第16話 ドゲムの反省会
姫を生きたままドゲムの私邸に連れてくる計画は失敗に終わった。
ドゲムが反省会をすると言うのでゲスールは、重い足取りでドゲムの私邸の二階にある書斎に向かっていた。ホールから階段を上がり廊下を歩いていく途中で、人間が異形の姿のなった化け物たちが、そこら中を這いずり回っていた。
「ドゲム様の趣味は理解できないでゲス」
ドアを開けて中に入ると、一見見て人間の革張りだとわかる重厚感のある椅子にドゲムが座っており、その横には姫を籠から落したガーゴイルが安っぽいスツールに座っていた。ゲスールの為に用意された椅子は無いので、体育座りでその場にちょこんと座った。
「だいたいの話は手下共から聞いているが、塔から落ちた姫の遺体はどうなったのだゴブリンよ」
「俺が塔の下に降りたときは、ゴブリン共が喧嘩をしていたでゲス。姫のソーセージをお前が隠したんだと言って、皆で大喧嘩でゲス」
「それでは姫の遺体は無かったのか?」
「落ちた場所には大きな穴が開いていたでゲス。それだけでゲス」
ドゲムはしばらく考え込んで
「誰かが姫を助けて連れ去ったのかもしれないな」
ゲスールは横に首を振って「姫が地面に衝突する音は、塔の上まで聞こえたでゲス。生きてるとは思えねーでゲス」
「それじゃあ捕食動物か何かが、ねぐらに持っていって姫を食ったのか?」
ドゲムは腕を組み考えるゲスールを見て、こいつの脳みそではこれ以上期待しても無駄だろうと思った。
「まあよい。私も姫を肉人形に出来なかったのは残念に思うが、終わったことを悔やんでも仕方あるまい。後は何か気になることはあったかゴブリンよ」
ゲスールは首を捻る。
「そうでゲスね。見間違いかもしれねーでゲスが、ゴンザレッドの影が動いた気がしたでゲス」
「影が動いただと。あの場にヴァシャールがいたのか?そういえば奴は会議室にいなかった。潜んでいたのは姫の護衛か魔族の暗殺の為か?」
魔王は姫を連れ去るときゴブリン達を殺してはならないと言っていた。という事はヴァシャールもゴブリンに手は出せなかったはずだ。
ゴブリンが姫を殺そうとする時に守る役割か。しかし姿を見せるとゴブリンに発見されることになる。ただ潜んで事の成り行きを見ていただけ?
ドゲムはしばらく考える。
まてよ魔王はゴブリン共を殺したとき、全責任を私にとらせると言っていた。
ゴブリン共が姫を殺そうとしたとき、ヴァシャールは一閃でその場のゴブリンも、目撃者も始末して、姫を連れて逃げるつもりだったのではないだろうか?
それならあのタイミングで魔王が会議を開くと言ったのも腑に落ちる。ほとんどの魔族が会議室に行っていた。
そしてゴブリン殺しの責任を取らされるのは私ドゲムだったのでは?
姫を連れ出すのを成功したとしても、私邸に向かう途中でヴァシャールがガーゴイルを殺して姫を奪っても良かった。
だから私に姫を連れ去っても良いと、魔王はあの時急に許可を出したのだ。
ドゲムは椅子から立ち上がり
「やってくれたな魔王よ。しかし魔王も姫を助ける事は出来なかったな。想定していた通りにはいかなかったようだ」
ドゲムは甲高い笑い声を上げた。
これ以上追及される事は無さそうだと喜ぶガーゴイルとゲスール。
そしてこの時、ドゲムはある決心をしていた。
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