パーティー、開始①
建国パーティーの総参加者は約三百人。
他国との来賓を含めての数ではあるが、それにしても大きい規模である。
それ故に、毎年開かれる建国パーティー用に作られた王城の会場は想像以上に大きく、中に入ったハルカは思わず茫然と立ち尽くしていた。
(うわぁ……)
まだ時間前ではあるが、会場には多くの礼装をした参加者の面々達の姿が。
天井には巨大なシャンデリアが幾つも吊るされており、耳には演奏家達の優雅なメロディーが届いてくる。
流石は、年に一度の王国最大のパーティーというべきか? 社交界に顔を出して来なかったハルカは、悪役ムーブなど忘れて場に呑まれてしまうだけである。
一方で、ハルカの傍にたまたまいた人間も一様に少年の姿をチラチラと見ていた。
初々しい反応をしているからというのもあるだろう。ただ、それ以上に今まで顔を出してこなかった公爵家の嫡男が姿を現している方が気になっているはず。
『あの子は、もしかして噂の……』
『可愛らしい姿をしておいて、性格に難がある問題児だとか』
『どうにかして、彼を引き込みたいわね。あんな見た目してSSランクの冒険者をも凌ぐ『幼き英雄』なわけだし』
などなど、周囲の反応は三者三様。
それは風で流れる噂が届いているか届いていないかの違い。。
とはいえ、圧倒されているハルカは周囲の声など耳に届かず、ただただ会場の中を見つめていた。
その時———
「お待たせしました、坊ちゃん」
「ハルカくん、お待たせー」
ふと、横から声が掛かる。
すでに着替えていたハルカとは違って、エルザとアリスはドレスに着替える必要がある。
ハルカは「着替え終わったんだ」と、我に返って横を向いた。
すると───
「どうかな、ハルカくん?」
アリスは一回転をしてドレスを翻す。
明るい性格のアリスに似合うピンク色のドレスだ。丈が長い分肌の露出は控えめであり、あしらわれた装飾がシャンデリアに反射して輝いて見える。
普段のアリスとは違う格好なのに、アリスのよさを最大限活かしているような気がした。
「うん、すっごい似合ってる。やっぱりアリスって美人さんだよね」
「えへへー、ありがとっ♪」
ハルカの素直な言葉に、アリスは上機嫌に笑う。
それが余計にも可憐で愛らしいのだから、美少女というのは本当に恐ろしいものだ。
「坊ちゃん、私はいかがでしょうか?」
「えーっと、エルザは―――」
ふと、ハルカの言葉が一瞬止まった。
サイドに纏めていた銀髪は下ろされ、若干のカールを巻いている。いつもはすっぴんで素材そのままのよさを出していたのだが、今日は薄く化粧をしているようだ。
更に、纏っているのは夜空のような深い黒色。装飾ではなく、生地そのものが光っているのか、さながら夜空の星を見ているかのようだった。
(や、やばい……)
どうして言葉が止まってしまったのか? 言われなくても、ハルカは理解している。
見惚れていたのだ、単純に。よき理解者として一緒にいるメイドの女の子に。
(いけない、すぐに褒めないと!)
メイドに見惚れるなど、貴族失格だ―――なんて言えればよかったのだが、そう思ってしまったのは「エルザにからかわれちゃう!」といったもの。
だから、ハルカはすぐに―――
「ふふっ、見ましたか坊ちゃんの反応を? これこそ胸の大きい女性が好きだという証拠です」
「ぐぬぬぬ……ッ!」
───口を開くのをやめた。
こいつは褒めようが褒められようがすぐにからかってくる。
「そういえば、アリスはこっちにいていいの? 王族だったら、別の場所にいなきゃいけないとか」
「あー、いいのいいの。挨拶とかそういうのは国王と上のお兄ちゃん達がすることになってるし」
それに、と。アリスは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「あいつらと一緒にいたら何かあった時に守ってもらえないから。こればっかりは、ハルカくん達には申し訳なく思ってる」
誰がやったのかは目星がついている。
それなのに、わざわざ敵の懐まで行く必要はないだろう。
加えて、この会場には警備の騎士こそいるものの、れっきとした一人の護衛というのはいない。気兼ねないパーティー……というのを、楽しめなくなってしまうからといったことらしい。
故に、この中で最も信頼のおける最高の護衛の傍に居るしかないのだ。
「ううん、そんなこと言わないでよ。女の子が困ってるのに、見過ごすほど僕は腐っちゃいないし」
「ハルカくん……」
「だからさ、エルザ」
そう言って、ハルカは横にいるエルザに視線を移した。
その瞳が何を訴えているかなど、唯一の理解者であるエルザは理解している。
「不本意ではありますが、承知いたしました」
今日一日、アリスの護衛をしろ。
男であるハルカは、時と場合によっては一緒にいられないこともあるだろう。
その点、平民でありメイド、同性であるエルザであればきっちりとアリスを守れるはずだ。
―――悪意は、聖女が協力してくれることになっている。
あとは最も対処ができる人間が傍に居れば完璧だ。
「……ありがとね、ハルカくん」
ボソッと、アリスは口にする。
確かな、心の底からのお礼。
それを口にしたアリスの頬は、薄く朱に染まっていた。
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