10、かわいいのかっこいいの。どっちもなの

「ぴゃんぴゃぴゃっぴゃ〜」

「うんうん、おしゃべり上手だね」


朝食の準備をしながらスラちゃんの声に相づちを打つ。

何を言っているのかは分からないけど楽しそうなのは良い事です。

最初火に飛び込んでしまわないかと不安だったけど、そんな事はなく一定の距離を保って飛び回りながらお喋りをしている。


ちゃんと火は危ないって分かってるんだね。


生まれたばかり(?)なのに、うちの子賢い。かしこかわいい。


朝は無難にホットサンド。

先に目玉焼きを作ってパンにチーズと一緒に挟んで焼くだけ。簡単。

ホットサンドメーカーでぎゅっと挟んで火にかけると、はみ出たチーズが早速焼ける良い匂い。


外はちょっと焦げたくらいのが好き。一気に火にかけたので緩めに焼いておいた目玉焼きはちょうど良い半熟でチーズと絡む。

外はサクサク中はトローの美味しい朝ご飯が出来ました。

別に料理上手じゃ無いんだけど、キャンプ飯は何故か五割補正で美味しく感じるから不思議。


「ぴゃんっ」

「スラちゃんも食べたいの?」


昨日久しぶりにちゃんとご飯を食べたら胃が覚醒してしまったらしい。1個じゃ足りない。

二枚目のツナサンドを作ろうかと考えているとスラちゃんが肩に乗ってくる。

かわいいなあ。


「じゃあ作っちゃおうか」

でも食料を節約した方が良いかな。

一応考えて、中身をベーコンチーズに。何を考えたかって、そりゃツナ缶は保つから後回しにしようかな、と考えたんだよ。


自分もスラちゃんも食べたいなら作るのは決定でしょう。



半分に切った物をスラちゃんの前に置いてみる。

「暑いから気をつけてね」

「ぴっ」

一声鳴いてから触覚……これはもう手かな……を伸ばし、ツンツンと触れている。

両手で持ち上げて、

「えっ」

急に三分の一くらいが消えた。

「今食べたの?」

「ぴゃん!」

きっとこれは、うん!の声だな。

そっかー、食べれるんだね。口があるようには見えないけど、嬉しそうだからいいや。


「おいしい?」

「ぴひゃっ」

おいしいよ、と返してくれたが気がする。


スラちゃんはもう一口パクッとすると、するするーと触手を伸ばす。

パジェミィの後ろに背負ったタイヤをペンペンとたたく。

パジェミィに触るのは何かの表現かな。


「どうしたの?もういらない?」


ぴゃんーと身体を傾けた後、伸ばした触手を戻し、残ったホットサンドを食べきった。

「どこに入ってるの?」

思わず聞いてみると、ペンペンと自分のお腹?石の下あたりを叩く。


完全に会話が成立しているね。


ピンポン球くらいしかないスラちゃんと、具入りの食パン八枚切りを一枚分(二枚重ねの半分だからね)は丸めるとサイズはほぼ一緒。

耳は落としてあるとは言え、結構スラちゃんにとっては大きいはず。

胃はどこにあるんだろう。どうなってるんだろう。


自分の分の残り半分のサンドを食べながら首をかしげた。



まあ考えても分からないか。




「お魚いないか見に行こうか」

タープにつるした虫除けオニヤンマ風鈴にじゃれつくスラちゃんに声をかけると、ぴっと返事をして肩に飛び乗ってきた。


動きがいちいち可愛いなあ。


「じゃあ行こうか」

「ぴっひゃ〜」

これは出発〜って感じのかけ声かな。

かわいさが渋滞してる。



「お魚、いないね」

「ぴ〜」

残念ながら、砂地の網には何もかかっていなかった。

流木の側も駄目。

何かがつついたような形跡はあるので、網の外からつついたか、入っても逃げられてしまったのかもしれない。


最後の岩場あたり。

ん、重いぞ?


引いていくと分かる手応え。

何かか掛かってるかも!


バシャバシャと水しぶきも見える。いる。これはいるぞ!


「にげるなっ」

姿の見える浅瀬に引き出したところで、一層暴れる魚。飛沫を上げて抵抗している。急いで引くが、実は本当に掛かるとは思っていなかった。


だから紐が細めのビニール紐なんだ……!

自分の大馬鹿っバカすぎるっっっ


でもでもだって1日目から掛かるなんて思わないじゃん!


潮に半日以上浸かっていた細い紐が暴れる魚に抵抗できるのか?

魚が暴れるから余計に岩の縁にこすれている。

切れちゃわない?

ひもの強度がヤバいっっギリギリかっ


「あああっちぎれたっ」


叫んだと同時に海に飛び込む小さな影。


「スラちゃんっ」


ただただビックリしているうちにスラちゃんは、逃げようとした魚を触手で串刺しにして、千切れた先の網も拾って戻ってきた。


「スラちゃん……凄すぎるよ」

魚、スラちゃんの何倍もあるよ。


「ぴっひゃっ」


えっへん、とでも言うかのように堂々と戻ってきたスラちゃんは、魚と網をこちらに差し出してくる。


「ありがとうね。凄いね、凄かったよ、格好いい。でも無理はしないでね。流されちゃったら大変だからさ」

言うと「大丈夫!」と言わんばかりにマッスルポーズをしてくれた。



スラちゃんの触手に刺された魚は、尺はありそうなアジ風の魚。

ちょっと知ってるのよりもヒレとか尻尾が青い。

まだビチビチと抵抗している。

抵抗の余波でスラちゃんが波打ってるけど、倒れたり潰れたりはする様子がない。


自分の何倍もある魚を運ぶって凄く力持ちだよね。

凄いよスラちゃん。


かっこいい。そしてかわいい。

新たな相棒は、とても頼りになる可愛い子です。




受け取った魚はバケツに入れて網で蓋をする。

まだ生きている魚が時々跳ねる。

魚の生命力って凄いよね。針が刺さった位じゃ死なないんだもん。



何も掛かってなかったらそのまま砂浜散歩をしようと思っていたけど、改良の必要が出たので、他の二つの罠も回収してキャンプに戻ることにする。

もうちょっと丈夫なロープに変えてもう一度仕掛けておこう。

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