第5話 初氷

俺はまず、剣士の男に狙いをつけた。ヴィークを無力化しない限り、その後ろのティムの元へ行けないからだ。しかし、相手もそれをわかっているのか、俺がフロストバイトを使うと、目敏く矢を放ってくる。その間に自由に動けるヴィークはゴブリンを切り倒していく。


ジリ貧な状況に置かれた俺は、一旦ヴィークから視線を外し、ティムに狙いをつける。両者の距離ではフロストバイトを使っても効果が薄いと俺は考えた。

「ウォーター」

俺は水魔法を唱え、手から放射状に水がティムに飛んでいく。

〈そんな弱い勢いの水で俺を倒せるとでも?〉

ティムは嘲けながら、矢を飛ばしてきた。


俺はそれを右に避け、再度【ウォーター】を唱える。

相手は油断しているのか、水を受けながらも矢を放った。俺は水で相手を狙うのに集中していたことで右に移動するのが遅れ、左の上腕二頭筋に矢が突き刺さる。

しかし、俺は痛みに顔を顰めながらも相手に歩を進める。

「フロストバイト」

距離を詰め十八番の魔法を唱える。ヴィークが守りに入ろうとしたが、その時彼は自分がすぐに助けに行ける距離ではない事に気が付いた。

(剣士は5mは俺の左にいる。これじゃあ、俺の魔法は防げまい。)

俺は右手から氷の息吹を吹きあらし、弓士が弓を持つ右手を重点的に狙う。

すると、相手の右手は見る間に凍り始めた。

(人体は凍りにくいが、水はすぐ凍る。そんなに濡れていたら一瞬で凍りつくだろう。左腕の犠牲も報われたな。)

2回目に水を放った時、相手の右手を重点的に狙っていたのだ。


相手は仕返しとばかりに弓を打とうとするが、手が震えて矢をつがえることができない。なんとか矢を飛ばせたが、上手くつがえず、力も入らないので、見当違いの方向にヒョロヒョロと飛んでいった。

「そんな矢で俺も殺せるとでも?」

俺は返すように嘲笑し、弓士の足元から凍らせた。


〈スラッシュ〉

剣士の方を見ると、1匹のゴブリンが丁度やられていた。残りは後3匹のようだ。

ティムの腰近くまで凍らせていることを確認したら、俺は魔法をやめ、ゴブリンの援護にむかった。

「フロストバイト」

弓士の援護は見込めなく、手段がない剣士は魔法を受けながらも俺に突っ込んできた。しかし、俺は地面が凍っている場所を選び後退し続けた。剣士は足場を気にしながら追いかけることにより、距離は中々縮まらない。


〈スラッシュ〉

右手もほぼほぼ凍りつき、後がなくなった剣士は決死の覚悟で足を大きく踏み出し切りかかる。ヴィークは一か八かの賭けに勝ち、光り輝く刃先を右上から左下へと振り抜く。俺は咄嗟に右に飛び、肩から受け身をとり地面を滑る。ヴィークの手は限界だったのだろう、剣は振り抜いた勢いのまま氷を滑り、俺の元へと滑ってくる。


そして、残ったのはもう武器を持てない2人だった。俺は近くに落ちている剣を拾い上げ、剣士の首を一思いに切り落とした。同じように弓士も殺した。

初めての戦いの最後は静かで、死体がダンジョンにDPとして吸収された後には、彼らの装備と、腰程まである氷塊が残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る