第20話 異形の化物

 盗賊酒場に入ったダルトンの手下は、奥の方で臓腑をぶちまけ倒れているダルトンを発見した。近くに居た化け物がダルトンを殺したと思い込み、すぐに酒場を立ち入り禁止にした。瀕死のダルトンは帝国兵に見つかる前に酒場からなんとか逃げようとしていたが、全然体を動かすことが出来ない。

 

 失踪した皇女ミリアに関する情報には報奨金が掛けられ、盗賊達が関わっていることがわかった。ダルトンの手下は捕らえられ、拷問され、ラレソン村の盗賊酒場に第二皇女ミリアを連れて行ったことを吐いた。

 怒涛の帝国兵がラレソン村に押し寄せ、村の中にいた盗賊はほとんどが捕えられるか、殺されるかした。

 

 ダルトンの臓腑が元の場所に収まり皮膚が繋がって、やっと動けるようになった頃に、帝国兵が酒場に踏み込んでくる。すぐに捕らえられたダルトンは、拘束具を両手、両足に装着され壁を背に座らされていた。


 2メートルの巨体を鎧で身を包んだ短金髪、第二皇女ミリアの御付きの騎士であるゴルドリンは、ダルトンを見つけ腹を蹴った。まだ腹の傷が癒えていないダルトンは苦悶の表情を浮かべた。

「久しぶりだなダルトン。軍にいたときは華々しく活躍していたのに、今はこんなコソ泥になってるとはな」

「フン。軍人なんて俺にはあってなかったんだ。本来の俺に合った生き方に戻っただけだ」

 脂汗を垂らしながらダルトンは強がってみせた。


「それはそうと」

 ゴルドリンはダルトンの頭を足で踏みつけ押し込む。

「姫はどこなんだダルトン」

「そこにいるじゃねーか」

 第二皇女ミリアだった化け物を顎で指した。化け物は部屋の隅で、後ろ姿を見せて丸まっていた。

「あれはなんだ?大きな肉の塊が動いてるが」

「自分で確かめてみろよ」

 部屋の中にいる十数名の兵士たちが、恐る恐る近づいてく。兵士の一人が、剣先でその肉の塊をついてみる。

「ゴォワオォォウ」

 痛かったのか、それは叫び声を上げて兵士の方に振り向く。

「なんだこれはあああ」

 ゴルドリンと兵士一同、腰が抜けそうになるほど驚く。

「なんと醜く悍ましい生き物だ。あの化け物を殺せ」

 兵士が剣を構える。

「おい待て。そいつは何もしない。攻撃するな」

 ダルトンは止めようとする。

 一人の兵士が化け物の腹を刺した。

「ゴオオアア」

 芋虫の化け物は痛みで叫び、斬られたところから緑色の汁が飛び出し、床に飛び散る。

「うわ汚ねえ」

 兵士が皆後ろに下がる。

「なんだこの臭い」

 何人かの兵士はえずいている。


「この酒場から化け物を追い出せ。体から臭い汁が出るからもう斬るな」

 鼻を押さえながら兵士に指示するゴルドリン。

 帝国兵士は剣で化けものを脅して戸口に追い込む。芋虫のような化け物の大きさに対して戸口は狭かったが、化け物は身を捩り悶えて、緑の汁を吹き出しながら強引に外に出て行った。

 今度は外の兵士が悲鳴をあげている。

「なんだよあれは。どこのサーカスから連れてきたんだダルトン?」

 ゴルドリンは額の汗を手甲で拭う。


「だからあの化け物が皇女なんだよ。魔族があの姿に変えたんだ」

「じゃあ、その魔族はどこへ行ったんだ?」

「俺を殺してミリアを化け物にした後、魔界に帰っていったよ。俺は魔族に受けた傷を今癒してる最中なんだ。そうでなければお前はとっくに俺に殺されてるからなゴルドリン。あいつら魔族に感謝しとけ」


 ゴルドリンは腕を組み

「これじゃあ埒が明かんな。お前はここから一番近くにある施設に行き、本当の事を吐くか死ぬかを選ぶことになるだろう」

 近くの兵士に、ダルトンを馬車の荷台に乗せるよう命令する。


 やれやれやっぱりそうなるのか。本当の事を言ったが信じてはもらえまい。魔族になんぞ関わるのではなかった。

 これから俺は拷問され死ぬことになるだろう。いや不死身の体になったから死ぬことはないのか。俺はどうなるんだ?

 ダルトンは怖くなり考えるのを止めた。

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