4、さあ探検だ
森から飛び立つ鳥の羽音と鳴き声で目が覚めた。
もうあたりは明るくなっている。
眠れないかもなどと考えていたのに、ずいぶんしっかり眠ってしまった。寝汚くて良かった。
さすが真冬の植え込みに刺さって熟睡した過去を持つ私。
あの時は酔っ払ってたけど。二十歳そこそこでお酒の飲み方を覚える前の話だけど。今は学習した。そんなみっともない事しない。
と、そんな事はどうでも良くて、よくは寝たけど、身動きなしで寝たから身体が痛い。
車を下りてのびをしても足りないので、ラジオ体操をする。頭の中でラジオ体操の歌から初めてラジオ体操第一をやりきる頃には身体もほぐれてきた。
そう言えばラジオ体操第二は覚えてないな。散々高校の体育の準備運動でやらされたのに。
まあ二十年も経てば忘れるか。
昨日の飲みさしのペットボトルのコーヒーと共にサンドイッチを食べる。
自分で作ったサンドイッチだと丸1日経つと食中毒とか怖くて食べれないのに、コンビニサンドは平気なのは何でだろうか。
実際にわりと保つし。未だに保存料でも入っているんだろうか。
そういえばコンビニ弁当を毎食食べていると、死んでも腐らないという都市伝説があったな。最近は聞かないような気がするけど。
何はともあれ、コンビニのサンドイッチ美味しい。ハムキュウリが好きだ。
さて、探検をしよう。このままいても情報が少なすぎる。
不安すぎてテントも張れない。
ここでただ待っていても、どことも連絡が取れないのではジリ貧になっていくだけだから。動いてみようと決めた。
周囲は見て回った。
次は中か。森だ。
が、いざ森に入ろうと思うが何を持っていけば良いのか分からない。
武器が無い。護身具ぐらいいるよね。
鎌かな。釣り竿じゃ強度が無いし。
重い物はいざという時に持って逃げるのが大変だ。
いや、そもそも逃げなければいけないような獣がいたら、足の遅い私ではあっという間にそいつの餌になってしまう。
逃げるより追い払う方が良いのか、それこそハンターでもない素人にそんな事が出来るのか。パワーはともかく運動神経全般に自信は無い。
マシュマロンだからね。プニプニの。
そんな私でも野犬なら追い払った事あるけど、狼とか熊とかいたら終わりだ。失神する。きっと失禁もする。野犬に出くわして腰を抜かした実家の愛犬を笑えない。
あの時は愛犬が腰を抜かしたから、抱っこして逃げる事を諦めて決死の覚悟で野犬に立ち向かったんだけど。
幸い道の蜘蛛の巣をどけるように長い棒を持っていたからそれを振り回したら野犬はぷいっと去ってくれた。追い払ったって言うか、退いてくれたが正しいかも。
うん、棒か。調達できるかな。
突っ張り棒はこれから使いそうだから温存しておきたいし、出来たら現地で調達にしたい。
丈夫なやつ。
登山道の途中でお土産に売ってる杖みたいなのが理想。
竹があっても嬉しい。加工がしやすい。
棒もだけど同時にまずはやっぱり水を確保したい。
顔を洗いたい。
身体がベタベタするからしっかり拭きたいけど、飲み水を使うのは勿体ない。
空いたコーヒーのペットボトルと折りたたみのバケツは持っていこう。
タオルはフェイスタオルと手ぬぐいハンカチで良いか。
軍手は動きやすいウレタンコートのやつを使った方が良いな。
小枝も欲しいから鎌とのこぎりもいる。一応剪定ばさみも。カッターナイフと金槌も入れておくか。
アメとミカンと五百ミリリットルの水も。
他に何がいる?
