第12話 ゴブリンの奇跡
先ほどまでこのフロアにナカジマはいなかったはずだがどうして?
「下級ゴブリンなど姫の敵ではない、ライバルであり宿敵の僕が相手をしよう」
姫は悲しそうな顔をして「私は戦いたくない。あなたは私の大事なクラスメート」
やれやれといった顔をしてナカジマは肩をすくめた。
「そんな甘い考えでどうするんだ姫。人類の戦いは今始まったばかり。剣を取り戦え姫よ」
ナカジマは得物であるレイピアを構える。
「さあ剣を構えたまえ姫」
ゴブリンの奇跡ナカジマは、ゴブリンの敏捷性を残したまま力強さもあり長身でリーチも長く、姫は全く勝てる気がしなかった。
「君が来ないなら僕の方からいくよ」
真っ白な歯を見せナカジマは爽やかな顔で笑っている。
素早いが無駄の多い変なステップで近づいて、姫の間合いに踏み込んで来る。レイピアの突きはとても速い。細い刀身は姫には全く見えず間合いをとって防戦一方になるのだった。顎を少し上げ姫を見下ろすポージングでニヤリとするナカジマ。
「ナカジマ抜刀術」
そう叫ぶと、ナカジマの剣が一瞬消えた。これは危険だと姫の直感が働き、勘で左によける。
ヒュッ
首のすぐ横にレイピアの柄の部分が見えた。
血の気が引く姫。
避けなければ死んでいた。
こんなふざけたノリのふざけた技で、死ぬところだった。
ナカジマを後から会場に入れたのは参謀のドゲムだった。手加減して観客を楽しませろと言ったが、ナカジマは姫が自分より遥かに強いと思い込んでるので手を抜く気がなく、ドゲムはゴブリンが糞程も役に立たないことを再認識させられるのだった。
「姫よ、ナカジマ流奥義を御覧に入れよう」
「奥義?」
ナカジマがゆっくりとした動きになり、気持ち悪い構えをしている。この変なノリで殺されるのは絶対嫌だ。でも力の差がありすぎて、もう観念するしかないようだ。
会場からもナカジマコールと笑いが起きる。
「ナーカジマ、ナーカジマ」
大きく息を吸うナカジマ
「ナ、カ、ジ、マ流、ナカジマ流、奥義っ!」
その時、バーンと大きな音がして会場の入り口の扉が大きく開いた
何事かと皆が扉の方を見る。
「ヒメーー」
「誰だあれ?」
「ヒメー」
「あれはゴンザレッドだ」
「ヒメーー、ヒメーー」
ゴンザレッドが会場に入ってきた。魔族の注目が自分に集まっている事に気づき、みるみる体が真っ赤になるゴンザレッド。癇癪を起こして両手を上げ、近くにある魔王像を破壊しようとしたが、その先にいる魔王と一瞬目が合い、そのまま回れ右をして会場から走り去っていった。
会場が大爆笑になる。
「なんだあいつ。姫と学校とかいう所に行ってる魔族は変なのばっかりだな」
「何しに来たんだゴンザレッドめ。奥義の最中で」
ナカジマが不満そうにブツブツ言っている。
おそらくナカジマは奥義名を言い終わるまでレイピアで攻撃してこないだろう。
今しかチャンスはない。
勢いよく姫は飛び出す。
剣を振りかぶり、ナカジマの頭に思い切り剣を振り下ろす。
だが剣はナカジマの頭頂をかすっただけだった。焦って踏み込みが足りなかった。
しかし剣の切先はナカジマの金髪ヴィッグに引っ掛かり前にズリ落ちた。
ヴィッグがナカジマの顔を覆う。
「あれ?夜になったんですか?」
視界が真っ暗になったのはヴィッグの所為だとナカジマが気づいた時、剣を中段に構えていた姫は、渾身の力でナカジマの腹に剣を突き刺した。
「ゴブゥ」
膝から崩れ落ちるナカジマ。
「苦しい。刺されたんですか僕は?一年間修行して体得した奥義を姫に披露することが出来なかった」
床を叩いて悔しがるナカジマ。
「で、でも、それでこそ私の姫だ。姫は、世界を救う人だ」
そして、ぶつぶつと何かを言い出す。
「漆黒の炎異界の王焼き尽くす時、世界は再び二つに分かれ帰途に付く者安寧を求めん」
よくわからない。またなにかの創作物の引用だろうか。
「チャオ」
手を挙げてそのまま動かなくなるナカジマ。
それを見ていたゴブリン達が、一斉にナカジマに襲い掛かる。
「何がゴブリンの奇跡だ。人間の女なんかにやられやがって。この恥さらしが」
ナカジマの顔に張り付いてるヴィッグを鷲掴みにして、そのままナカジマに口に突っ込むゴブリン。ナカジマの上で飛び跳ね、糞をまき散らすゴブリン。短剣でナカジマを滅多刺すゴブリン。
ナカジマはもうピクリとも動かない。
「酷い、これがゴブリン」
「少なくともナカジマ君はこんな奴らとは違ってた。変わってたけど私の学校の仲間だったよね」
肩を落とす姫。
そしてまたあらたなゴブリンが姫の前に現れる。
姫の体力はもう限界だった。最早防御するので精一杯だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます