10.総合公園

 総合公園は広い公園で、遊具もあるし原っぱもあった。それから、動物がいる場所もあった。


 斗真とうまゆうと三人で公園に来て――わたしたち、どう見られているんだろう? とふと思った。悠はいつの間には斗真のことを「とうまくん!」と呼んでいる。

 元夫の浩之は、わたしよりも七歳年上だった。だから、悠が、わたしよりも五歳年下の斗真を「おにいちゃん」と言ったのも、よくわかる心情だった。浩之は七歳上であることに加えて、少し老けて見えたし、斗真は斗真で年齢よりも若く見えた。


 わたしはどういうふうに見えているんだろう?

 年齢相応? それとも、老けて?

 ずっと子育てに忙しくて、外見にあまり構っていられなかったことを思い出す。

 斗真と並んだわたしは――お姉さんに見えたら、まだいいか。斗真の親戚の叔母さんとかに見えたらどうしよう?


「どうしたの?」

「あ、うん」

「何か考え込んでいたから。心配ごと?」

「ううん、あの、わたし、どう見えるのかなって。――斗真の親戚の叔母さんに見えたらどうしよう、とか思っちゃって。お姉さんくらいに見えるよね?」

「……僕は、悠のお父さんとお母さんに見えるかなって思っていたよ」

「――え?」

 斗真が至近距離で笑った。


 何か言おうと思ったときに、悠が「とうまくん、あれやりたい!」と大声で斗真を呼んだ。悠は、ロープに捕まってちょっと座り、がーっといく遊具の前にいた。抱っこしてあげないと、捕まることが出来ないのだ。

「悠、それ、出来るの? 危なくない?」

「だいじょうぶだよ! えんそくでもやったもん!」と悠が言うと、斗真は悠をだっこしてロープに捕まらせた。

「しっかり握っていれば大丈夫だよ。はい!」


 わたしの心配をよそに、悠はあっという間にがーっと終着点まで行った。楽しそうに笑い声をあげて。

 大きくなったなあ、ほんとうに。

「まま、できたよ!」

 悠は器用にぽんっと降りると、ロープを持って走って来た。

「悠、すごく上手だった!」

「でしょう?」

 悠はとても得意気だった。

「よし、じゃあ、もう一回やるか?」と斗真。

「うん!」



 目いっぱい遊んだら悠が「おなかすいちゃった」と言うので、公園内のテーブルとイスのセットのところでお弁当を広げた。

「あの、重かったでしょ? ずっと持っていてくれて、ありがとう」

 車から降りたところで、斗真が「持つよ」と言って持っていてくれたのだ。

「全然重くないよ。それより、お弁当、ありがとう!」

「あのね、ぼくもてつだったんよ、つめるの!」

 悠は、テーブルを挟んで向かい合った席で、なぜか斗真の隣に座りながら言う。

「へえ! すごいね!」

「でしょう? あのね、ぼくのすきなものばかりなんだよ」

 悠は目をきらきらさせて、斗真にお弁当の中身を説明し始めた。

 悠は「ままがいればいい」と言ってくれていたけれど、本当はこういうふうな時間が欲しかったんだろうなあと思うと、また涙が出そうになった。


「こら」

 斗真がわたしのおでこを弾いた。

「また、何かマイナス思考になっている」

「え?」

「その顔しているときは、だいたい、振り返って、ああ自分が悪かったのかも? と思っているよ。――過去は変えられないからさ、未来を明るくしようよ」

「……うん。ありがとう」

「よし! じゃ、いただきます!」

「とうまくん、これたべて。ぼくがぴっくさしたの!」

 斗真は悠から唐揚げをもらって食べていた。

「うまい!」

「でしょ? あのね、これもおいしいの。たまごやき。ぼく、まぜたんだよ!」

「すごいなあ、悠!」

 悠が、太陽みたいに笑った。

 こんな笑顔、久しぶりに見た気がする。



「……今日は、ありがと」

 帰りの車の中で、お礼を言う。悠は車に乗ったとたんに寝てしまった。後部座席にとりつけたチャイルドシートで、平和な顔をして眠っている。

「あんなに楽しそうな悠、久しぶりに見た気がする」

「うん、よかった。僕も楽しかったよ。……不動産屋、このまま行こうかと思ったけど、悠、寝ているし多分起きないだろうから、先に悠を家に送っていって、それから不動産屋行こう」

「うん――いいの?」

「もちろん、いいよ。約束だろ?」

 なんだか胸がいっぱいになってしまう。


 家に帰ると、斗真は悠を抱っこして部屋まで連れて行ってくれた。わたしがやろうとしたら「重いでしょう」と言って。

 お弁当を作って一緒にお出かけしたりお弁当を持ってもらったり、眠った子を抱っこしてもらったり。マナには「そんなの、やってもらって当たり前だよ!」と言われそうだけど、そんなことがとても嬉しかった。



「どこの不動産屋に行きたい?」

「……決めてなかった」

「じゃ、任せてもらっていい?」

「うん」

 父と母に寝ている悠を任せて、不動産屋に行く。

 駐車場に車を停めて、お店に入ろうとして、また思った。さっき公園で思ったのと同じようなことを。

 わたしと斗真はどんな関係に見えるんだろう? 一緒に不動産屋に行くなんて。

 きょうだい? 叔母と甥っ子?


 ――僕は、悠のお父さんとお母さんに見えるかなって思っていたよ。


 ふいに、斗真の言葉を思い出してしまう。

 あれはどういう意味?

「しのぶ?」

「あ、うん」

 顔が赤くなっていませんように、と思いながら、お店に入ろうとした、そのとき。


「あんたのせいで!」

 ヒステリックな言葉が突き刺さった。

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