良いものがあったときの採取用の袋、長めのロープ。予備で持ってきた異形ペグも数本。
結局あれやこれやと増えていく荷物。
それを中身を出した非常持ち出し袋に入れる。
背負える袋がこれしか無いから仕方ないけど、肩部分がそのまま紐だから食い込んで痛い。
仕方ない。のこぎりはやめておく。いやいるか。やっぱり折りたたみノコギリは持っていこう。鎌をやめよう。
振り回してたら山姥だ。
目立つように黄色のビニール紐を五十センチくらいに切ったものを数十本用意した。
目印として迷わないように見える範囲で枝に結んでいって、無くなったら一旦戻る。
GPSもナビも無い森で迷ったら恐ろしい。
因みに黄色のビニール紐は一玉しかないので、幅は半分に裂いて作った。
とりあえずの武器は迷った結果、何故か車にのっていたプラスチック製の布団たたきにした。強度はともかく軽い。よくしなる。もし折れちゃってもそんなに痛手がない。何で入ってたんだっけ。
あとイメージ。
あくまでイメージだけど、おばちゃんが布団たたき持ってるって強そうじゃん。
さて、まずは川へ行こう。
一周する間に川はいくつかあった。水源割と豊富そう。
まずは少し南の河口へ行ってみる。河口と言うには川が細すぎるか。派川の派川くらいの小川だけど、どこかに繋がっているはず。
川の水は冷たい。真水だ。いやちょっと塩味?まだ海から近すぎるのか。でも、えぐみなどは無い。
飲めそうな水なことに喜びつつ、今尻がとても痛い。
少し急な岩場を通る時、思いっきり足を滑らせて尻餅をついた。
パジェミィいないとポンコツだな私。
痛い尻をさすりつつ歩いてたどり着いた川の水の味は格別である。
それはそうとて、本当に尻が痛い。尻餅付いたのなんて久しぶりだ。
尾てい骨折れてたらどうしよう。痛いのは右臀部だから違うか。
今度下りるときはグラつかない石をしっかり見極めようと心に誓っている。靴はトレッキングシューズだけど、装備に自分の身体がついて行っていない。
グラついた石に足を掛けて慌てて動こうとして足を滑らせるなんて、危なすぎる。
人間が自分一人のこの状況じゃ、怪我でもして動けなくなったら全て終了です。気をつけます。
何はともあれ水だ水。
遡って行ければ水源に着くはず。
生活排水や工場排水なんて無さそうだから下流でも十分綺麗そうだけど、水源に近い方がやっぱり気分も良い。それに水源の場所は知っておきたい。森も中も一応見てみたいし。
無事に水源に着けますように。お願いします。遭難もしませんように。猛獣に会いませんように。十分に気をつけて進むので誰か見守ってください。
土地の神様水の神様山の神様。
願えるものには全部願っておこう。
森に入って数メートルもすると砂浜の位置が見えなくなる。
一応最初のビニール紐を結んだが、このまま川を遡れるなら迷う心配は無さそう。最悪自然の暗渠になっていたら大変そうだと思っていたけど、今のところ奥に続く川が見える。
大小の石が転がって苔むしているところもあるけど、森の中をただ水が流れているところもある。周りの高さはあったり無かったり。
川は全体的に浅そうかな。
川の水深は見た目が信用できないって言うから、詳しくは分からないけど。
しばらく行くと混じっていた亜熱帯植物は少なくなり、夏休み映画で見た事のあるような森へとなっていく。
これも亜熱帯なのかな。屋久島っぽい。
一応時々紐を結ぶが、今はまだ川の近くを行ける。少なくとも川の位置を確認できる。
苔が多く湿った場所もあるので、靴は濡らさないように十分注意が必要。
木の様子を見ながら、木に傷など無いかも確かめる。
もし爪痕や剥いだ跡があれば大型の動物が近くにいる可能性がある。
幸い恐れていた熊の爪痕のようなものは今のところ無い。亜熱帯の雰囲気が薄れてきた事で、アナコンダ的なやつの心配もしなくて良い……といいなあ。蛇の生態なんて知らない。熊も知らないが。
ハブとかいるかも。なんとなくハブは木の上から降ってくるというイメージがあるので、足下にマムシはいないか、頭上にハブはいないか注意しながら進む。
大型害獣のいる地域に住んだ事がないのでイメージがわかない。熊もハブもニュースでしか知らない。マムシなら日本中そこらじゅうで見るけど。家の近くにもよくいるけど油断は出来ない。あいつら凄い飛ぶ。
今のところ野ウサギっぽいのが一瞬顔を出した以外、野生動物には出会っていない。大きめの鳥は何回かすぐ近くから飛び立って心臓を縮み上がらせてくれた。虫は多いので割愛。
蚊取り線香を持ってくるべきだった。
歩きながら食料について考える。
肉類は冷蔵庫があるとはいえ長くは保たない。果物も食べ頃な物を持ってきているし、数日以上は無理。あらかじめ切って持ってきた野菜も同じく。
一部そのまま持ってきているけど、まあ数日だよなあ。
常備している非常食やカップ麺、乾き物があるとは言え、救助を待つにしても割と早い段階で現地調達が必要になってくる。
とはいえ、動物を捕まえて食べるのはまだ難易度が高すぎる。捌き方知らないし。
無難なところは魚だな、やっぱり。
道具もあるし魚なら一応おろせる。
釣りが出来ないか本格的に考えよう。
幸いチューブ餌やワームはいつも使っているのがある。虫系は持ち歩いてないけど、蚯蚓くらいいるだろう。
さっきからキノコはいくつか見かける。
でもキノコに手を出せるほど玄人じゃない。と言うか素人もいいとこ。田舎育ちでもキノコや木の実に詳しいわけじゃない。
食用アンド毒キノコ図鑑持ってたけど覚えてないし、食用と毒と似たのも多いから実際見分けるのは難しい。
後ちょうど子どもの頃、地域でマムシグサの実を子どもが誤食する事故が何件もあって、山の木の実を食べるな。って小学校で言われたし。その記憶が。
事故って言うか、なんでうちの小学校はマムシグサチャレンジが流行ったんだろう。皆唇腫れ上がってたのは当時笑えたけど、バカだろ。
入院した子が出て沈静化したけど。
だから知らない木の実怖い。
知ってる木の実があると良いんだけど。柿とか林檎とか桃とか。贅沢か。枇杷とかの春の果物はきっと季節がちがうしなあ。
持ってきた林檎とか種あるかもしれないけど、種植えても何年かかるんだよって話だし。
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