第3話
※
時は一時間ほど前まで
拘束されて、半ば強制的に連れてこられたのは、薄暗く無骨な部屋だった。
内装はコンクリート打ち放しで、寒々しい壁が四方八方を囲んでいる。圧迫感で息苦しい。一方で四隅にはお札や
部屋の中央で棒立ちの俺、その眼前には男女が一組立っている。
男の方はスキンヘッドにサングラスと、近寄りがたい輩のような出で立ちだ。橙色の
なんなんだ、この二人は。
両者が放つ異様なオーラに
ぴんと張り詰めた静寂。
長らくの沈黙を破り、坊主の男が口を開く。
「えーと、君の名前は確か……巴坂魅命、だっけ?」
「……そうですが」
「どうしてここに連れてこられたか、もちろん分かっているよな?」
「俺が怪異持ちだから、ですよね」
「うんうんそうだね、大正解。って、それくらいは世の常識か」
ここは〈怪異能力特別育成学園〉。
その身に怪異を宿す子ども達――〈怪異持ち〉が集められた教育機関だ。しかし、学園というのは名ばかりで、その実態は収容施設と表現して差し支えない。でなければ、
(まるで犯罪者扱いだね。とはいえ、一般人からすれば危険因子に変わりないし、厳重な対応は妥当なところなのかな)
とはいえ、何もしていないのに罪人扱いとは承服しかねる案件だ。
いや、何かはしたか。
確かに俺は怪異を用いて人を攻撃した。それはれっきとした事実だ。弁解の余地はゼロだろう。
「確か、同い年の男子三人と女子一人に全治半年の大怪我を負わせた、だったかな。随分と派手にやったみてーじゃねーか」
「連中のやったことに対する報いとしたら適当かと」
「オイオイ、開き直りってか?」
「単に事実を言ったまでです」
中学校卒業を間近に控えた、ある日の昼休みだった。
校舎のどこにも居場所がなく、渋々体育館裏に退避したところで、あの現場に出くわした。
隣のクラスの男子三人と女子二人、尋常ではない空気を纏って集まっていた。男子三人は悪名高い不良達だ。度々非行を起こして補導される問題児で、一般生徒にも被害をもたらしていた。女子の内一人はどこぞの議員の娘だ。こちらも悪名高く、彼女に目を付けられるとろくでもない目に遭うともっぱらの噂だ。そして最後の一人が、そのろくでもない目に遭っている女子だ。地面に転がり
いじめという名の犯罪現場だ。
議員の娘が主導して、手を汚すのは札付きの男子達といったところか。何故ターゲットにされたのかは知らないが、十中八九理不尽な理由なのは想像に難くない。
おそらく、それだけなら俺は見て見ぬ振りをした。面倒事には巻き込まれたくない、と
だが、連中は一線を越えようとした。
冷酷無比な議員の娘は配下に命令を下す。眼前の女子を襲え、と。無論、単なる暴力行為ではないのは全員理解していた。不良達も被害者の女子も、遠目に見ていた俺でさえも。
それが引き金だった。
気が付けば議員の娘と不良達はボロ雑巾のようになっていた。
騒ぎを聞きつけた教師が通報したのだろう、やってきた警察は有無を言わさず俺を連行。現場検証にて残留した瘴気が発見され、怪異持ちだとバレてしまったからだ。
最後に見たのは、俺が助けた女子の瞳。恐怖に怯えて
そこから先は悪い意味でとんとん拍子だ。知らぬ間に手続きが進められ、こうして〈鉄檻〉への収監が決まった。
これまでずっと隠してきたのに。
己の内に潜む怪異を
事なかれ主義で心を殺していたつもりだったが、存外感情的な部分が残っていたらしい。
もたらされた結果からすると、その良し悪しには一考の余地があるだろうが。
「つー訳で。怪異絡みの暴力事件を起こしたお前は、なんやかんやで無事保護処分になりました、と。今日から〈怪異能力特別育成学園〉の生徒だから、その辺の理解をよろしくな」
スキンヘッドの生臭坊主が不敵に笑う。
保護処分と
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