第15話 姫の最後

「残りのゴブリンを引き付けるのは俺に任せるでゲス」

 ゲスールはなるべく姫から遠くの壁の方に走っていった。


 ぼんやり姫の方を見てるゴブリンに向かって篝火を蹴り倒す。

 もう避けれないタイミングを見計らって

「篝火が倒れたでゲス。危ないから避けるでゲス」

 篝火の炎がゴブリンに移る。

「あつうううううい」

 転げ回るゴブリン。

「さっきの姫の戦いの真似をしたでゲス。これは勝手に篝火が倒れただけだから、俺は殺してないでゲス」

 火だるまゴブリンにゴブリン達の注目が集まっているのを確認して、ゴンザレッドに扉へ行けと合図をするゲスール。


 ゴンザレッドは姫を担ごうとするが、はらわたが出てるので姫を肩に座らせるように乗せて扉へ走ってゆく。

 そして扉を開けて廊下の先の螺旋階段に向かって行った。


「まったく死ぬまで消えないなんて、恐ろしい炎でゲスね」

 肩をすくめるゲスール。

「みんな反対したんだよ」

「えっ?」

 ゴブリン女子が話しかけてきた。

「魔族みんなこの炎が怖いから上級魔族が代表して普通の炎にして下さいって魔王様に頼みに行ったんだよそしたら駄目だって断られたんだよ」

 急にゴブリン女子に話しかけられて狼狽えるゲスール。

「お、おうそうだな」

 足早にそこを去る。


 扉を開けた先の廊下ではゴンザレッドが厨房に行ったゴブリン達に呼び止められていた。

「おい姫をどこに連れてくつもりだ」

 しまった見つかってしまった、見つかったら駄目だとドゲム様は言っていた。

 しかし、ゴンザレッドが勝手に姫を助けに来たことにして、全てゴンザレッドの所為にしてしまえばいいのではないか。姫とこいつは学校の仲間というやつだから、おかしくはないはずだ。こんな事でゴブリン王を諦めるわけにはいかない。


 ゲスールはゴンザレッドに、螺旋階段から塔の屋上まで行けと指示した。

「お前らソーセージ機は手に入ったでゲスか?」

「ああここにあるぞ」

 ゲスールはゴブリンからソーセージ機を取り上げ、それを扉の方に投げる。

「おいなにやってんだ」

「取りに行け、ゴブリン共」

 ゲスールの後ろのゴンザレッドが、螺旋階段に向かって走り出したのを、一匹のゴブリンが見つける。

「おい、見ろ。あの赤トロールが姫を連れて走ってるぞ」

 2匹のオークがゴブリン達の前に立ち塞がる。

「ゲスールよ、ここは俺たちに任せろ。俺達が時間稼ぎをする」


「俺が会場のゴブリン全員呼んで来る」

一匹のゴブリンが扉を開け会場の中に走っていく。

 まずい姫を早くガーゴイルに渡さなくては。

 ゲスールはゴンザレッドの後を追いかけていく。

 その時、一瞬だったがゲスールはゴンザレッドの影が動いたような気がした。

 階段の辺りで、ゲスールはゴンザレッドに追いつき、長い螺旋階段をひたすら上り続ける。

 人間なら何回か休憩を入れなければ、とても体力が続かないだろう。しかし下級とはいえ彼らは魔族なのだ。ペースを落とすことなく一気に上り切った。


「いたでゲス」


 円塔の屋上には背中に籠をしょったガーゴイルが塔の胸壁に留まっていた。

「この籠に姫を入れろ」

 籠を円塔中心の方に向ける。

 ゴンザレッドはガーゴイルに近づき肩に座らせていた姫を優しく籠に入れようとする。


 その時姫はガーゴイルの顔が一瞬見えた。

 以前ドゲムがこのガーゴイルと仕事の話をしている場面を何度か目撃したことがある。

 自分の計画を実行するときだけこのガーゴイルを使っていた。

 このガーゴイルはドゲムの私兵だ。

 ドゲムは私をどこかへ連れて行こうとしている。

 それはおそらくドゲムの拷問室がある私邸だろう。

 学校の噴水からは拷問された人間達の血が出ていたのを何度も見た。

 ドゲムはいつも私を嫌っていた。

 おそらくドゲムの私邸で死んだ方がましというほどのおぞましい事をされるのだろう。

 籠に入れられた姫は最後の力を振り絞り大きな声で「ゴンザレッド、ガーゴイルを止めて」


 あわてて塔から飛び去ろうとするガーゴイル。

「ヒメー」

 円塔の胸壁から身を乗り出し、飛び立ったガーゴイルの足首をつかむゴンザレッド。

 空中で不安定になりながら羽ばたくガーゴイル。

「離せトロール。おいなんとかしろゴブリン」

 ベルトから短剣を抜くゲスール。

 その時、螺旋階段をゴブリン軍団があがってきた。

「ソーセージを寄越せ」

 一匹がゲスールの顔に飛び蹴りを入れる。

「姫をどこに隠した」


「ここだよゴブリン」


 ガーゴイルが背負っている籠から姫の声が聞こえると、ゴブリン達はゴンザレッドに群がり、よじ登り始めた。

 ゴンザレッドは、ガーゴイルを円塔の胸壁に叩きつけようと思ったが、籠の中の姫を傷つけてしまうかもしれないので、そのままの態勢を維持していた。

 籠に辿り着けないゴブリンの一匹がイライラし始め、ゴンザレッドの背中にしがみついてる位置から手を伸ばし、ガーゴイルの足に短剣を刺した。

「痛てえ」

 空中で態勢が崩れるガーゴイル。

「しまった」

 籠が逆さになり姫が地面に向かって真っ逆さまに落ちる。

「ヒメーーーー」

 頭を抱えるゴンザレッド。


 塔上から長い距離を落ちてゆく姫は、これでいいんだ。ドゲムのおもちゃにされるのなら死んだほうがましだ。ありがとうゴンザレッド。さようならパパ。酷いサプライズだったけど、今まで育ててくれてありがとう。今スナミちゃんの元に行くからね。


 数秒後、地面に激突する音が響いた。


 螺旋階段を我先に下り始めるゴブリン達。

「俺のソーセージ」

 がっくり肩を落とすゲスール。

「中級魔族、ゴブリン王…」


「おいゴブリン、姫が死んだのはお前のミスだ。ドゲム様にはそう伝えておく」

 籠を捨てて、飛び去って行くガーゴイル。


 結局、姫はドゲムの私邸に行く事は無かったので、ドゲムは姫を連れ出した責任を逃れた。

 代わりにゴンザレッドが全責任を負わされ処刑された。

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