第21話 拷問官ハリー

 盗賊酒場から馬車で半日かけて、とある施設に連れてこられたダルトンは、直ぐに広い牢に入れられた。

 その中にあった小さな車輪がついた、腰ぐらいまでの高さの寝台に仰向けに寝かされ、寝台の四隅から出ている鎖に繋がった拘束具を手足にはめられた。


 ダルトンはなんとか逃げる方法はないかと考えていたが、時間だけが過ぎていった。そのうち考える事に飽きてあくびばかり出るので、ぼーっとしながら次の展開を待った。

 錆びた鉄扉が開く音が聞こえ、部屋の中に一人の男が薄手のゴム手袋を装着しながら入ってくる。

 長身で瘦せ型、丸い眼鏡を掛け白衣を着ている。神経質そうな面長の顔は青白く、年齢は二十代後半くらいだが髪に白髪が多く混じっていた。


 拷問官はダルトンの顔をじっと値踏みをするように見ていたが、ついに口を開いた。

「僕の事はハリーと呼んでくれ。君の事は兄から良く聞いているよダルトン君」

 兄?誰だ?もちろん盗賊ではないだろう。軍関係者か、故郷の知り合いか?

「君の上官だったアシュトン将軍だよ」

「ああ、いつも俺に絡んでくる鬱陶しい男か」


「兄は昔から人々を救いたい、国を守りたいという思いが強くて帝国軍人になった。入隊してからはみるみる頭角を現して階級が上がり将軍になった。たまに帰省した兄は、兵士の中に恐れを知らない勇猛果敢な者がいると言って、目を輝かせながら僕にその男の事を聞かせてくれた」

 ハリーはダルトンの顔を見て「君の事だよダルトン。久しぶりに会えたのに、僕なんかより君の事ばかり話すんだ。僕は嫉妬したくらいさ。君はよく軍規違反をしていたが、その度に将軍は君を庇って各方面に謝罪に行っていた。いつもやさしく勇敢で部下思い素晴らしい兄だった」


 しかしハリーの笑顔が、急に歪んだ。


「その兄を戦場のどさくさでお前は殺したのだ。お前は兄の背中越しに敵を貫いた。その場にいた何人もの兵士に証言を取ってある。間違いないなダルトン?」


「ああ。将軍は盾として素晴らしかった。あの時は敵の大将は強くてな。戦いが長引けば味方の犠牲者がかなり出ただろう。それで閃いたのだが、敵もまさか将軍の胸から剣が出てくるとは思わなかったろう。将軍は俺の作戦に一役買ってくれたのだ」

 それを聞いて怒りを露にするハリー。

「なんだって?将軍は喜んで犠牲になるつもりだったと言ってるのか?それはお前が勝手に思っているだけだ。あの時お前を死刑にすることも出来たかもしれない。しかしそんなことしても、きっと兄は喜ばないだろう。お前をどうこうしたところで兄が帰ってくるわけではない」

 ハリーは暫く黙っていたが、また早口でしゃべりだす。

「しかしだ、お前は大罪人として突然ここに現れた。僕は兵士としての才能は無かったが拷問のプロとしての才能を買われてここで働いている。これはめぐりあわせだと思わないかダルトン?」

 ハリーはダルトンを指さし

「お前は敵も味方も多くの人間を殺してきた。皇女を殺したのもお前だろう。これは神がお前に罰をお与えになるように僕を遣わせたのだ。神の意志だ」

 ハリーは子供が抑圧され、泣く事すら許されず我慢しているような、とても恨めしそうな顔をしていた。

 これはまずい。ダルトンは直感で嫌なものを感じている。

「この世には君が思っている以上の多種多様な拷問がある。食事も前菜からメインディッシュになっていくだろう。最初から泣き叫ぶような事をするのは素人のやることだ」

 器具を触りながら横目でダルトンを見てニヤけるハリー。

 楽天家なダルトンだったが、俺はここで発狂してしまうのかもしれないと思い始めていた。

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