第5話 スナミと異形の鳥
噴水前でカバンを両手に持って、立っているスナミに姫は声をかける。
「お待たせしましたスナミちゃん」
噴水からは透明な水が出ている。今はドゲムは外出してるのだろうか。
「すごい汗びっしょりですね。なにかあったんですか?」
「エンヤくんが手合わせしたいとか言ってきて、それで相手をしたのだけど強い強い、もう疲れて逃げてきたの」
「そうですね彼は上級魔族ですから」
「そういえばスナミちゃんは中級魔族だよね」
「はい」
「なにか武器をもってるの?」
「私は持ってないです。身軽な方がいいですから」
「でも敵に襲われたらどうするの?」
「まあ敢えて戦うなら爪で攻撃ですかね」
「なにそれ猫みたい。スナミちゃんかわいい」
膨れるスナミ。
「私の能力は索敵で戦闘タイプの魔族ではないですから、それはしょうがないんです。重装備なんかしてたら身軽に動けませんから。戦闘は力だけではないんですよ姫様。特に集団戦は情報が要になるんです。私はこう見えて重宝されてるんですよ」
スナミが珍しくムキになってるように感じた姫は
「もうわかったよスナミちゃん冗談だから、そんなに怒らないで」
横目でスナミを見ると頬を膨らませている。
「それにしてもエンヤくんは何がしたかったんだろうね?」
「手合わせしたという事は今の姫の実力を測ったんでしょうかね。上級魔族の彼が本気になれば姫なんて一撃でしょうけどね」
ムッとした姫は
「なにそれさっきの仕返しなのかなスナミちゃん?私だって少しは剣を使えるんだからね。ゴブリン一匹くらいとはいい勝負すると思うよ」
学校からそのまま持ってきてしまった剣をブンブン振り回す。
校門を抜けて少し歩くと、魔王城までの一本道になっている。石が土に埋められた真ん中の道の片側は、草地を挟んで土の斜面になり、鬱蒼とした森に続いている。
二人が歩いていると、何かを感じたスナミは足を止めた。前髪をかき上げ、額の眼を晒す。
「姫そこで止まってください、早く」
森の大きな木に隠れていた巨体がゆっくりと姿を現す。鎧を着た二メートルはある二匹のハイオークだった。一匹は柄から垂れた鎖にトゲ付き鉄球がついてる武器。もう一匹は大きな斧を持っている。
「気付かれたようだな」
「おい」
片方が隣のオークを腕でつつく
「あれは魔王の鳥じゃないのか?」
「ああ間違いねえあの額の眼」
「魔王が溶岩地帯を作ったせいで迂回して来なければならなかったが、これはラッキーだったな」
「あの鳥のせいで我々の軍の半分が壊滅し、ベリモス様も重傷を負った。あの眼を潰せば戦況が変わるかもしれないぞ」
それを聞いた姫は前に出てきて剣を構える。
「ちょっとあなた達、スナミちゃんになにかしたら私が黙ってないからね」
姫の剣も足も震えている。
目を見合わせて肩をすくめるハイオーク。
「なんで魔王は人間の娘をいつまでも城に住まわせてるんだ?」
「弱い人間と仲良くして不可侵条約だと」
「やっぱりあんなのは俺たちの王にふさわしくないぜ」
「大魔王様のいた時のように大陸を全て支配するのは俺たち魔族だ。人間達を奴隷にして嬲り殺すんだ」
「お前は鳥の眼を潰して絞めろ、俺は人間の娘をミンチにしてやる。あとで皆で食うとしよう」
「姫様、二匹ではありません多数潜んでいます。そのまま動かないで」
姫の耳元で囁くスナミ。
武器を構えて近づいてくる2匹のハイオーク。姫は震えが止まらないし、全く勝てる気がしない。スナミは下を向き、地面に向かって話しかけている。
「オークの弓兵が丘に10、森に潜んでいるハイオークが15、魔法無効ゴーレムが1、座標を送ります」
「えっスナミちゃん何を言ってるの?」
スナミの手から小さな球体の光が出てくる。姫の影に小さな球体は吸い込まれていき、影から声がする。
「了解」
おおきな何かが姫の影から飛び出して空に向かって一直線に飛翔する。それが空中で停止すると、その姿を捉えるができた。
猛禽のような顔、筋肉質な体は真っ黒な体毛で覆われている。羽を大きく広げるとさらに威圧感が増し、地面に大きな影が現れた。体の両側に二本ずつある腕は一部が盛り上がっていて、その上の無数の突起には穴が開いている。突起の穴に黒紫の光がぼんやり輝いて、光はだんだん明るく輝きを放つ。
空を見上げたハイオークは「くそ、あいつがいたのか」と呟いた。
仲間を撤退させる為に、魔法の信号を空に向かってあげる。
猛禽のような魔族は
「もう遅い」
腕から複数のレーザー光が連続して発射される。一瞬でレーザーが二匹のハイオークの体を貫き黒紫の炎が上がる。四方八方レーザーは飛んでいき、森の中、丘の上からも炎がいくつか噴き出している。そして空中に留まっていた異形の鳥魔族は森の中に凄いスピードで急降下した。岩が砕けるような音がして、再度飛翔すると
「フン、もういないだろう」
魔王城の方に飛んでいく。
ポカーンとしていた姫だったが、安心してその場にへたり込んだ。まだ手が震えている。
「見てスナミちゃん手が」
「姫様」
「スナミちゃん無事でよかった」
スナミに抱き着く姫。
「あーフワフワする あーよかった」
少し休憩して、姫は落ち着きを取り戻した。
「スナミちゃんあの大きくて鳥の様な魔族は誰なんですか?」
「ヴァシャール様、魔王様が信頼をおいている特級魔族です。空中からの遠距離攻撃、闇に潜んで暗殺と護衛を得意としています。私と相性がいいのでよく組んで任務に当たっています」
「私たちを襲ってきた魔族は?」
「あれは魔王様に離反して東の島を拠点に活動している特級魔族ベリモスの手下です。あれは待ち伏せしていたのではなく、迂回して上陸し、魔王城付近に偵察に来ていた部隊と偶然私達が出くわしてしまったのでしょう」
「でもスナミちゃんはホントに役に立つんだね。ごめんよ疑ったりして」
「もういいですよ姫」
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