第9話
「がぼっ」
連絡通路を逆走するように転がり、やがて減速して倒れ伏す。衝撃で内臓を傷つけたらしい。間宮は食べたばかりの物と共に鮮血を吐き出した。
凶器はボール、否、それには目も鼻も口もある。どう見ても生首だ。男子生徒の生首が間宮の脇腹にめり込み、その
「ご、ごめんなさい……あた、し……」
間宮は白目を剥き、そのまま昏倒してしまう。最後まで謝罪の言葉を呟き、一粒の涙を
人の頭部の重量は
「あれれ~、弱すぎてびっくりだぞ~?」
男子生徒の
生首がしゃべっている。
「ま、オレの“
生首が自立して転がっていく。ゴムボールのようにぽんぽん跳ねて、体育館の中へと戻る。行き先は首無しの男子生徒だ。一際高くバウンドすると、首は元の位置にぴったりと収まった。
(融合している怪異は生首ドリブルだね)
ツーブロック頭の男子が宿すのは生首ドリブル――その名の通り、サッカーボールの代わりに己の首を蹴る怪異だ。放課後の校庭に少年の姿で現れるという。
そして彼の能力は、自身の首を用いて強力なシュートを打ち込むという攻撃技らしい。〈怪異持ち〉故か〈怪異能力〉の特性か、思い切り蹴っているのに頭部は無傷。脳にもダメージはないらしい。肉体を切り離すリスクを背負ったことで、絶大なパワーとタフさを得たのだろう。
「……お前達は?」
歩み寄ってくる二人の男子生徒を見据える。
生首ドリブル男の隣にいるのは、対照的に不健康そうな顔色をした細身の男子だ。ねっとりと粘ついた笑みを浮かべている。
「オレの名前は
「
多種多様な〈怪異持ち〉が
松が優等生、梅が劣等生。間に挟まれた竹は平均的な能力値の生徒が集まっている。また人数が多いため二つに分けられており、合計すると四十人の大所帯だ。そのため、AとBと表記されているが、能力の優劣にほとんど差はないらしい。
「それで、何故間宮を攻撃した?」
「いやぁ、ぶっちゃけその女はどーでもよかったんだけどねー。庇って勝手に割り込んだのが悪いってかんじかな」
ツーブロック頭の男子――吉川は悪びれる様子もなく軽薄な態度をとる。
最初から俺が狙いで生首を蹴り込んできたらしい。
「落ちこぼれの梅組に
細身の男子――篠原がぼそぼそと小声
どうやら不良達を叩きのめした一件が、彼らの耳にも伝わっていたらしい。人の口に戸は立てられぬ、といったところか。悪目立ちした影響が早速表れてしまった。
「ってことはさー、お前を倒せばオレらにも箔がつくじゃん?」
「手合わせ願いたいと思っていたら、君の方から来てくれたんだ。ふひっ。是非一勝負させてもらいたいね」
別にお前達のために体育館を訪れた訳ではないのだが。
それに不意打ちをしておいて、どの口が「手合わせ願いたい」なのか。対等な条件で正々堂々勝負して、
(あれこれ難癖つけてくる、この二人がおかしいだけじゃないかな?)
どちらでもいい。
こんな奴らのくだらないプライドのために戦う気は毛頭ない。怪異を召喚する気はもっとない。ハイリスクゼロリターンなんて馬鹿げている。
時間の無駄だ、と俺は
「“
立ち去るより早く、篠原の背中に黒いリングが出現する。うぞうぞと不気味に
輪を構成する内の一本が高速で射出される。生首蹴りほどではないものの、目で追うのがやっとのスピードだ。
髪の毛虫は、倒れ伏す無防備な間宮へと打ち込まれる。首筋、色白な肌に突き刺さると、ずるりと内部へと潜り込む。途端、侵入口を起点に、黒い筋が何本も浮き上がる。彼女の
(今度はかんひもの能力だね)
かんひもとは、髪の毛で編んだ腕輪状の
その逸話通り、髪の毛虫を寄生させて、対象を自由に操作可能になる能力らしい。間宮は
「なんのつもりだ?」
「逃げる選択をするのは君の自由さ。でもさぁ……ふひひ、いいのかなぁ。この子を置き去りにしちゃっても大丈夫かなぁ?」
要するに人質のつもりか。
俺に勝負をさせるため、間宮を盾に断れないようにする。この分では、形勢不利の際にも同様の
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