7、SOS
寝直して起きたらあたりはもう明るかった。八時か。
本当にどこでも寝れる人で良かった。二度寝して頭すっきり。
疲れも取れ、てない。
疲れとかそんな話じゃ無くて、筋肉痛がヤバい。
本当にヤバい。どのくらいヤバいかというと、歩き方がオズの案山子みたいになる。それか下手くそな操り人形。
無理を押して歩いてもギクシャクギクシャク。
時々カクンとなる。
もう寝込みたい。
痛みが治まるまで寝込みたい。
筋肉痛には適度なマッサージと休息。栄養補給も大事。確かタンパク質が良かったはず。本当は入浴が一番。
知ってはいても入浴が出来る場所が無い。温泉湧き出てないだろうか。
ごろごろしながらプロテインバーを食べる。
三本しかない内の一本だから味わって食べないと。スルメの袋を開けて足を引きちぎる。これもよく噛んで食べる。
スルメの満足感はあるけど、腹が膨れるかと言えば微妙。腹の膨れるホットケーキでも作りたいけど卵はまだしばらく保つから我慢。
あーいつもならこの3倍は食べてる。
食パンあるからホットサンド作ろうかな。
じゃあゴロゴロやめないとな。
ゴロゴロしてたいな。
一番痛いふくらはぎを強めにさすりながら車内で起き上がる。
腕も、使った気がしないわき腹まで筋肉痛だ。私の腹にまだ筋肉あったのか。全部脂肪になったかと思った。
我ながらタプタプしたお腹をさする。
この脂肪貯金と非常食がつきる前に食べ物をどうにかしないとヤバいよな。
救助はまだですか。
あたたたたああああ
悲鳴とかけ声を混ぜたモノを出しながら車外へ出る。
もう日は高い。それどころか、だらだら過ごしすぎた。昼近い。
これから過ごしていくと、段々日が短くなっていったりするんだろうか。
え、冬来る?
それまでこのまま?
それは困る。
今日できる事をするか。
まずは、悲鳴を上げながら森に入る。
悲鳴はもちろん痛みの悲鳴。後は気合いのかけ声。
浅いところで長さ一メートルほどの細い枝を切る。指くらいの太さだから折りたたみのノコギリでも簡単に切れる。なるべくよくしなるものを選んで、それを三本小枝や葉が付いたまま基地に運び込む。
小枝は落として隅に積んでおく。乾いたら焚き物にすれば良い。
それを網袋の縁に通す。まげて輪にした端をしっかり結べば即席のタモの頭部分風のできあがり。いきなり角立て網を作るのは難しいので、これを罠に出来ないかと。
本当はウナギの罠みたいに、入ったら返しが付いていてで出られない作りにしたいんだけど。どうやったら良いかな。
地元の八百屋さんで、まとめ売りの野菜を入れている大型の網。
そのままもらえるから貯まってたんだけど、車に載せたままで良かった。
とりあえず網は少し立った方が良い気がするので、輪っかの片方に石を縛り付けて角度を出しつつ重り代わり。
水面に平行じゃ、コレジャナイ感じがするもんね。
浜に下りて砂浜、岩場近く、流木が沈んでいるところ、それぞれに網を投げ込み、紐を打ち上げられた流木などに結ぶ。餌はその辺を歩いていたヤドカリを潰してしばって数匹ずつ入れておいた。
かかったら儲けもの。色々試すつもりだから、駄目でも気にしない。
ポジティブ大事。
浜に投げ込んだ後、砂浜に寝そべってゴロゴロしてみる。
いたーいいたーい、筋肉痛、いたーい〜
般若心経のムケゲ・ムケゲ・ハラソーギャーテー〜のリズムに乗せて。
親戚の法事でよく唱えるから暗唱くらい出来るんだけど、このムケゲ・ムケゲを昔ヌケゲ・ヌケゲだと思い込んでたんだよね。
抜け毛〜って親戚の皆さんに爆笑された思い出。
あっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロ。砂が付いても気にしない。今更。
おかしな行動をしていると気分も上向いて楽しくなってくる。不思議だけど、はしゃぐって大事。
仕事してないときは中学生みたいな行動し出すね
と、昔からよく人には呆れられた。
頬に硬い感触を感じて回転をやめる。貝の破片だろうか。石かも。
貝殻も石もだいたい一定の場所に波の力で積み上げられているから油断していた。目に刺さったら危なかった。
それにしても大分内陸側に積まれているものだ。草の生えなじめるギリギリのあたりに石と貝の層が出来ている。大潮の時はあんなに水が満ちるのかね。今は浜も完全に乾いているし、丸一日以上過ごしているけど、凄く引いたのは見たけど、木に掛かるほどすごく満ちたのは見ていない。
満ちてもそこまでは来ないのかな。
でもやっぱり住処を移動して良かった。大潮とかすごいのかもしれないし。
ところで月が二つある場合の大潮ってなんだろう。
無意識に拾い上げた石を手で揉みながら、もう半周回って仰向けになる。そのまま顔の前に持ってきた手につままれているのは削られ白っぽくなった半透明の水色。シーグラスだった。
シーグラスか。
水色好きだし姪っ子ちゃんへのお土産にしよう〜
シーグラス?
