第18話 不死身のダルトン

 鍛冶の町ガランドから東に十数キロ離れた所にある平和なラレソン村は、突然盗賊ダルトン一家に占拠された。酒好きのダルトンは村長の家を改装して酒場にしてしまった。


 戸口から酒場に入った盗賊の頭ダルトンは酒場の中を見回し、後ろの手下どもに指示する。

「おう、お前らその箱をカウンター前にもってこい」

 大きな二つの木箱をダルトンの手下が数人がかりで持って、酒場の中に運んでくる。箱が開けられ、中から出されたのは、高貴な身なりをした若い女と、二十代くらいの男だった。目隠し、猿ぐつわ、後ろで手を縛られた状態になっており、二人は気を失ってるようで動かない。

 直ぐにダルトンは手下を酒場から全員出て行かせた。

「居るんだろ魔族の旦那?依頼された二人をさらってきたぜ。報酬の方は大丈夫なんだろうな」

「ああ、お前に頼んでよかったよダルトン」

 酒場のカウンター奥の暗闇に二つの眼が光る。徐々にシルエットが浮かび上がり、大きくなる。

 魔王の参謀ドゲムだ。

「その男の方は魔王城に連れていくから、また箱に詰めてくれ。われわれが用があるのは皇女の方だ」

 ドゲムが指を鳴らすと若い女の拘束具が外れるが、気を失ったままだ。


「しかし依頼をしておいて何だがダルトン、帝国の第二皇女をさらってお前は只で済むと思ってるのか?帝国兵士が血眼で探しに来るぞ」

 ダルトンはカウンターの椅子に腰かけてドゲムを見ながら

「全ては俺が不死身の肉体になる為だ」

 ドゲムの眼が細くなる。

「私は嘘はつかない、お前は死んでも甦るようになる。私は人間を弄りまわして、偶然不死にする方法を発見したのだ。人間の形を保ったまま不死にするのはお前が初めてになるだろう」

「俺はこの時をずっと待っていた。今すぐ不死身の体にしてもらえるか旦那?」

「いいだろう。これを飲むがいい」

 丸薬を渡される。

 ダルトンは丸薬を口にいれ、カウンターに置いてあるグラスに残っている酒で流し込む。

「元に戻せと言っても戻すことは出来ないぞ」

 頷くダルトン。

 ドゲムが詠唱すると手から濃い煙がようなものが浮かび上がり、ダルトンの口に吸い込まれていく。電気が流れたように体がしびれる。そして熱く重くなる。立っていられないダルトンはその場に倒れ込み意識を失った。ダルトンはしばらく痙攣していたが、眼を見開いてゆっくり立ち上がりドゲムを見る。

「これで俺は不死身になったのか旦那?」

 自分の手足、体を見てみる。

「何も変わって無いようだが」

「そこの短剣で指を切ってみろ」

 ダルトンは自分の指を切ってみる。するとみるみる傷が塞がる。

「すげえ」

 治った傷をしばらく見ていたが、ダルトンは何かが違う事に気が付く。

「俺が確認したいのは死なないということなんだが」

「うちの魔族と戦ってみるか?」

「俺はわざと殺される気はないぞ」

「そうかお前は人間相手には負けたことが無いんだったな。だが上級魔族に勝てると思うか?」

「当然だ。人間だろうが、魔族だろうが俺に勝てる奴などいない」

「エンヤよ出て来てくれ」

「はいドゲムさま」

 若い男が現れる。

「おいおいそんな細い男に、俺が倒せるわけないだろ」


 ダルトンは酒場の武器ラックから大きな戦斧を取り出す。

「そこの兄ちゃん、武器が無いのなら武器ラックから好きなのを貸してやるぜ」

「私は自前の刀があるのでお構いなく」

 手品のように何もないところから刀を出すエンヤ。

「俺は手加減を知らないからな。死んでも恨むなよ兄ちゃん」

 ダルトンは片手に持っていた戦斧を両手で握り自分の前に出す。戦い慣れている者の隙のない構えだ。それを見て上段の構えをするエンヤ。

「それじゃあ、お手並み拝見と行くぜ」


 突進するダルトン。重い戦斧を持ってるにも関わらず、ダルトンはとても素早く動き、思い切り斬りかかる。

 刀で受けたエンヤは斧の重さ、衝撃で上半身がのけぞる。

 するとダルトンは足裏に体重を掛けて、エンヤの膝の皿を割る勢いで蹴りおとす。

 動きが止まるエンヤ。

「こんなもんか」

 ダルトンは大きく斧を振りかぶる。

 これが、いつも人間と戦う時のダルトンの必勝パターンの一つだったが、相手は魔族だった。エンヤの構えが変わる。

「炎夜新月斬」

 長年の勘で危険を察したダルトンは後ろに下がるが、エンヤの剣の衝撃波からは逃れられない。

 新月の型に斬られたダルトンの体から血と臓腑が噴き出す。後ろに倒れていくダルトン。床に着くまでの間とても長く感じていた。

 人間同士の剣の間合いでなら俺は負けない。しかしこんな戦いは経験がない。衝撃波など食らった事が無い。こんな攻撃を防げる人間はいないだろう。


「平和ボケの人間共は魔族の恐ろしさを完全に忘れてしまったようだな」

 ドゲムは倒れたダルトンの顔を覗き込む。

「臓腑が出て、それだけ出血したら普通の人間は死ぬだろう。だがお前は死んでいない。これが不死身になったという事だ。理解できたかなダルトン?」


 眼は見開いているが、動くことも喋ることも出来ないダルトン。意識はあるようだ。

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