、くるし」
「びゃああびゃーーーー」
ごめんねぇえええぇと鳴きながら上から退いてくれた。
「びゃああびゃあ」
痛かった?大丈夫?嫌いになっちゃった?
かな。
「嫌いじゃないよ、大きいのも格好いいよ」
ちょっと重いけど。
「びゃあぴゃっびゃ」
嬉しい。また肩に乗ってもいい?
……え?
スラちゃんが私を好いてくれているのが伝わってきて嬉しいんだけど、何をどうしてももう肩乗りサイズじゃない。てか今の、肩に乗ったつもりだったの?
スラちゃんが跳ねる度に小さく地鳴りがしている。
この子が、肩に乗る?
肩がぶち折れます。
どう考えても無理です。肩まで地面にめり込みでもしないと乗せられません。
むり!
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