第17話
「その程度の色仕掛けで、俺を落とせると本気で思っていたのか?」
「そ、それは」
「体形以前にやり方がなっていない。勢い任せの強引なアプローチなんて、モテない男子の幻想でしかないんだ。馬鹿正直に実行するのが間違っている」
「だ、誰が男子レベルだって」
「それに、色仕掛けがうまくいったとして、だ。お前は最後までやり遂げられるのか? その覚悟が本当にあるのか?」
「うぐっ」
案の定、図星だったか。
俺に
「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」
矢継ぎ早の追及に耐えきれなくなったらしい。藤村は突っ伏すように倒れ込むと、大声で大号泣だ。制服に涙やら鼻水やら生温かい液体が染み込んでくる。
(ちょっと、何べったり抱きついているんだい、この女は。魅命の胸でわんわん泣いちゃって、
魂と一体化している奴が言う台詞じゃないだろう。自分の所業は棚に上げて身勝手なものだ。怪異相手なので今更ではあるのだが。
※
藤村はようやく泣き止んでくれて。
どうにか冷静に話し合う段まで辿り着けた。
「つまり、全部俺の予想通りだったんだな」
「そうよ、そうですよ。悪かったわね」
中二病の実現を目論み既成事実を、というのは概ね正解だったらしい。キャラになりきる
曰く、周囲に舐められないよう自己防衛のため、敢えて強者を演じていたとのこと。その出来に関してはいまいちだし、虚勢を張っているのがバレバレだったのだが、それについては言及するまい。これ以上プライドを傷つければ、ガラス細工の如く粉々に砕けてしまいそうだ。
とにかく、彼女との和解は無事完了。早いところ、鏡の世界から帰りたい。
「で、どうやったら元の校舎に戻れるんだ?」
「普通に入った鏡から出られるけど」
脱出方法は意外にもシンプルだった。
試しに姿鏡へと腕を突き出してみると、ずるりと向こう側へと沈み込んだ。抵抗もなくスムーズに。足を入れても同様だ。そのまま頭を突っ込んで、銀色に煌めく空間を通り抜けていく。
ものの数歩で旅路は終わり、そこは変わらぬ踊り場の景色。しかし、張り紙や階数を示す看板は正常。元の校舎に戻ってきたのだ。
「ね、言った通りでしょ」
姿鏡からぬるっと藤村が飛び出してくる。
「藤村の〈怪異能力〉、俺は結構有能だと思うのだが。それなのに、何故落ちこぼれ扱いなんだ?」
彼女自身は戦闘能力の低いひ弱な存在だろうが、〈怪異能力〉自体は強力な部類のはずだ。鏡の世界を行き来可能で自由度が高い。プライベートな空間として利用するもよし、他者を引きずり込んだり不意打ちに活用したりするもよし。
では、どうして梅組なのか。
「使いづらいからよ」
その理由は、汎用性の低さにあった。
「“
「ああ、なるほど」
自身と特定の人にしか効果がない。しかも、分かりやすい結果も出ないとなると、低評価の
梅組在籍の生徒は何かしら大きな欠点がある。俺の場合〈怪異能力〉自体が使えず、間宮の場合最弱
ん、ちょっと待てよ。
「執着する相手って、俺が?」
「勘違いしないでよ。あなたの場合、好意を抱いているって意味じゃないから。むしろその逆で負の感情。嫉妬心の矛先が向いているだけだから」
「そうなのか」
力を
転校早々武勇伝を打ち立てられたら面白くない。それは理解できる。
「一応改めて釈明させてもらうが、俺自身は別に強くない。むしろ〈怪異能力〉が使えず、怪異そのものを直接召喚しているだけだ。梅組に押し込められたのだってそれが理由。力を使いこなせていないからだ」
「同じことよ。あなたが梅組期待の星なのは変わらない事実。竹組相手に圧勝だなんて、これまであり得なかったのよ。大ニュースだったんだから。こうして恥を忍んで、やりたくない色仕掛けをしてすり寄ったくらいなんだし」
誰かに必要とされるのは悪くない。
だが、どうにも
頭を
あと十数分で授業が再開される。急いで戻らないと遅刻だ。担任教師の態度からして罰則はなさそうだが、途中入場は個人的に居心地が悪い。藤村も同意見のようだ。尊大な態度は演技であり、中身は陰の住人らしく生真面目そのもの。お互い次第に早足になっていく。
梅組の教室を目指し、階段を上がって渡り廊下へ。もうすぐでゴールだ、というタイミングで二人組の影が割り込んできた。
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