第9話 プレゼント

 次の日の朝、謁見室の魔王に挨拶した姫は城を出て、いつものように迎えに来たスナミの元へ向かう。


「おはようスナミちゃん」

「ああ、姫様おはようございます」

「あれ?なんか元気ないねスナミちゃん」

「いやそんなことないですよ」

「そうかな?」

 姫はスナミの顔をじっと見て、持っていた物をスナミの頭にはめた。

「何ですかこれは姫?」

 スナミは外して手に取ると、それは猫耳が付いたカチューシャだった。

「額の眼を使うときにいつも手で髪を押さえてるじゃないスナミちゃん。これがあったら両手が使えるかなって」

「ありがとうございます姫様」

「私もパパに誕生日プレゼント貰ったし、いつもお世話になってるスナミちゃんに私からも何かプレゼントしたくてね。早起きして作ったの」

「これ手作りなんですか姫 私大事にしますね」

 スナミはうれしそうだ。


「でもなんでいつも額を隠しているの?」

「この眼が見つかると敵の攻撃目標になってしまい、私を守る為に味方にも負担が掛かります。だから私はこの眼を隠して見つからないようにしているんですよ」

「そうか、敵はスナミちゃんの何でも見える眼が怖いんだね」


 姫の表情が少し曇って「昨日みたいに魔族に襲われる事はあるのかな?」

「東の小島にいるベリモスは魔王様が殺してしまったので手下はしばらく混乱して動かないでしょう」

「それでパパは昨日、溶岩地帯に行ってたのか。あれは小島に行った帰りだったんだ」

「魔王様は敵にも寛大で自ら攻撃を仕掛ける事はほとんど無いんですが、昨日の事は許せなかったみたいですね」


 校門から敷地に入ると噴水から真っ赤な水が勢いよく出ている。今日は何人拷問されてるんだろうか。思わず目を背ける姫。

 校舎に向かって歩いてる途中で、ふと花壇を見ると赤い何かが目に入る。

 あれは赤トロルのゴンザレッドだ。

 姫とスナミは近づいて「おはよう、何してるのゴンザレッド」

 ゴンザレッドはくるっと振り向いて「ヒメ、オハヨー。オハナ花瓶ニカザルンダ」

「ああそうか昨日は朝に帰っちゃったからね」

 花壇を見た姫は「綺麗なお花だね、赤、黄、青色の花かある。ゴンザレッドが育てたの?」

「ウン、ソウダヨヒメ」

「ゴンザレッドの趣味は園芸なんですよ姫」

「へーそれは意外だね」

 スナミは時計を見て、「遅刻しますよ姫」

「それじゃあねゴンザレッド」

 手を振り学校に入って行く。


 ナカジマはいつものように姫を見つけると深々と頭を下げた。

「明日ですね姫の誕生日」

「ナカジマ君はパーティに来てくれるの?」

「もちろんです。ついに奥義を姫に見せる時が来ましたね。姫は僕を倒して人間界を救う救世主になるんです」

「いやそうはならないと思うけどね」姫は苦笑する。

「ナカジマ君は奇跡のゴブリンなんだから、ゴブリン界を救わなきゃダメだよ」

「僕はゴブリンの事なんかどうでもいいんです」

「それは問題発言なんじゃないのナカジマ君?」


 キーンコーンカーンコーン。


 アキオ先生がだるそうに入ってきて。

「エンヤが家庭の事情でこの学校を転校することになった」

 えっ昨日転校してきたのに?

「皆さん大変短い期間でしたが、お世話になりました」

 エンヤはぺこりと頭を下げ教室を出ていく。

「なんなのよ、この茶番は」

 そしてアキオ先生も黒板に自習と書いて出て行った。

「なんで自習なの?」

「西の魔物討伐で皆忙しいみたいですね。遺跡で人間と共闘する事になっています。城に残る魔族もいろいろ準備があるようです」

「ふーん」


 突然扉が開き教室にゴンザレッドが入ってきた。教壇の上に花の挿してある花瓶を置き、外に出てった。

 姫はそれを眺めて「綺麗な花だねえ」

 少ししてゴンザレッドがまた教室に入ってきて今度は姫の前に来た。鉢を持っている。

「ヒメアゲルヨ」

 姫に鉢を手渡した。綺麗な青い花が咲いている。

「ありがとうゴンザレッド」

 照れたゴンザレッドは外に行って、そのまま帰ってしまった。

「学校に何をしに来ているのだあいつは」とナカジマが呟いた。


 途中でスナミが西の魔物討伐関連で上級魔族に呼び出され、教室を出て行ったまま学校に戻ってくる事はなかった。


 放課後、姫は校門を出て一人帰途についていた。

 また昨日みたいに魔族に襲われたらどうしよう。今度はスナミちゃんいないし間違いなくやばい。

 自分の影を見る。あのお方は今日は居るんだろうか?

「いますかー?」と影に向かって呼び掛けるが反応はない。

 姫は、はあーと深いため息をつき、肩を落として城まで帰るのだった。

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