親指の爪の半分ほどの大きさしか無い楕円のガラスだ。どのくらい海をさまよったのか。波にもまれて角は全くない。瓶だったのか、ブイだったのか。元の用途は分からない。
でも人工物だ。
天然の宝石が海で流れて削られてって事もあるのか。あっても少ない。知らんけど!
人の気配だ。人いるのか!
この島は無人島かもしれない。でもどこかに人はいる。この世界にたった一人、ではなかった。
シーグラスをポケットにしまう。
そのまま浜を歩いてみて、よく探した。
やはりプラスチックゴミやビニール、発泡スチロールなどはない。
そもそも使っていないのか、ここが遠すぎるのか。太平洋にはゴミベルトがあると言うし、軽いゴミはどこまでも流れていきそう。元々使っていない方が可能性は高いかも。エコ文明なのか、製法が無いのか。
もし地球じゃないとしたら。なんとなく大航海時代くらいの文明を想像している。
ただ単に大航海時代を舞台にしたゲームが好きだから想像しやすい。中世とイメージがこっちゃになってるけど。とにかくかなりやりこんだゲームだ。まあ生活面はほとんど描写無かったけど。交易メイン。
あとは冒険メインでトンデモ世界作れるやつとか。
逆に剣と魔法の世界はスライムや勇者の出てくる国民的ゲームくらいしかした事ない。
本なら多少はあるけど、そう多くないな。魔法が出てくると言えば、大ヒットした魔法学校へ行く物語もファンタジーに入るのかな。もろ魔法だけど。アレは全部読んだ。
いやまだ剣と魔法の世界だと決まったわけじゃない。ビクトリア調の世界かも。懐かしい未来。真鍮と蒸気の文明。
またはハロウィンタウンが広がっているかも。カボチャの王が哀歌を歌って、恋人の死体と逢い引きしてるかも。
江戸末期から大正くらいの日本みたいな世界があっても良いなあ。
妖怪と電気と怠惰な高等遊民とハイカラなお嬢さん。
やばい。ロマンが溢れる。
剣と魔法の世界か。うん、それも良いんじゃない。
「………………ステータスオープン」(小声)
何も起きない。
あ゛ああああーーーーーーーーーーーーー恥ずかしい。
楽しい妄想はおいといて、状況整理。
飛行機や船は見ていない。それっぽい音も聞いていない。少なくても東側に目視できる陸はない。小島はある。
陸はともかく、飛行機や船は偶然通ってないだけ、気付かなかっただけという可能性も十分ある。
「ポイント・ネモ」でも船は通るらしいし。
そう信じてアレを作っておこう。
『SOS』
砂に足で大きく書いた。
横に流木も・・・ーーー・・・に並べた。これはSOSに並び替えようとしたら真ん中のーーが重すぎて動かせなかったからだ。とにかく人為的に並べられたのが分かればそれでいい。
船が難破したわけでも無く、飛行機が不時着したわけでもない。
夜に浜辺ではしゃぐ若者の悪戯じゃあるまいし、砂浜にSOSを書く日が来るとは思ってなかった。人生何があるか分からない。
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