第22話 皇女のネックレス

「くそ、俺をこんなとこに閉じ込めやがって、只で済むと思うなよサンダ新聞」

 周りを見回し「しかしどこなんだよここは」

 強がっているこの男は帝都新聞の期待の新人トビー。家に居るときに盗賊一味にさらわれた。

 休日は自分の家でくつろぎ、スクラップ帳に挟んだ自分の記事を読み返し、悦に浸っているトビーだった。

「金属と薬剤を組み合わせて、新しい製法で強度の高い新型剣を作る鍛冶屋のガトーさんの記事も評判よかったなー」

 ドアを叩く音が。

 ドンドンドン

「サンダ新聞ですが定期購読していただけませんか?」

 イラっと来たトビーは「サンダ新聞の勧誘員め、表の張り紙が見えねーのか」

 ドアを勢いよく開け、表戸の張り紙を指さす。

 「帝都新聞以外勧誘お断り」

 帝都新聞の勧誘員が来た時に、俺が帝都新聞の記者だと言って、俺が書いた記事を詳しく説明してやりたいのだ。お前などに用はない。


「サンダ新聞ですが定期購読していただけませんか?」

 まだ言ってるのか。本当に厚かましい野郎だな。

 「お前のとこの妄想全開の三流記事なんて誰が読むんだサンダ。高級紙だと嘘をつけ。取材して裏取りしろ腐れ新聞。だから売上が我が帝都新聞に全く及ばないんだこの」と言ったところで薬品の染み込んだ布を顔に押し付けられ意識が無くなっていく。そのまま箱に詰められ、さらわれて盗賊酒場経由、魔王城行きで、牢に入れられた。


 なにも勧誘員に本当の事を言ったくらいでここまでしなくてもいいだろサンダ新聞。優秀な俺に記事を書かせない事で帝都新聞の売り上げを落そうという作戦だな。

「ちくしょうめ」


「しくしく」

 向かいの牢獄から若い女性が泣いている声が聞こえてくる。

 トビーはその女性の顔と、着ている高貴な服が以前見たことあるような気がして、目を凝らした。

「あなたはもしや第二皇女のミリア様ではありませんか?」

「はい」

「なぜこんなところに?というかここがどこなのかわかりますか?」

「ここは魔王城です、魔王にさらわれたのです」

「ええっ、ここ魔王の城?」

「魔王は帝国の人間には手を出さないという取り決めを破って、私をさらって奴隷の様に扱っているのです」

「なんですって、帝国の第二皇女を奴隷に?」

 それを聞いたトビーは興奮で体が熱くなり汗が噴き出る。超ド級スクープだ。早く記事を書かないと、というか早くここを脱出しないと。


「あなたの牢の後ろにある格子は外れると他の奴隷たちが言ってました。そこから城の外に出られます。近くに帝都行きの乗合馬車が待機しています。それに乗ってお逃げなさい。今日は祝日なので魔族達も攻撃してこないでしょう」

「何から何までかたじけない。姫も一緒に逃げましょう」

「私はこの牢を出ることが出来ません」

「あなたの牢だけが格子がなぜか外れるんです。残念ながら私の牢のは外れない」


 姫は胸元から何かを取り出す。

「これは魔族に見つからないように隠していたネックレスです。私の代わりに第二皇女の証であるネックレスを、あなたが持って行ってください。これを皇帝陛下に見せて私の居場所を伝えてください。あなたの言う事を信じるはずです。そして私をここから助け出してください」


 牢の隙間から皇女が滑らせたネックレスは、向かいのトビーの牢に入った。

「姫ナイスコントロールです」

「それは、たくさん練習したから」

「えっ」

 ネックレスを握りしめたトビーは姫に「それじゃあ後で会いましょう。きっと大丈夫ですよ姫、帝国一丸となってあなたをお助けするでしょう」

 トビーは格子を外してダクトから城の外へ。


 周りを見回すと馬車まで距離は10メートル程であったが、トビーは近くに魔族がいることに気づく。だが魔族はこちらを見ていないようだ。音を立てないよう小走りで馬車に飛び乗るトビー。

 見て見ぬふりをする魔族達。

「お客さんどちらまで?」

「帝都まで急いでくれ」

 馬車は帝都に向けて走ってゆく。


そして城の前で馬車を見送るドゲム。

「よし茶番は終わったな」

 

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