第14話 姫のソーセージ

「とにかく生かして姫を連れて来い。絶対にお前が姫を連れ出す所を他の魔族に見られるな。他のゴブリンを殺すのも駄目だ。任務を無事成功させることができれば、お前を中級魔族してやろう。ナカジマの様に。いやそれ以上の。お前はゴブリンの王になるかもしれぬぞ」


 ゲスールの心が躍る。

 自分もナカジマのような特別なゴブリンになれるのか。

 そしてゴブリン王。

 ゲスールは何としても姫を生かしておかなければならないと思った。


 姫の元に戻ってくるゲスール。

 まずい、はらわたが出てる。

 姫は間違いなく弱ってきている。

 人間ははらわたが出て、どれくらい生きられるのであろうか。

 こんなことなら傷つけるのではなかったとゲスールは後悔していた。


 しかしまだゴブリン達は、姫に致命傷を与えることはしていなかったので、それだけはラッキーであった。

 代わりにゴブリン達の怒りを一身に受けたナカジマはボロボロであったが。


 ゲスールはゴブリン達の方を向き

「おいゴブリン共」

「お前だってゴブリンだろ」

「はらわたに肉詰めて食べるあれはたしか、思い出せないでゲス」

「ソーセージだろ」

「そう、それでゲス。ソーセージを作る機械を村を襲った時に、城に持ってきたでゲス。それでいいこと考えたでゲス。姫のはらわたを引っ張り出して姫の肉を詰めて、焼いてソーセージを作るでゲス。それを姫に食べさせ、我々も食べるのでゲス。パーティはもっと盛り上がるでゲス」

 「そいつぁいいや」とゴブリン達が盛り上がる。

 それを聞いた姫は、魔族とはなんて醜悪でおぞましい生物なんだろう。知っていたつもりだが想像をはるかに超えていた。

 気分が悪くなり、思わず吐いてしまう。

 反射的に吐しゃ物に飛び掛かり床を舐めまわすゴブリン達。

「もったいないでゲス」

 そして、ゴブリン達を見て「よしお前ら、ソーセージを作る機械をもってくるでゲス」


 一匹のゴブリンがパーティ会場入り口とは反対の左の扉を指す。

「ソーセージ機は厨房にあるらしいぞ。厨房はあの扉の先の廊下にある部屋だ」

 数匹のゴブリンが走っていく。


「なあ。ソーセージ出来るまで姫の左腕も切り落として食っていいか?」

 一匹のゴブリンがゲスールに聞いてきた。

「ダメでゲス。絶対に駄目でゲス。お前らのような不器用なゴブリンに血は止められねーでゲス。止血出来なければ姫が死ぬでゲス」

「もう死んだっていいだろ」ジャンプして姫の顔面にパンチするゴブリン。

 立っているのがやっとだった姫は、膝から崩れ落ちる。


「やめるでゲース」

 大きな声を上げるゲスール。

 ゴブリン達が一斉にゲスールの方を見る。

「おい、いつまでお前はゲスゲス言ってんだ。もう姫の召使じゃないんだろ?」

「これはアイデンティティーというやつでゲス」

「なんだそれ?」

 実際この語尾のせいでゲスールは他のゴブリンより目立ち、なにかと特別扱いされ美味しい思いをすることも結構あった。なのでゲスールは人間の女が考えたこの語尾が最初は気に入らなかったが、今は名前共々かなり気に入ってるのであった。


 とりあえず姫への攻撃は一旦止まっている。ソーセージ機をゴブリン達が持ってくる前に姫を連れて逃げなければ。なにか利用できるものはないか周りを見回す。


 姫をテーブルクロスに乗せて引きずるか?いや非力なゴブリンが一匹では無理だ。何か車輪の付いた荷台のようなものはないか?そんなもの会場のどこにあるのか。だいたい周りに気づかれることなくどうやって姫を運ぶ?

 頭を抱えるゲスール。


 すると会場入り口の少し開いた扉の先に赤色のなにかがチラチラ見える。目を凝らすゲスール。

 あれはゴンザレッド。

 先ほど会場から逃げたゴンザレッドが姫が心配で戻ってきたようだ。これは利用できる。

 小走りに扉の前に行き、逃げようとするゴンザレッドを呼び止める。


「入ってくるでゲス。姫を助けるのにお前が必要でゲス」

「ヒメ大丈夫ナノカ?」

「大丈夫でゲス。早くするでゲス」


 会場に入ってきたゴンザレッドは真っ先に姫の前に来て「ヒメヒメ、ダイジョウブ?」

 心配そうに見る。

 少し微笑む姫。

 近くにあるテーブルからクロスを剥ぎ取り床に横たわる姫にやさしく掛ける。

「ありがとうゴンザレッド」

 ゴンザレッドは嬉しそうだ。

 その時会場の扉が突然開き、オークが4匹会場に入ってきた。

 2匹のオークはゴブリンの溜まっている所に来て「おうゴブリン共、姫を俺たちに寄越せ。姫の白い肉を握りつぶしながら犯すんだ」

 するとゴブリンは「お前ら豚が触ると姫の肉のランクが下がる。姫の最高ランクソーセージは俺たちのものだ」

「なんだと糞喰いチビ共がグルメ気取りか?」

 会場のゴブリンが騒ぎを聞きつけ集まってくる。


 違う2匹のオークはゲスールの所にやってきて「おいゲスールって誰だ?お前なのか?」

「違うでゲス」

「その語尾、お前しかいないだろ」


 ゲスールは考える。

 もう姫を連れ出そうとしてるのが気付かれたのか?オークなら殺してもいいはずだ。

 ゲスールは腰の短剣を抜こうとする。

「待て待て。俺たちもドゲム様に遣わされた者だ。お前だけでは心許ないということでな」

 オークは扉を指さす。

「あの扉を開けて廊下を進んだところに塔の螺旋階段がある。そこから塔の頂上まで上れ。ガーゴイルが待機しているから、そいつに姫を渡せ」

「なるほど空から姫を私邸に運ぶんでゲスね」

「ちなみに、あそこで騒ぎを起こしている2匹のオークもドゲム様の手下だ。ゴブリン共の気を引こうとしている」


 ゲスールはゴンザレッドの所に行き「ゴンザレッド、合図をしたら姫を螺旋階段に運ぶでゲス」

 ゴンザレッドは頷く。

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