第19話 第二皇女ミリア

 ダルトンが派手に倒れる音で、第二皇女のミリアは目を覚ました。

「一体ここはどこだ?」

 周りを見回し「ゴルドリン、ゴルドリンはおらぬか?」

「御付きの騎士ならここにはいませんよ姫」

「だれだお前は。人間ではないのか?」

「私は魔王様の命令を受けて、あなたをここに連れて来たのです皇女ミリア様。一緒に魔王城に来てもらいましょうか」

「なんだと魔王が命令して私をさらったと言うのか?」


 皇女ミリアは小さい頃に陛下と魔王が話をしているのを一度だけ見たことがある。魔族というのは醜く、野蛮で残酷だと聞いていたが、魔王ファザリスは知的で威風堂々、格好良い中年男で衝撃を受けた。ミリアの初恋が魔王ファザリスということは、口が裂けても言えないミリアだけの秘密だった。しかし今、目の前にいる魔族は、胡散臭くて下衆で嫌なオーラを発散させており、魔族のイメージそのもの。生理的に無理だというのが、第一印象だった。


「陛下と魔王は協力して西の魔物を駆逐しようとしている。そんな時に何故私をさらう必要があるのだ?おかしいではないか」

 皇女ミリアはドゲムを指さし「お前は本当に魔王の使いなのか?ここに魔王ファザリスを呼べ。お前のような三下魔族では話にならぬ」

 これにはドゲムも怒り心頭で、つい本音がでる。

「次の魔王であるこのドゲムを三下というか小娘。調子に乗りおって。これだから人間の姫は嫌なのだ。大陸は再び魔族の支配下になるのだ。大魔王の後を継ぐのはこの私だ、人間は魔族の恐ろしさを再び思い出すだろう」


「なんだと、はやく陛下にこのことを知らせねば」

 ミリアは立ち上がり出口に向かおうとする。

 ドゲムは手のひらをミリアの方に向ける。

「なんだこれは動けぬ」

「姫の声は聴いたなエンヤ?」

 エンヤは頷き、姫の後ろに来て、姫の首からネックレスをはずす。

 ドゲムはにやりと笑い「これがあればもうお前は用済みだ皇女ミリアよ。死んだ姫の代わりにお前を肉人形にするとしようか」

 ドゲムが呪文を詠唱する。

 ミリアの顔が膨れ上がり、体の膨張に耐えきれず服は裂け、そこから肉がはみ出る。

 「ウォー」と野太い声をあげながら、ミリアはみるみる大きな異形の化け物になってゆく。

 短い手足が胴体から生えてきて、大きく醜い芋虫の様な姿になった。

 目を見開き、それを横目で見ているダルトン。

 ミリアだった化け物は、酒場を意味もなく這いずり回っている。

「それではエンヤよ皇女ミリアになってくれ」

 エンヤは蝋が溶けるように体の形がくずれ皇女ミリアになってゆく。

「完璧だな」

 先程ミリアから取ったネックレスを首に掛ける。

「それでは魔界に帰るとしようか。男の入った箱は頼んだぞミリア」


 ドゲムはダルトンの方を見る。

「ああ、お前の事をすっかり忘れていた。まだまだお前が再生するには時間が掛かるだろうな。たが帝国兵はお前が再生する前にここに踏み込んで来るだろう。お前はこの状況を帝国兵に説明するだろうが、果たして先方は信じてくれるかな?牢に連れて行かれ拷問されるが、不死身のダルトンはいくら痛めつけられても死ぬことが無い」

 ドゲムは楽しそうだ。

 ダルトンの全身から脂汗が出てくる。

「あと言い忘れていたが、不死身というのは不老不死という事ではない。寿命が来たら死ぬという事だ。年老いたお前はいつかは牢で死ぬことが出来るだろう。それまで正気を保っていられたらいいなダルトン」

ドゲムは甲高い声で笑う。

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