第3話 姫の学校2
「おーい席につけ」
香水のきつーい匂いとともに先生が教室に入ってきた。インキュバスのアキオ先生はヒョウ柄のワイシャツをだらしなく着てはだけさせ、、痩せて浮き出た肋骨を見せつけ、乳首にピアスしている変な教師だ。いつも気だるそうにして、やる気が無さそうだけど物知りで、色魔ということ以外は人間に危害が無さそうなので魔王は教師役にした。
私の夢に出てきたら自爆する魔法をパパが掛けたと言ってたけど、なんでだろう
「それじゃあ挨拶しろ、今日の日直誰だ」
「ゴンザレッドです」
「どこだーゴンザレッド」
「ゴンザレッド君は帰りました」
トロールのゴンザレッドは体が緑ではなく赤色をしている。そのことで昔からから、かわれていた(主にゴブリンに)。その為に引っ込み思案になり皆に注目されると赤い体がより赤くなり癇癪をおこして近くのものをぶっ壊してしまうのだ。
今日は日直で朝一番に来たゴンザレッドは、花瓶の花を取り替えていた。花瓶に花を挿すことが出来ずイライラして花瓶を握りつぶし、教室の窓を壁ごとぶち破ってそのまま帰ってしまった。ちょっと短気なトロールであるが、姫に対してはとてもやさしいトロールなので、魔王は姫のクラスメートにしたのだった。
「おいナカジマ、ゴンザレッドはいないようなので代わりに日直やってくれ」
「御意!」
ナカジマは立ち上がり
「起立、気を付け、礼」
ナカジマだけ拝をしている。
「ねえねえスナミちゃん今日の先生のパンツはどんな感じ?」
「えーまたですか姫」
「ビキニかな?お願い今回で最後だから」
「いつも言ってますよね。千里眼はそんなことに使う能力じゃないんですよ姫」
少し怒った顔のスナミちゃんの顔も可愛い。
「ほんとに最後ですからね」
スナミは髪をかき上げる、額の眼が怪しく光る。
「わっ」
「どうしたのスナミちゃん」
「は、はいてません」
「えーまじで何考えてるのあの教師」
「ちょっと待ってください姫、先っちょに何か」
「なんなの?」
「これは」
目を細めるスナミ。
「これは貞操帯ですね」
「えっどうゆうこと?」
「浮気しないように」
「あーだめだ高校生には刺激が強いわ、スナミちゃんのスケベ」
「もう」
膨れるスナミ。
半年ほど前から始まった魔族と人間の姫が通う不思議な学校は、最初は皆がどうしていいかわからず、ぎこちなくぎくしゃくしていた。今はだんだん慣れてきて楽しくなってきた姫だった。
「ということで朝の朝礼は終わりだが、今日は転校生を紹介する。入りなさい」
扉が開くと長身の黒髪の爽やかイケメン男子が颯爽と入ってきた。ナカジマと同じ学生服を着ている。
「エンヤ君だ、みんな仲良くしてしてやってくれ」
「どうもみなさん、トロコン・エンヤです。階級は上級魔族、必殺技は炎夜新月斬です。よろしく」
頭をぺこりと下げる
「なにその名前、なんで必殺技?」
ナカジマが歯ぎしりをたてる。ライバルが出てきたと思ってるらしい。
しかし初めての人間のクラスメートだ。隣のクラスの生気のない奴隷の子供たちとは違う。
「姫、姫」
「なーにスナミちゃん」
「彼は人間ではないですよ、変身できる魔族です。いろいろ期待すると後悔しますよ」
「えっそうなの?」
理由は分からないが、パパが何か企んでいるに違いない。
エンヤは姫を一瞥すると右後ろの空いている席に座った。
「それじゃあ歴史の授業を始めるぞ、えーっと、ナカジマ授業はどこまでやった?」
「はい先生、大魔王様が大陸の支配を確固たるものにしたところです」
「そうだな魔族にとって一番良い時だったな。年号は試験に出るからな覚えとけ」
黒板に数字を書いたアキオ先生は皆の方を向き
「よしここで問題だ。大魔王がいつも口にしていた言葉はなんだかわかるか?」
ナカジマを指さし「はいナカジマ君」
「滅せよ人間共」
「正解だ、いつもその一言しか言わなかったから知能が低いと言われたんだ。だが大魔王様の触手と、魔法は凄まじい破壊力だった。当時の私達、魔族を痺れさせた。大魔王様に勝てる勇者は恐らく居なかっただろう」
