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王位継承権争いは、現在六人の兄妹によって行われている。
振り返って話すが、この争いは次期国王を決める争いだ。
最終的な決定は現国王の一人によって決められる。採点方法は国への貢献度、影響度によって下されるのだが、これといって選挙や明確なボーダーラインが強いられているわけではない。
そのため、躍起になる人間もいれば、アリスのようにそもそも興味を持たずに傍観者に徹する人間も出てきてしまう。
いくら六人の兄妹で争うと言っても、蓋を開けてみれば本気で王座に就きたい少数で戦っているのだ。
それでも、アリスが命を狙われているのは何故か?
単純にルールが明確でないからこそ国王になってしまう可能性があるからだ。
戦いを挑む気も商品がほしいわけでもないのに狙われるのは、土俵にあがっているが故。
国王がアリスを指名した時点で、アリスは否が応でも国王にならなくてはいけなくなる。
そして、アリスは兄妹の中でも三番目に周囲からの指示がある。
今までのアリスを見ているハルカが聞けば「え、噓でしょ?」と思うかもしれないが、長女、気さくに話しかけてくれる性格、国への貢献度、戦闘向きではないもののれっきとした魔術を扱えること。
それらを纏めて、アリスは兄妹の中でも三番目に周囲への影響が大きく、実際に他の兄妹や周囲の貴族からの支持も厚い。
だからこそ、アリスは命を狙われている。
過激……と分類される己の兄妹によって―――
「あァ? アリスが大聖堂に行った、だと?」
王城にあるとある一室。
そこで短く刈り上げた金髪の青年が、一人の騎士の話を聞いて瞳を鋭くさせた。
「はい、どうやら聖女様に出会われたみたいです」
「なるほどなぁ……大方、建国パーティーで身を守ろうって魂胆だろ。聖女の特質さえあれば、仕掛けようとした時点で俺達の行動は防がれる。同時に、アリスへ確証も証拠も押さえられるだろうなァ」
聖女は悪意を感じ取れる。
それは明確に、鮮明に、悪意の種類にまで及び、噂によると『聖女がいればどんな犯罪も未然に防げる』と言われるほど。
故に、聖女がアリス側へ回った時点で建国パーティーではこちらからは仕掛けられないことになる。
アリスが身を隠してしまった時点で、狙う機会は建国パーティーに限られる。故に、なんとも痛い話であった。
「ったく、小賢しい真似してくれるぜェ」
金髪の青年―――この国における王族であり、軍のほとんどを取り纏める第二王子であるライガは、清々しい表情で天を仰いだ。
「兄貴を直接狙いたいのは山々。とはいえ、剣聖が向こうに就いている時点で不可。逆に兄貴がアリスを狙ってくれればいいんだが、博愛主義のあいつはそもそもその考えがねェ。下を蹴落とす方法がまた一つ減ったなァ」
ライガは過激派だ。
毎回国王が変わる度に行われる王位継承争いで生まれる異質。
今回、目立って王位を争っているのは第一王子、第二王子である。
その一対に立っているライガは、兄妹に向ける愛情というのが希薄であり、己のためならそもそも殺しても構わないと思っていた。
もちろん、表立って殺してしまえば自身の評価が下がって一気に王位継承権争いから脱落。加えて、極刑になるだろう。
―――それでも、殺る。
何せ、この方が確実で一番楽に相手を蹴落とせるのだから。
故に、ライガはアリスを殺害する方の選択を取った。第一王子には強力な護衛がいるために諦めたが、下を蹴落とすならそう難しくはない……そう思っていた。
「そもそも、前の襲撃で殺せなかったのが意外だったな。正直、あそこでくたばると思っていたんだが」
「……流石に『剣姫』が相手では難しいかと」
「馬鹿か、んなことは分かってんだよ。あれはそもそも襲撃のカウントにすら入ってねェ―――あの時は、噂の『剣姫』が本当にアリスの味方についたか確認しただけだ」
「では、どのことでしょうか?」
「盗賊使って襲わせただろ、その話だ」
騎士はライガの発言で思い出す。
一回目……パーティーの帰り道で、少数になったところを盗賊に襲わせた。
確か、あの時は噂の『幼き英雄』が偶然居合わせたからだとか―――
「まぁ、『剣姫』が仲間になってしまったのは仕方ねェ。ここで別の方向を考える」
「別の方法……ということは、正攻法で蹴落とされますか?」
「いいや、方針は変えねェ。もう一回『幼き英雄』が出張ってくることはないだろうからなァ。『剣姫』は確かに厄介だが、あいつだけならやりようもある……聖女の件含めて、だ」
そう言って、ライガは近くにあったイヤリング型の通信魔道具に手を伸ばす。
そして、ゆっくりとボタンを押した。
『なんだ、唐突に? いきなりレディーに電話してくるとは、随分とそちらも暇人のようだな』
聞こえてくるのは、落ち着いた女性の声。
それに対し、ライガは騎士と話す時と同じ調子で口を開いた。
『暇なもんかよ、こっちはこっちで忙しいんだ』
『なら、手短に済ませてくれたまえ。正直、貴様とは利害があっても価値観が違いすぎて話すだけで不快なんだ』
『あ? 随分な言いようじャねェか……教会にたんまり金をやったろ。忘れたか?』
『…………』
『金がいるんだろ? 戦争をするにしても、てめェらの思想とやらを叶えるためにもよォ』
電話の向こうから沈黙が続く。
しかし、それも数十秒だけ。
『……用件は?』
『なァーに、大したことじゃねェさ』
ライガは口元を歪ませて、通話越しの相手に言い放った。
『ちょっくら、頼みがあるんだわ……
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