第6話 溶岩地帯

 魔王城まで帰って来た姫は、スナミと城の前で別れた。魔族に襲われ、不安な気分になっていた姫は、謁見室に入って魔王を探すが、どうやら玉座には居ないようだ。広い謁見室を歩き回っても誰も居ない。姫は探すのを諦めてその場に立ち止まり少し休んだ。謁見室を何気なく見回して姫は、無骨な石造り、四方でゆらゆら揺れる炎と静寂、この厳かな雰囲気も魔王城の魅力ではないかと感慨に浸っていた。


 するとすぐ後ろから声がする。

「どうかしたんですか人間の姫よ?」

「うわっびっくりした」

 振り返るとそこには参謀ドゲムが立っていた。

「いつからいたの?」

「姫が城に入ってくる前から居ました」

「あっそう」

 姫は腑に落ちない顔でドゲムを見て

「パパどこに行ったのか知らない?」

「魔王様は溶岩地帯です。二匹の鳥から報告を受けたのでね」

 含み笑いをするドゲム。


 ドゲムは大陸に古くからいる魔族だと言われているが、詳細はわかっていない。真っ黒な体はガスなのか霊体なのか。いつも法衣で身を包んでいるので本当の姿は誰も知らない。両眼が上の方で光っているのでそこが顔だと認識できる。地味な見た目がコンプレックスでいつも派手な法衣を着ているとゴブリンが噂していた。魔族の科学者で医者で技術者、時に何でも屋。姫の学校の近くの崖の上に私邸があり、捕まえた人間を拷問して楽しんでいる。興に乗ると人間を異形の肉人形にしてコレクションに加えることもあった。そして甲高い笑い声は全ての魔族をイラっとさせた。

 姫が魔族の中でも特に苦手としているのがこのドゲムである。


「ドゲムさん、パパの様子を見に溶岩地帯に行きたいんだけど、断熱魔法を掛けてくれない?強力なやつをお願い。あとアイスゴーレムも呼んでくださいドゲムさん」


 いつものように姫にこき使われて頭に来るドゲムだったが、それはおくびにも出さず「いいでしょう外で待っていてくれますか?」


 ドゲムは使い魔にアイスゴーレムを連れてくるよう命令して、姫に強力な断熱魔法をかけるのだった。

 アイスゴーレムにおぶさり溶岩地帯に向かう姫。ひたすら走るアイスゴーレムは「自分暑いの駄目なんで」と何度もつぶやいていた。崖下に溶岩地帯が見えるポイントに到着するとアイスゴーレムは溶けかかっていた。「自分暑いの駄目なんで帰っていいっすか?」と切れ気味に言うので、「ごめんねお疲れ様」と手を振る姫。細くなった体でよろよろと走って帰って行くアイスゴーレム。


 姫はしゃがみこんで膝のあたりに頬杖をつくと溶岩地帯をボーっと眺めた。考えてみたら体の周りに断熱魔法が掛かってるのだから、アイスゴーレムの冷気も断熱されてるじゃない。

 姫はアイスゴーレムに申し訳ない気分になった。


 そして溶岩の海に何かが動いているのが見えた。良く見るとバタフライで泳いでいる魔王がいた。

「溶岩を泳ぐなんて一体どんな体してるのよ」


 手を振る姫に気が付いた魔王は特製のゴーグルを取りそのまま崖上まで飛んできた。着地すると体についていた溶岩が足元から地面に流れ落ち黒い塊に変わる。そして魔王の体が一瞬青くなり湯気が上がり始めた。どうやら体を冷却しているようだ。

「やあ姫、今日は大変な目に合ったようだね」

「そうなのパパ。魔族に襲われてとても怖かったんだから」

 急に思い出して涙ぐむ姫。

 それを見て姫の頭を撫でてやる魔王。


「姫よ誕生日プレゼントは何がいいか決めたのかい?」

「うん、謁見室でゆらめいているあの炎が欲しいわ」

 魔王は少し驚いた顔をして

「久遠の炎か?あれは小さい頃から姫は嫌いだと言ってなかったか?」

「昔は怖いから嫌いだった。でも今はあの炎をみると落ち着くの。消えないというのもポイント高いわ」

「そうか姫も成長したのだな」

 魔王は含み笑いをする。


 姫を急にお姫様抱っこをして魔王は空中に上がる。

「それじゃあ姫の為に特別な炎を用意しようか」

 とんでもないスピードで魔王城に向かって飛ぶ。

 さっきのアイスゴーレムが走ってるのが一瞬見えたが、また直ぐに見えなくなった。


 魔王城の一番高い塔上に降り立つ魔王。そこで姫を降ろした。

 空一面茜色の夕焼けを見て「姫、見よこの夕日を」

「素敵だわパパ」

「お前の本当の父ロラン王が死んだ時もこんな夕日だったな」

 ロランそれが私の本当の父親の名前。


「ロランと初めて会った時の事を話そうか」

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