第10話 姫の誕生日パーティ1

 次の日の朝、姫は目覚めると、ゲスールに手伝ってもらいサテンのドレスを着た。

「私の誕生日パーティだと思ったら緊張してあまり眠れなかったよ。ねえゲスール、スナミちゃんもパーティに来るのかな?」

 ゲスールは顔をニヤけさせながら「さあそれはどうでしょうね。知らないでゲス。時間になったら呼びに戻って来るので、姫は部屋でお待ちくださいでゲス」

 落ち着かないので、姫は剣の素振りでもしてみた。

「そういえばナカジマ君は来るような事を言ってたな」


 暫くすると、ゲスールが呼びに来て会場の前まで案内される。黒い鎧を着た魔族にエスコートされパーティ会場に入る姫。姫様誕生日おめでとうパーティーの会場の吹き抜けホールはとても広く、魔族で埋め尽くされていた。


「ここはいつも扉がしまっているから初めて入るけど、とても広いホールなのね」


 壁に一定間隔で並んでる篝火には姫お気に入りの久遠の炎が爛々と輝いていた。

 一階は立食パーティ風で、クロスが掛かったテーブルがいくつかあり、皿に乗っている得体のしれない食べ物をゴブリン達が摘んで食べていた。ホール一階はどこを見てもゴブリンしかいないのが姫は不思議だった。


 一階奥の玉座には魔王が座っていて すぐ横には参謀ドゲムが居た。

「あっパパがいた」

 今日はフォーマルな格好でマントしてるのね 格好いいわ。

 魔王に向かって手を振る姫。

 それに気が付き手を挙げる魔王。やや顔が強張っている。


 二階を見渡すと中級魔族が雑談している。三階は上級魔族のようだが遠くてあまり見えない。どうやら魔族の階級によって居る階が違うようだ。


「素敵だわ」


 初めての誕生日パーティー。私が魔王城に来てから17年目になる。そろそろ魔族のみんなも私の事を認めてくれたのかな。

 ざわざわと雑談している魔族たちの声。


「あー姫よ」

 魔王の低い声が響き、ざわめいていたホールがシーンとなる。

「ここには姫の誕生日を祝いたいという魔族が大勢集まっている。挨拶をしなさい」

「はい、分かったわパパ」

 皆の注目を浴び少し緊張する姫。

「えー魔族の皆さん、私プリシラ姫はパパと、お世話になった魔族の皆様のお陰で今日を迎えることが出来ました。今後ともよろしくお願いします」

 頭を下げる姫。


 静まっていた会場が、少しざわざわと声がする。

「今後だって?」

 2階から声が響く。

 少し間をあけて

「お前に今後なんてないぞ」

 違う魔族が大声で叫ぶ。

 会場の皆がドッと笑い出す。

「魔族の皆様のおかげ?何を言ってるんだあの人間は」

「魔王様をパパだって?」

 それを聞いた魔王は右手をぐっと握ると、2階にいた中級魔族の一匹が爆散した。

「私がパパと言わせているのだ。発言には気を付けるようにな」


 異様な雰囲気。


 2階で飛び散った肉片を見て、また笑い出す魔族達。うねりの様な笑い声。その下品で嫌な感じの笑い声に姫は気分が悪くなってくる。


「一体これは何なの?」


 姫は圧倒されて思わず後ずさりしてしまう。すると固い何かにぶつかった。

 振り向く姫。

「あ、ゲスール?」

「姫お誕生日おめでとうございますでゲス」

 ニヤリとするゲスール。

「ありが」

 その刹那、ゲスールの拳が姫の腹にめり込む。鈍器で叩いたような音がする。

 ボスッ

「言わせねーでゲース」

 ぴょんぴょんジャンプして、かかって来いポーズをするゲスール。

「ゴホッ」

 うずくまる姫。

「ーーっ」

 口角から泡が出る。

 しばらく苦しんでいた姫だが、顔を上げ魔王の方を見る。

「パパ、これは一体、何なの?どうなってるの?」

 目に涙を浮かべる姫。

「プリシラ姫よ終わったのだ」

「終わった何が?」

「魔王が人間を娘を育てるという期間が終わったのだ」

 姫は訳がわからない。

「それは私が学校を卒業するってことなの?」

「それとも魔王城を出て人間界に行けって事なの?」

「そうではない。魔王の庇護でお前は守られてきたが、今それが無くなったのだ。お前はどうなる?」

 それは……

 生まれて初めてだ。魔王が姫に冷たい言葉を。

 手が震え、頭が真っ白になる姫。


「それでは私が言ってやろう。ここでお前は私の手下に嬲り殺されるということだよ姫」


 全然わからない、本気で言ってるの?なんの冗談なのパパ?

 混乱と悲しみで涙が止まらない。

「今まで楽しい日々は何だったの?それなら、それなら今までなんで育てたの?」

 泣きじゃくる姫。


 その様子をしばらく眺めた後、魔王は言った。

「ロランが勿体ぶるので何かあるのではと期待していたのだが、お前は只の人間の姫だった。最後に絶望で会場を沸せるがいい。まずはゴブリンを相手に戦って貰おうか姫よ」


 まさか私に剣技を学ばせたのはこの為なの?

 魔族に勝てるわけがない。

 会場を見回す姫。私とゴブリンの戦いを観戦して楽しむ魔族達だ。

 なんという悪趣味だ。これは私を嬲り殺すことを楽しむパーティだったのだ。

 だんだんと意識が遠のいてゆく姫。

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