パーティー、開始②
『堅苦しい前置きは不要だろう……皆のおかげで今日という日を迎えることができた。存分に楽しんでくれ』
国王による挨拶が終わり、会場内に演奏が響き渡る。
特定のスケジュールなどない。ここからは、各自それぞれ最後のダンスを迎えるまで好きなように時間を過ごす。
(壁の花、壁の花っと)
ハルカは早々に壁際に移り、会場の様子を眺めることにした。
悪役ムーブをするにしても、早々というわけにはいかない。夢中になっている時にこそ、咄嗟のアクシデントに注目が集まるため、気がまだ散っている今の状態ではあまり印象が残らないと判断した。
一方で―――
『アリス様、その方はもしや……』
『おぉ! アリス様ほどのお方であれば『剣姫』をも部下として手元に置けるとは!』
『もしよろしければ、是非ともご挨拶を!』
アリス達は、開始早々大勢の貴族達に囲まれ始めた。
流石は第一王女といったところか。エルザという冒険者の中でトップクラスの実力を誇る女の子が傍に居るのも要因だろう。
加えて、二人共群を抜いて容姿が整っているため、そういう意味で近づいて来る貴族もいるのかもしれない。
おかげで、アリスとエルザは一気に会場の中心へと登り詰めていた。
「(あなたのおかげで変な誤解を受けているのですが、どうしてくれるのですかクソ貧乳?)」
「(いやいや、私に感謝してほしいぐらいなんですけど? いいじゃん、婚期逃す前にいい男でも見つけたら? そしたら、ハルカくんは私がゲット♪)」
「(……坊ちゃんのお願いがなければ今にでも八つ裂きにしてやれましたのに)」
「(ふふっ、超愉快愉快♪ ホルスタインの困っている姿でワインが進むのなんの!)」
なお、笑顔を浮かべている奥底で喧嘩が勃発されているとは誰も気づいていないようで。
つつがなく、アリス達の周囲は話が進んでいるようだった。
その時———
「ハルカさんっ!」
壁の花に徹していたハルカの下へ、明るい声が向けられる。
ふと視線を向けると、そこには艶やかな純白のドレスを纏ったセレシアの姿と薄青色のドレスを着たミナの姿があった。
「お久しぶりですね、聖女様。それとミナさんも」
「お久しぶりでいやがります。といっても、何週間ぶりですが」
教会で別れて以来だ。
二人もやって来るとは知っていたが、まさかこんな開始早々だったとは。
少し意外な来客に、ハルカはちょっとだけ驚いた。
「っていうか、エルザのところに行かなくていいんですか?」
エルザ大好きっ子のセレシアであれば、真っ先に向かうと思っていたのに。
ハルカが驚いた部分は、正しくここの部分である。
「流石にあれほど囲まれていれば突撃する勇気が……」
「聖女パワーで道ぐらい開けてくれそうですけどね」
「人様の談笑を邪魔するほど、私は厚かましい人じゃありません!」
どちらかというと、突貫して道を開けさせた方がエルザ達は喜ぶだろう。
あの二人は好きで囲まれているわけではないのは、作り笑いな表情を見れば一目瞭然。
しかし、優しい女の子の気遣いを無意味にはさせたくないため、ハルカは黙っておくことにした。
「それで、どうですか? 例の話は」
ハルカは壁にもたれ掛かりながらセレシアに尋ねる。
「そう、ですね……正直に言うと、この会場にはたくさんの悪意が湧いています」
ハルカの言葉を聞いて、セレシアは真剣な表情へと変わる。
しかし、どことなく悲しさが滲んでいるのは己で口にした言葉のせいだろう。
「まぁ、仕方ねぇですよ。建国を祝う場だとしても、重鎮にとっては思惑をするうってつけの場でいやがりますからね」
「まったく……貴族っていうのは恐ろしい人達だね」
「ハルカ様も、その枠組みでいやがりますが」
「僕は思惑よりも優先したいことがあるから」
そう、如何にクズ息子としてアピールするか。
どうやって己の腹を満たすかよりも、己の憧れへ近づくことの方が最優先。もちろん、アリスを取り巻く問題の方が最優先ではあるが。
「ハッ! 今にして思えば、ここには父さん達がいるんだった! ここで問題を起こせば折檻確定じゃん……ッ!」
「え、ハルカさんのご両親が来られているんですか? だったら、今すぐご挨拶にいかないと―――」
「待って、婚前の挨拶じゃないんだから結構です!」
いきなりご両親の前に同世代の女の子を連れていけば、どう解釈されるか。
ハルカは友人として挨拶に行こうとしているセレシアの腕を掴んで制止させた。
その瞬間、ハルカの視界にとある人だかりが映る。
「……あれは」
人だかりの中心。
そこには、自分よりも何歳か歳上の青年の姿があった。
アリスと同じ金髪に、闘争心溢れるいかつい顔立ち。気品というよりかはカリスマ的なオーラだろうか? そのようなものが、青年から醸し出されている。
「あぁ、あの人ですか」
ハルカの向けている視線になぞって、ミナが口を開く。
「あの人こそ、エルザ達が警戒している人でいやがりますよ」
「ってことは―――」
「えぇ」
二人の少し厳しい視線の中で、セレシアは首を傾げる。
それでも、ミナは答え合わせをするように言葉を続けた。
「ライガ・ジーレイン———この国の第二王子で、アリス様を狙っている元凶の最有力候補でやがります」
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