ミナという聖騎士

 ミナという少女が現れてから、ハルカ達は何故か大聖堂へと通された。

 先程まではエルザ以外は門前払いの空気だったというのに、不思議なものである。


 大聖堂の中は、ハルカの思っている以上に幻想的であった。

 木漏れ日を反射して輝くステンドグラスがあちらこちらに広がっており、壁も柱も黒や鼠色ではなく白を基調とした色を使用している。

 同じ国だというのに、ここだけ違った世界みたいだ。

 そんな感想を、ミナについて行くように歩いているハルカは抱いた。


「ねぇ、なんで私達まで中に入れてくれたの?」


 ハルカが抱いていた疑問を、アリスが歩きながら尋ねる。

 甲冑を鳴らして先を歩くミナは顔だけ振り向いて答えた。


「まぁ、本来だったら入れねぇんですけど……そっちの彼には恩義がありやがりますから」


 はて、なんで僕? そうハルカは首を傾げる。

 一方で───


(戦争を終わらせたのがバレておりますね)

(戦争に首を突っ込んだのがバレてるねー)


 色々と察しがいいわけでもないはずの女の子達は、発言の意味をなんとなく理解した。


「そもそも、王女様がいやがるのに無下に帰すっていうものおかしな話でいやがるんですよ。状況が状況であっても、護衛を固めるとか場所を考えるとかで礼節ぐらいは弁えねぇと」

「ねぇねぇ、その礼節をもしよろしかったらこのホルスタインに教えてあげてもらえないかな? こいつ、礼儀常識とかそこら辺が胸にしか集まってないから」

「失敬な、私はこれでも敬いは忘れないメイドですよ」

「嘘つけ」

「ただ、アリス様には敬うべき胸がないというだけで───」

「〇△※×〇□▲ッッッ!!!」

「アリスその顔と発言は流石に清らかなこの場所ではマズイッ!!!」


 暴れ出しそうなアリスをなんとかホールドで抑え込むハルカ。

 王女に対してこの体勢で止めるのはいかがなものかと思うが、今回ばかりは致し方ない。

 本当に、このまま離してしまえば暴れ馬がどうなるか分からないのだ。


「ふぅー……ふぅー……ッ!」

「どうどう……そうだ、深呼吸だよ、アリス」

「面白い人達でいやがりますね」

「あなたも混ざりますか?」

「お年頃の女の子的には混ざった方が面白いでいやがるんですけど、そうなれば流れはエルザの首狙いになりやがりますが?」

「ではやめておきましょう……のミナを相手にするのは面倒です」


 途中出てきたワードに、アリスを落ち着かせていたハルカは首を傾げる。


「序列?」

「聖騎士の中には序列っていうもんがあるんですよ」


 ハルカの疑問に、ミナは歩きを進めながら答える。


「信仰度、歴、寄付額……色々な基準はありますが、その中でもやっぱり実力ですね。それで聖騎士の間で階級みたいなもんがつくんですよ」

「ミナは歴こそ浅いものの、実力で聖騎士の序列三位まで食い込みました」

「へぇー……強いんですね」


 ハルカが悪役らしくもなく純粋に感心したように頷く。

 見た目は自分と同じぐらいだというのに、それぐらいとは。聖騎士の人数も各国の騎士に比べれば少ないが、トータルで少ないというわけでもない。

 その中で三番目だというのは、素直の凄いことだ。きっと、王国の騎士などネームだけでも相手にならないほどだろう。

 しかし───


「(あなたの方が強いじゃねぇですかってツッコミはなしでいやがりますよね?)」

「(えぇ)」

「(ハルカくんのためを思ってお口チャック必須だよ)」


 感心しているハルカを他所に、何故か三人がヒソヒソと話し合う。

 何故急に、と。ハルカは本日何度目かも分からない疑問を抱くのであった。

 しかし、それでもハルカを他所に三人は話を続ける。


「(しっかし、噂には聞いていやがりましたが……『幼き英雄』っていうのもよく分かんねぇ人っすね。マジであのマントを着て気づかれてないと思っていやがるんですか?)」

「(そこが可愛いのではありませんか!)」

「(そこが可愛いんじゃん!)」

「(え、これって私がアウェーなんですかね!? 一回助けられたら瞳をハートにしなきゃいけねぇんですか!?)」


 とはいえ、その話も単にハルカの可愛さの話であって。

 ついていけないミナは思わず驚いてしまった。


「って、それより───」


 ミナがふと足を止める。

 すると、目の前にはいつの間にか大きな扉が進路を塞いでいた。


「この中に聖女様はいやがります。事前にさっき話は通しておきましたので、問題なくささーっと入ってください」

「では、遠慮なく」


 エルザがハルカを先に入らせるように、扉を引いた。

 ハルカはいつもされているからか、流れるように先に一歩中へと入る。

 室内は一言で言うと礼拝堂。大聖堂の中よりもビッシリとステンドグラスが敷き詰められ、奥にはパイプオルガンと教壇、巨大な女神の象が立っていた。

 ただどこか普通の礼拝堂と違うのは、中央に長椅子ではなく来客用のソファーとテーブルが置かれてあることだろう。


 そして、そのソファーには一人の少女が座っていた。


「初めまして……と言っても、エルザさんはお久しぶりです」


 艶やかな金の髪が神々しく光り、どこか神秘的に映る。

 あどけない顔立ちと小柄な体躯は幼さを見せるものの、どこか異様な雰囲気がただの少女だと思わせてくれない。

 そんな少女は立ち上がり、ハルカへと体を向けた。


「女神様より聖女のお役目を頂戴しております……セレシア・エメラルと申します」


 ハルカは、少女のエメラルドの双眸に思わず目を奪われてしまった。


 ───これが聖女。


 世界的に信仰されている宗教の、象徴たる人物だ。

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