第10話
だが、それがどうした。
彼女はただのクラスメイト。しかも今日出会ったばかりだ。多少のシンパシーこそ感じたものの、危険を冒してまで助ける義理はない。いじめの現場に介入したのだって単なる自己満足。それ以上でも以下でもないのだ。
今一度、心を殺して見て見ぬ振りをしよう。それが俺にとって最善の選択のはずだ。そうに決まっている。
と、奥歯を噛みしめ立ち去ろうとしたところで、
「ふぅん、やっぱり逃げるんだね。いいよいいよ。ちょうど性奴隷が欲しかったところなんだ。今日からこの子は僕達の玩具になるだけだから」
篠原の腕が間宮の乳房を鷲掴みにする。
「お、いいじゃん。うわぁ、マジでいい体してるなぁ。落ちこぼれクラスに置いておくにはもったいないって」
「ひひっ、僕の“
吉川と篠原の指先が、間宮の体を
「オイオイ、ホントにいいのかよ。このままじゃオレらの性奴隷コース確定ってかんじじゃん?」
「転入生がビビりの根性なしだからしょうがないね。むしろキッチリ
横やりが入らないのをいいことに、吉川と篠原の魔の手は一層
当初の目的だった、箔をつけるための勝負はどこへやら。両者共に間宮を
やがて、その手はスカートの中へと伸びる。指先をショーツに引っかけて、
「……その汚い手を放せ」
空間がぐにゃりと捻じ曲がり、俺の背後よりどす黒い瘴気が漏れ出る。
目にも止まらぬ神速の一閃。
両者共に攻撃されたという認識すらできなかっただろう。大蛇に殴り飛ばされた体は、哀れにも体育館の壁に突き刺さる。頭部がめり込み、首から下を力なく垂れ下げるしかない。
闇へと
吉川と篠原は完全に沈黙。同時に間宮が膝から崩れ落ちる。〈怪異能力〉の主が意識を喪失し、洗脳が解けて自由の身になったからだろう。顔面から盛大に倒れていた。
「……またやってしまった」
まさか、一日に二度もやらかすとは。
やはり〈鉄檻〉は別格なのだろう。治安が悪いほどに、召喚という失態の機会は増加する。今後の学校生活が心配になってくる。
倒れた間宮へ駆け寄ると、鼻血で顔を朱に染めながら眠っている。血反吐と合わせて悲惨な有様。しかし、それ以外の外傷は、生首ボールを食らった腹部くらいだ。髪の毛虫はとうに消滅しており、這い回った傷跡と文様は残っていない。
連中のせいで乱れた着衣は元に戻しておこう。肌をなるべく見ないよう、そして直接触れないように慎重を喫して整えていく。
諦観ばかりの
(もしそんなことしたら、絶対に許さないからね)
とはいえ、このまま間宮を放置してはいけない。不届き者は成敗したが、第二第三の悪意が現れるかもしれない。それに二種類の〈怪異能力〉に晒されたのだ。怪我も加味して治療は必須だ。
俺はいわゆるお姫様抱っこの要領で間宮を抱え上げる。
「さて、保健室はどこだ?」
学校案内が途中だったせいで、校舎のどこに位置しているのか分からない。命に関わる場所なのだから、真っ先に聞いておくべきだった。と、悔やんだところで後の祭りだ。
仕方ない。このまま自力で探すか。
※
放課後。
敷地内南方の端に位置する学生寮。あてがわれた個室に足を踏み入れる。見事に殺風景な部屋だ。強制的な引っ越し直後なので当然なのだが、持ち込んだ私物も少ないので、今後賑やかになる予定はさっぱりない。無趣味も相まってミニマリスト然とした部屋になりそうだ。
溜息を一つ、力なくベッドに腰を下ろす。
初日から酷い目に遭った。これが〈鉄檻〉の洗礼なのだろうか。これまで送ってきた生活とは大違い。月とスッポン、雲泥の差だ。秘密を隠し通し生きていた頃の方が、よほど楽だった気もしてくる。
ちりん、鈴が鳴る。
(何を言っているんだい? 今だって私という秘密を抱えたままじゃあないか)
うるさい。
四六時中話しかけられているこっちの身にもなってくれ。
(そんなこと言われても困っちゃうなぁ。私は魅命の魂と一つになっているんだ。まさに一心同体で一蓮托生。離れ離れになることは永遠にないんだから。それなのに、今日は話しかけても全然反応してくれなかったじゃないか。私はとっても寂しかったんだよ?)
お前の都合なんて知るか。
それに俺だって、転校初日で緊張していたんだ。無理矢理連れてこられて治安最悪な環境に投入。おっかなびっくりで余裕がなくなるのも当然の流れ。むしろ察して黙るくらいの心遣いをしてほしかったよ。
(それはできない相談だねぇ。私の愛に満ちたアプローチは、未来
俺が宿す怪異、
上半身は三対の腕を持つ巫女、下半身は大蛇という異形の怪異だ。とある山奥にて封印されており、その姿を見た者を襲うとされていた。かつては霊能力を有する巫女――つまりは古の〈浄霊師〉――と荒ぶる大蛇の怪異で、別々の存在だったらしい。が、両者は死闘の末に
ともかく、彼女こそが俺を
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