第13話 パーティの終わり


「姫よ」

 魔王の低い声が響く。

「毎日剣技の訓練をさせたが、本当にその程度なのか姫よ」

 魔王は呆れ顔をしている。

「ロランは追い込まれると強くなった」

「私にはそんな力は無い」

 ふり絞るように声をだす姫。

「こんなことではゴブリン全て倒すのは無理だぞ姫」

 魔王の顔が険しくなる。


「死を覚悟せよ」


 嫌な予感がするプリシラ。

 魔王の指先が一瞬鋭く光ったように見えた。次の瞬間。


 カランカラン


 剣を持ったままの姫の右腕が、地面を滑っていた。姫の右肩から先が無くなっている。

 顔面蒼白の姫。

「あ、あ」

 肩から血が噴き出している。

 するとドゲムが「魔王様、姫が死んでしまいます」

「案ずるな」

 魔王の右手が鈍く光る。すると姫の肩の血は止まっていた。肩の皮膚は緑色に変色していた。

「なん、で。なんで、こんなことするのパパ。なんでえええええ」

 号泣する姫。


 その光景を見たゴブリン達が異常に興奮し、地面に落ちた姫の腕に走って飛び掛かる。姫の腕にかぶりつくゴブリン達。

「うめえ」

「こんなうまいものは食べたことがねえ」

 夢中で肉を嚙み千切るゴブリン達。俺にもよこせとゴブリン達の殴り合いのけんかが始まった。


 絶望。


 魔族は歓喜する。

「さすが魔王さま。なんと心地よい絶望だ。昨日まで何のストレス無かった姫がこの絶望。人間の姫を飼ったかいはあったかもしれない」

 上級魔族は話し合っている。


 大きなため息をつく魔王。

「もう私は茶番に飽きた。左手で戦え姫よ。すべてのゴブリンを相手にしろ」

「嘘でしょ。そんなパパ、助けて」

 優しいパパはもういなかった。

 力が抜けその場に立ち尽くす姫。

 

 ドゲムは驚きを隠せない。

 「魔王様はどうしたのだ。姫を助けたいのではないのか?」


 魔王がぼそりと言う。

「ゴブリンよ、剣を姫に返すのだ」

 ほとんど骨になった姫の腕をしゃぶっている一匹のゴブリンが、姫の手があった部位から剣を取りだし、姫の方に剣を滑らせる。

 フロアを回転する剣は、勢い余って姫の足に少し刺さるが、姫の反応は無い。


 剣を拾い上げようとする姫の左手が震えている。利き手ではないので、剣をうまく扱えない。

 短剣で姫を弄ぶゴブリン、姫の手、足から血が滴る。


「もう姫は駄目かもしれないでゲスね。いつも人間の村を襲った後に見るアレでゲス」

 姫の前に現れるゲスール。

「姫いつもの元気がないでゲスね」

 心配そうに見るゲスール。

 短剣で姫の体を2度、3度軽く斬る。

 そして。

 少し力をいれて。

 斬る。

「姫、少しはらわたが出てるでゲス」


 玉座から魔王は立ち上がって

「よしパーティは終わりだ。姫はもうここまでだろう。皆ご苦労。遺跡の魔物を討伐する日は近い。中級、上級魔族は会議室に集まれ」

 そして姫を囲むゴブリン達を見て

「姫を嬲った後は、亡骸をロランの王国だった場所に埋めてやれ」


 それを聞いたドゲムは、素早く魔王の元に寄り

「魔王様、姫はまだ生きています。私に貰えないでしょうか?」


「駄目だ。お前は姫を拷問した後に異形の生物に変えるつもりであろう。姫をお前のコレクションにするなど絶対に許さん。あれでも旧友に頼まれた姫なのだ」


 なんだと?旧友だと?人間を友と呼ぶのか、この魔族の王は何かがおかしい。なんなのだこの違和感は。


 大魔王様は、人間を屠る事しか考えてなかった。


 大陸の大半を支配し、幾度も勇者パーティを返り討ちにし、残虐非道、圧倒的な力を出し惜しみすることなく、先頭に立って人間共を蹂躙、支配する素晴らしい御方であった。

 しかしこの魔族の王は人間を友と呼び人間と共闘もできるのだ!

 珍しくドゲムは熱くなっていた。


「ドゲム、ドゲムよ」

 魔王が自分を呼んでいるのに気づくドゲム。

「なんでしょう魔王様?」

「やはり気が変わった、姫はお前の好きにするがいい」

「は?本当ですか魔王様?」

「お前には姫の事で色々迷惑を掛けたからな。私はもう一度魔族を統率しなければならない」

「感謝致します魔王様」

 魔王に跪き、頭をさげるドケル。ニヤける顔が抑えられない。

「ただしだ」

 魔王は続ける。

「あそこにいるゴブリン共を殺して姫を連れて行く事は許さん。私は全ての魔族の前でゴブリン達に姫を嬲り殺させ、亡骸を埋めるよう公言した。私邸に連れて行く所を他の魔族に見られるな。もし失敗したら全ての責任をお前に取ってもらうぞドゲム」

「はい魔王様」


 ゲスールに合図して近くに呼び寄せる。

 そして耳元でささやく。

「ゴブリンよ、なんとかして姫を生かしておけ。死体は偽装して王国跡地に埋葬しろ。本物の姫は崖の上の私邸まで生きたまま運んでくるのだ」

 親子揃って私を侮辱したのだ。この程度で死ぬなど許さん。肉人形にしてもっと苦しませねば。

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