「恐らくとはどういうことですか先生?」
「勇者と大魔王様が戦っていたのは一時期だけで、理由は分からないが勇者はこの大陸から消えてしまった。大魔王様への脅威は無くなり、魔族は皆喜んでいた。しかしある日、大魔王様は何者かに惨殺されてしまったのだ」
時計を見たアキオは
「あっまだ時間あるな。よしナカジマよ、残った時間で、E・Hスモフキンの大陸の歴史を読んでくれ」
「御意」
姫はため息を付き
「また朗読会か」
スナミは姫の方を見て
「この大陸は歴史か浅いのでしょうがないですね。それに昔の事は口伝ばかりでほとんど書物に残されてないんです」
「ふーん」
大陸の歴史
この世界の主戦場は一つの大陸だった。なぜならそれ以外は海と小さな島々しかなかったから。
生物が繁殖するのに適していた大陸は、多種、多様な動植物が生息するようになり生態系は理想的な状態で維持されていた。その後大陸に人間が出現する。人間達は身近にある植物を食べたり小動物を捕まえて食べたりして飢えを凌いでいた。火の起こし方もわからず、水にあたったり、生肉や毒植物を食べて死ぬ者もいた。その日の食料を取るのにも苦労し一緒に来た仲間の墓標の数も増えていった。
そんな過酷な生活の中、人間達は自分たちが紙の束を持っていたことに気付く。開くとその中には暮らしに役立つ知識や道具の作り方が書かれている。それから大陸では爆発的に人口が増えていった。人口が増えて生活が豊かになってくると人々は今までの生活では物足りない。楽をしたいと思うようになり、他者を支配して、奴隷として働かせたり、殺し合いをするようになった。
そんな中、大陸の中央で人間は初めて魔族に遭遇する。ゴブリンと呼ばれるその魔物は毛のない痩せた老人のような姿、硬い緑色の肌で、俊敏さは人間離れしている。知能があり自分たちと同じ言葉を話すので人類の亜種ではないかとも言われた。だがその生き物は人間とは決定的に違うことがあるのがわかった。ゴブリンは戯れに人間を殺す邪悪な存在だという事だった。人々はゴブリンを恐れ、敵であると認識した。
ゴブリンは増え続け村や町を襲い、家畜や人の被害は増えていった。人間は同族で争っている場合ではなくなり新しく出現した魔物を倒すために協力する事を決めた。そして人間達はなんとかゴブリンを人の生活圏から退治した。
だが魔族はゴブリンを皮切りに、より強く上位となる魔族が現れるようになっていく。もう人間の力では太刀打ちできず、大陸は魔族の支配地域になり、人間は魔族の奴隷にされ、凌辱され、嬲り殺された。
人々に抵抗する気も無くさせる程の出来事だったのが大魔王の出現である。大魔王は他の魔族に比べて知能が低かったが、体躯が大きく、他の魔族とは強さと、頑丈さが桁違いだった。人間達の村や町へ赴き立ち塞がるものは、皆破壊していった。揺るがない魔族の支配と人間の絶望の数十年は後に大魔王時代と言われた。人々はもう神に祈るしかなかった。その祈りが通じたのか各地で同時に特殊能力に目覚めた人間たちが出てきた。それは勇者と言われた。勇者は特殊能力を持ち肉体も頑強で一人で上位魔族を倒すほどの力を持っていた。
キーンコーンカーンコーン
「よしナカジマそこまででいいぞ。それじゃあ次の授業は現魔王ファザリス様が魔族を纏めて、大陸の東に拠点を移すところだな。予習しとけよ」
理科の授業は魔族の体の仕組みを知る為、特別に参謀のドゲムが授業を受け持ち、ゴブリンを生きたまま解剖した。
魔族史の授業では魔界にいる魔族の特徴を覚えようと資料が配られた。姫はスナミがハーピーだと思い込んでいたが、資料のハーピーとスナミがあまりにも違い過ぎるので、この娘は一体何の魔族なんだろうと首を傾げていた。
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